第5話 疑いと真実
(木漏れ日の差す、いつもの帰還の道――)
グラウブ(心の声)
「やっと戻った……でも、なんだ、この空気……ナーヴァが、おかしい」
(ナーヴァは俯いたまま、微動だにしない。目も合わそうとしない)
グラウブ
「ナーヴァ? 何かあったのか?」
ナーヴァ(震える声)
「……もう、いいよ……」
(肩がわずかに揺れる。声はかすれていて、
でも鋭く刺さる)
ナーヴァ(うつむいたまま)
「……お前、まだ僕のこと……怖いんだろ? またいつか、刺されるかもしれないって……」
グラウブ(食い気味に)
「違う!! 俺は、お前を信じてる!!」
(――はずだった。だが、自分の声に自分が揺れた)
グラウブ(心の声)
「……なんだよ……なにか、間違えたか? あいつ、まだ俺を……」
(ナーヴァは立ち上がり、足をふらつかせながらも扉を開ける)
ナーヴァ
「もう限界だ! こんなところ、出て行く!」
グラウブ
「待て、ナーヴァ!!」
(森へと消える足音。追いかける。揺れる思考)
⸻
(森の奥、冷たい空気の中で)
黒装束の男
「見つけたぞ、生き残りの“銀狼”」
(ナーヴァを掴む手、引き寄せられる腕。目を見開き、恐怖で震える少年)
⸻
(グラウブ、木陰に潜みながら状況を見守る)
グラウブ(心の声)
「……あいつを、連れ去る気か……!」
(岩陰から動こうとした瞬間、洞窟の奥へと連れ込まれるナーヴァ)
⸻
(冷たい岩肌に背を預け、ナーヴァが震えながら呟く)
ナーヴァ
「グラウブ……怖いよ……このまま、殺されちゃうのかな……」
(小さな声、小さな命。それでも、彼はその中に“希望”を求めていた)
ナーヴァ
「……また会いたいよ、グラウブ……」
(次の瞬間、全身を覆う光と影が弾ける)
ナーヴァ
「う、うあああああああああっ!!」
(爆発するような魔力。洞窟が揺れる)
⸻
(その気配に気づき、グラウブが駆け込む)
グラウブ
「ナーヴァ――!!」
(目の前に広がる地獄。焼け焦げた死体、斬り裂かれた岩壁)
(そして、血まみれの銀色の獣――ナーヴァ)
グラウブ
「まさか……お前がやったのか……?」
(ギラついた獣の瞳が、グラウブを射抜く)
(咆哮――飛びかかる影――かろうじて受け流す)
グラウブ(心の声)
「やめろ、ナーヴァ! 俺だ、グラウブだ!!」
(返答はない。理性は失われ、ただの獣がそこにいた)
⸻
(激しい攻防。傷を負いながらも、グラウブは体ごとナーヴァを抑え込む)
(喉元に腕をかけ、押し倒しながら叫ぶ)
グラウブ
「……戻ってこい!!」
(だが――その体温、鼓動、呼吸――すべてが異常だった)
(毛が抜け落ちる。爪の根元が赤黒く染まる)
グラウブ(心の声)
「おい……まさか……この力、代償が……」
(自分が使った“治癒”が、命を削っている?)
(蘇る記憶――)
フライネの声(過去の記憶)
「正義を選んだ君は、死を招く。……さあ、それが“誰の死”か、観測してごらん」
グラウブ(心の声)
「違う……あれは、“俺が”じゃない。“俺の魔法を受けた奴”が……?」
(全身が冷える)
(癒したはずのナーヴァが、死に向かっている)
(守ったつもりで、削っていた)
グラウブ(震える声)
「ナーヴァ……お前、俺が“治した”から……命、削られてんじゃねぇのか……?」
(拳を握りしめる。壁を殴る。血が滴っても、痛みは足りなかった)
(ナーヴァの目が、微かにこちらを見た)
ナーヴァ(弱々しく)
「……グラ……ウブ……?」
(その瞬間、グラウブはそっとナーヴァを抱きしめた)
グラウブ(静かに)
「もういい……もう、“強いる魔法”は、使わねぇ……」
(その言葉に根拠はなかった。ただの祈りだった)
⸻
(夜は静かだった。あまりにも、残酷なほどに)
(その闇の中で、グラウブの“正義”は音もなく崩れていった)
⸻
次回予告
第6話『仮面の
ナーヴァの暴走の真相。
“癒し”のはずだった魔法が、もたらしたものは――
現れるのは、仮面の男フライネ。
過去も未来も語らず、“ただ観測する”と言う彼は、
グラウブの“選んだ正義”に対し、静かに言葉を投げかける。
「ああ、君はまた“同じこと”をしてしまったのか――」
グラウブの手が誰かを救うたび、
その代償が、少しずつ“何か”を奪っていく。
それが正義か、それとも呪いか。
彼の行動がもたらす罪と真実が、
静かに、しかし確実にその輪郭を現し始める。
*
ここまで読んでくださってありがとうございます!
第5話は、物語の“最初の転機”を迎える回でした。
グラウブの力は本当に癒しなのか、ナーヴァが背負うものは何なのか。
フライネの登場によって、少しずつこの世界の“本当のルール”が見え始めます。
もし何か感じるものがあれば、感想などで聞かせてもらえると、とても励みになります!
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