第6話 仮面の男《フライネ・シルクハット》
夜の森に響いたのは、“仮面の道化”の不気味な声。
眠るナーヴァを背に、グラウブはひとり思考する。
正義とは何か。守るとはどういうことか。
そして現れる、“自由”を名乗る男――フライネ・シルクハット。
静寂の中で交わされる、言葉と信念のやり取り。
そこに仕掛けられた問いかけが、グラウブを揺るがしていく。
静かに進んでいた物語が、ここから一段、深く沈んでいきます。
*
──焚き火もない夜の森。
ナーヴァを寝かしつけたグラウブは、ただ静かに座っていた。
黒髪が風に揺れ、揺らぐ“正義”が目に宿る。
グラウブ(独白)
「……ナーヴァを、これ以上……壊させるわけには……」
???
「お困りのようですねぇ?」
(気配もなく背後から現れたのは、仮面の道化)
──銀髪に吸血鬼のような黄色い目。
異様に背の高いその男は、仮面の奥で笑っていた。
フライネ・シルクハット
「お忘れですか? 私です、“自由”の申し子――フライネ・シルクハット」
(道化帽をつまんで、優雅に一礼)
グラウブ
「……何の用だ」
フライネ
「“正義”、使いましたね?」
(グラウブの目が揺れる)
フライネ(愉快そうに)
「ハハハ! 少年を戦わせておいて、君は“守った”と言う。
……素晴らしい。“自由”の勘違いっぷりが!」
(グラウブの胸に、言葉が刺さる)
フライネ(仮面越しに、鋭く)
「まだ気づいてませんか? 君の魔法の“本当の性質”に」
グラウブ
「……どういう意味だ」
フライネ(静かに告げる)
「“癒やした者”は、君の正義を背負わされる。
応えられなければ──罰を受ける」
「命を削り、心を壊し、ときに……死ぬ」
グラウブ(苦しげに)
「……ナーヴァも……そうだというのか」
フライネ
「えぇ。君に“救われた”瞬間から、彼は犠牲者になった。
自分で選んだように見せかけて、ね」
(拳を震わせるグラウブ)
フライネ(冷たく)
「いっそ君が死ねば、全て終わりますよ?」
グラウブ(静かに)
「俺が死ねば、ナーヴァもアルベリスも死ぬ……
……この呪われた連鎖、必ず外す方法があるはずだ」
「──でも、お前なら……知ってるんじゃないのか?
この地獄から抜け出す方法を……!」
フライネ(にやりと笑う)
「ありますとも。ただし──条件が一つ」
グラウブ
「……条件?」
フライネ
「あなたが、“魔王”になることです」
(その言葉に、空気が凍る)
「“勇者”が理想を掲げ、正義で裁こうとする世界で──
“魔王”だけが、それに抗える。」
「あなたならできる。なぜなら、あなたは“物語の外側”にいる存在だから」
グラウブ(震える)
「……まさか、“勇者メストア・ドグマ”……」
フライネ
「ええ、あの男こそが、“完璧すぎる理想”そのもの。
だが、だからこそ最も危うい」
「私を守るのが、あなたの条件。皮肉ですね。
“呪い”を与えた私を、あなたが助ける」
「なぜか? それが“正義”ではないからですよ」
「魔王になれば、生きられるかもしれませんよ?」
グラウブ(言葉を飲み込む)
(脳裏に浮かぶ、ナーヴァの寝顔。小さな命。
その重さが、自分の正義よりもずっと大きく感じた)
グラウブ
「……明日、メストアに会う。
そのとき、答えを出す」
フライネ(満足げに)
「ふふ、人生とは選択ですからね」
(夜が深まり、仮面の笑みが闇に溶ける)
⸻
次回予告
第7話『勇者メストア・ドグマ』
「正義を信じる君が、魔王になるのか。
理想を貫く僕が、それを裁くのか。……理想だ」
伝説の勇者、メストア・ドグマ。
その“理想”が牙をむくとき、グラウブの“正義”が試される。
信仰と理想のぶつかり合いが、物語を加速させる。
*
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
今回登場したフライネは、「自由」という言葉を軽やかに操りながら、
登場人物たちの“正義”や“信仰”を問いただす存在です。
グラウブの魔法に潜む“裏の効果”もついに明かされ、
物語は静かに、でも確実に“堕ちて”いきます。
次回は、“理想”を信じる完璧な勇者・メストアが登場。
正義と理想、そして“魔王になるかもしれない男”グラウブが交差する第7話も、ぜひお楽しみに。
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