第13話 迎えたくない朝

魔王になってしまった。

だけど、俺の姿も声も、変わっちゃいない。

それでも──何かが、確実に壊れていた。


大切な人に本当のことを言えないまま、

「戦い」が、近づいてくる。


これは、“迎えたくなかった朝”に起きた、

世界で一番、残酷で、優しい再会の物語。



そうだ、俺は──魔王になった。


姿も声も、何も変わっちゃいない。

だけど、この身に流れるものはもう、人間のそれじゃない。


あれから何人もの命を、この手で断ってきた。

魔王として、生きる術を必死に学びながら。


ナーヴァには、いつか真実を話さなければと、ずっと思っていた。


──そんなある日、背中に視線を感じて振り返ると。


風に揺れる草の陰から、懐かしい耳と尻尾が、じっとこちらを見つめていた。


グラウブ

「ナーヴァ……もし俺が、いなくなったら。

お前は、どうやって生きていく?」


「ずっと俺と一緒じゃ、故郷にも帰れない。親にも……会えないだろ」


ナーヴァ

「……グラウブがいたから、俺はここまで来られたんだ。

だからそんな、悲しいこと言わないでよ」


「……俺にとってグラウブは、親みたいなもんなんだからさ」


グラウブ

「……逞しくなったな。あんなに小さかったのに、もう14か。

もう2年も経ったんだな……早いな」


──俺は今、“観測者”フライネの力を借りて、メストアの居場所を掴んでいる。

決着をつける時は、すぐそこに迫っていた。


ナーヴァ

「これから、すごい敵と戦うんだろ? 楽しみだ!」


グラウブ

「……楽しみ、ね。

……相手は、“あの”水色髪のメストアだぞ」


ナーヴァ

「わかってるよ、なんとなく。

でもさ、負けること考えるやつがどこにいるんだよ、ばーか!」


──その威勢が、今は何より救いだった。


けど、本音を言えば──メストアを殺さなきゃいけないのは、やっぱり……嫌だ。



メストア(心の声)

「ついに、あの“魔王”と戦う時が来た」


「こんなに待ち望んだ日は、今まで一度もなかった。

この手で決着をつける。あの人に、“何か”を証明するために」


アルベリス(心の声)

「やっと……やっと会えるのね」


「転生してから2年。

姿が変わっていなくても、あなたが魔王になっていても、

私だけは、見つけられる──愛してるって、言えるかな」


「この気持ちを伝える準備なんて、何度生まれ変わっても足りない」



ナレーション:

思いが交差する。


草原の一本道。

夜が明ける、その瞬間。

舞台は整い、運命は静かに加速していく。


互いの馬車が、まるで引き寄せられるように近づいていく。

止まりたくないのに、止まってしまうように──


(朝日が昇る)


グラウブ(心の声)

「え……アルベリス?」


メストア(心の声)

「え……グラウブさん……?」


アルベリス(心の声)

「やっと、会えた。姿は変わらないのに……

なのに、確かに感じる。魔王の覇気。

……どうすれば、自然に近づけるかしら」



三人の視線が交差し、朝日がその輪郭を照らす。


どんな運命を背負っていても、

どれだけ言葉を尽くしても、

それでも──


「どうして、世界はこんなにも残酷なんだろうか」



次回予告


第14話『シュラハトフェルト(戦場)』

──すべてが決まる、残酷な戦場へ。




再会は、嬉しいだけじゃない。

言えなかった言葉、踏み込めなかった想い、変わってしまった立場。


三人の心が、やっと交差した朝。

でもそのぬくもりの先には、戦場しかなかった。


14話『シュラハトフェルト(戦場)』

愛も、正義も、すべてを壊す覚悟で──。

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