第13話 迎えたくない朝
魔王になってしまった。
だけど、俺の姿も声も、変わっちゃいない。
それでも──何かが、確実に壊れていた。
大切な人に本当のことを言えないまま、
「戦い」が、近づいてくる。
これは、“迎えたくなかった朝”に起きた、
世界で一番、残酷で、優しい再会の物語。
*
そうだ、俺は──魔王になった。
姿も声も、何も変わっちゃいない。
だけど、この身に流れるものはもう、人間のそれじゃない。
あれから何人もの命を、この手で断ってきた。
魔王として、生きる術を必死に学びながら。
ナーヴァには、いつか真実を話さなければと、ずっと思っていた。
──そんなある日、背中に視線を感じて振り返ると。
風に揺れる草の陰から、懐かしい耳と尻尾が、じっとこちらを見つめていた。
グラウブ
「ナーヴァ……もし俺が、いなくなったら。
お前は、どうやって生きていく?」
「ずっと俺と一緒じゃ、故郷にも帰れない。親にも……会えないだろ」
ナーヴァ
「……グラウブがいたから、俺はここまで来られたんだ。
だからそんな、悲しいこと言わないでよ」
「……俺にとってグラウブは、親みたいなもんなんだからさ」
グラウブ
「……逞しくなったな。あんなに小さかったのに、もう14か。
もう2年も経ったんだな……早いな」
──俺は今、“観測者”フライネの力を借りて、メストアの居場所を掴んでいる。
決着をつける時は、すぐそこに迫っていた。
ナーヴァ
「これから、すごい敵と戦うんだろ? 楽しみだ!」
グラウブ
「……楽しみ、ね。
……相手は、“あの”水色髪のメストアだぞ」
ナーヴァ
「わかってるよ、なんとなく。
でもさ、負けること考えるやつがどこにいるんだよ、ばーか!」
──その威勢が、今は何より救いだった。
けど、本音を言えば──メストアを殺さなきゃいけないのは、やっぱり……嫌だ。
⸻
メストア(心の声)
「ついに、あの“魔王”と戦う時が来た」
「こんなに待ち望んだ日は、今まで一度もなかった。
この手で決着をつける。あの人に、“何か”を証明するために」
アルベリス(心の声)
「やっと……やっと会えるのね」
「転生してから2年。
姿が変わっていなくても、あなたが魔王になっていても、
私だけは、見つけられる──愛してるって、言えるかな」
「この気持ちを伝える準備なんて、何度生まれ変わっても足りない」
⸻
ナレーション:
思いが交差する。
草原の一本道。
夜が明ける、その瞬間。
舞台は整い、運命は静かに加速していく。
互いの馬車が、まるで引き寄せられるように近づいていく。
止まりたくないのに、止まってしまうように──
(朝日が昇る)
グラウブ(心の声)
「え……アルベリス?」
メストア(心の声)
「え……グラウブさん……?」
アルベリス(心の声)
「やっと、会えた。姿は変わらないのに……
なのに、確かに感じる。魔王の覇気。
……どうすれば、自然に近づけるかしら」
⸻
三人の視線が交差し、朝日がその輪郭を照らす。
どんな運命を背負っていても、
どれだけ言葉を尽くしても、
それでも──
「どうして、世界はこんなにも残酷なんだろうか」
⸻
次回予告
第14話『シュラハトフェルト(戦場)』
──すべてが決まる、残酷な戦場へ。
*
再会は、嬉しいだけじゃない。
言えなかった言葉、踏み込めなかった想い、変わってしまった立場。
三人の心が、やっと交差した朝。
でもそのぬくもりの先には、戦場しかなかった。
14話『シュラハトフェルト(戦場)』
愛も、正義も、すべてを壊す覚悟で──。
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