第6話 仮面の男《フライネ・シルクハット》

夜の森に響いたのは、“仮面の道化”の不気味な声。


眠るナーヴァを背に、グラウブはひとり思考する。

正義とは何か。守るとはどういうことか。

そして現れる、“自由”を名乗る男――フライネ・シルクハット。


静寂の中で交わされる、言葉と信念のやり取り。

そこに仕掛けられた問いかけが、グラウブを揺るがしていく。


静かに進んでいた物語が、ここから一段、深く沈んでいきます。



──焚き火もない夜の森。

ナーヴァを寝かしつけたグラウブは、ただ静かに座っていた。

黒髪が風に揺れ、揺らぐ“正義”が目に宿る。


グラウブ(独白)

「……ナーヴァを、これ以上……壊させるわけには……」


???

「お困りのようですねぇ?」


(気配もなく背後から現れたのは、仮面の道化)


──銀髪に吸血鬼のような黄色い目。

異様に背の高いその男は、仮面の奥で笑っていた。


フライネ・シルクハット

「お忘れですか? 私です、“自由”の申し子――フライネ・シルクハット」


(道化帽をつまんで、優雅に一礼)


グラウブ

「……何の用だ」


フライネ

「“正義”、使いましたね?」


(グラウブの目が揺れる)


フライネ(愉快そうに)

「ハハハ! 少年を戦わせておいて、君は“守った”と言う。

……素晴らしい。“自由”の勘違いっぷりが!」


(グラウブの胸に、言葉が刺さる)


フライネ(仮面越しに、鋭く)

「まだ気づいてませんか? 君の魔法の“本当の性質”に」


グラウブ

「……どういう意味だ」


フライネ(静かに告げる)

「“癒やした者”は、君の正義を背負わされる。

応えられなければ──罰を受ける」


「命を削り、心を壊し、ときに……死ぬ」


グラウブ(苦しげに)

「……ナーヴァも……そうだというのか」


フライネ

「えぇ。君に“救われた”瞬間から、彼は犠牲者になった。

自分で選んだように見せかけて、ね」


(拳を震わせるグラウブ)


フライネ(冷たく)

「いっそ君が死ねば、全て終わりますよ?」


グラウブ(静かに)

「俺が死ねば、ナーヴァもアルベリスも死ぬ……

……この呪われた連鎖、必ず外す方法があるはずだ」


「──でも、お前なら……知ってるんじゃないのか?

この地獄から抜け出す方法を……!」


フライネ(にやりと笑う)

「ありますとも。ただし──条件が一つ」


グラウブ

「……条件?」


フライネ

「あなたが、“魔王”になることです」


(その言葉に、空気が凍る)


「“勇者”が理想を掲げ、正義で裁こうとする世界で──

“魔王”だけが、それに抗える。」


「あなたならできる。なぜなら、あなたは“物語の外側”にいる存在だから」


グラウブ(震える)

「……まさか、“勇者メストア・ドグマ”……」


フライネ

「ええ、あの男こそが、“完璧すぎる理想”そのもの。

だが、だからこそ最も危うい」


「私を守るのが、あなたの条件。皮肉ですね。

“呪い”を与えた私を、あなたが助ける」


「なぜか? それが“正義”ではないからですよ」


「魔王になれば、生きられるかもしれませんよ?」


グラウブ(言葉を飲み込む)


(脳裏に浮かぶ、ナーヴァの寝顔。小さな命。

その重さが、自分の正義よりもずっと大きく感じた)


グラウブ

「……明日、メストアに会う。

そのとき、答えを出す」


フライネ(満足げに)

「ふふ、人生とは選択ですからね」


(夜が深まり、仮面の笑みが闇に溶ける)



次回予告

第7話『勇者メストア・ドグマ』


「正義を信じる君が、魔王になるのか。

理想を貫く僕が、それを裁くのか。……理想だ」


伝説の勇者、メストア・ドグマ。

その“理想”が牙をむくとき、グラウブの“正義”が試される。


信仰と理想のぶつかり合いが、物語を加速させる。



ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


今回登場したフライネは、「自由」という言葉を軽やかに操りながら、

登場人物たちの“正義”や“信仰”を問いただす存在です。


グラウブの魔法に潜む“裏の効果”もついに明かされ、

物語は静かに、でも確実に“堕ちて”いきます。


次回は、“理想”を信じる完璧な勇者・メストアが登場。

正義と理想、そして“魔王になるかもしれない男”グラウブが交差する第7話も、ぜひお楽しみに。

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