第2話 破滅の生還

(ガバッ!!)


グラウブ

「……ッ!? ここは……森か……?」


(黒髪の青年が身を起こす。短く整えられた髪が湿った土と煤で汚れ、

 正義を信じる鋭い眼差しが、ぼんやりとした視界を走る)


(右手の甲には、焼け焦げたような不気味な印が浮かんでいた)


グラウブ

「……なんだこれ……」


(その時──)


???

「やあ、グラウブ君。起きたね。ここがどこか、わかるかい?」


(現れたのは、仮面をつけた長身の男。銀髪を風に揺らし、黄色い一重の目が、どこか見下すように光る)


グラウブ

「お前は……誰だ。……それに、俺は──」


(フラッシュバックのように焼き付く、爆炎、絶叫、アルべリスの微笑み──)


「っ……アルべリスは……!? 彼女は……無事なのか……!?」


(男はわずかに目を細め、やがて静かに言った)


???

「結論から言おう。君たちは、死んだ」


(静かな声が、森の空気を切り裂く)


グラウブ

「……くそっ……やっぱりか……」


(拳を強く握りしめる)


「……じゃあ、なんで俺は生きてる?」


???

「ここは異世界さ。君の知っている世界とは別の場所。僕の魔法で連れてきた」


「……正義の魔法を使う君が、どうなるのか見てみたくなってね。あの時から、ずっと“見てた”んだよ」


グラウブ

「見てた……? お前、何者だ……」


(男はにこりと笑うが、目は笑っていなかった)


???

「……ただの観測者さ。“上から見られる能力”を持っている。それだけだよ」


(仮面の男がわずかに首をかしげ、冗談めかして言う)


???

「……ああ、ちなみに補足しておくと──」


「“君が死ねば、彼女も死ぬ”」


(グラウブの表情が止まる)


???

「ね? ロマンチックだろう?」


(グラウブ、言葉を失いながら)


グラウブ

「……アルベリスが……? なぜ……」


???(仮面の男)

「理由なんてないよ。ただ“そういう仕組み”なだけさ。君たちは運命共同体。“正義”の契約には代償がつきものだろう?」


(そして静かに告げる)


???

「君の魔法──“正義のために使えば力が宿る”……だが、“それがもたらす結果”までは、君は知らない。そうだったろう?」


グラウブ

「……っ」


???

「これから、それを“知る”ことになるだろうね。

君が正義だと思った時、その魔法がもたらすものが、何かを」


(男は背を向けて、森の奥へと歩き出す)


???

「……でも楽しみだな。君が、正義を捨てられるのか。

それとも──もう一度、誰かを殺すのか」


(不気味に笑って消える)


──


(風が止む)


グラウブ

「……くそっ、正義ってなんだよ……」


(深く息を吐いて、立ち上がろうとしたその時──)


(近くの木陰。何かが、震えている)


グラウブ

「……? 誰かいるのか?」


(近づいてみると、そこには──まだ幼い少年が、木の根元で体を丸めていた)


(黄色い短髪、褐色の肌。銀色の瞳が、怯えきっている)


少年(小さく)

「……いやだ……こわい……また、壊れる……」

「……不安だ……」


グラウブ

「おい、大丈夫か? 怪我は──」


(近づいた瞬間──)


少年

「来ないで!!」


(反射的にナイフを突き出す。グラウブの腕に切っ先が食い込む)


グラウブ

「……っ! 痛ってぇ……!」


少年(涙を浮かべながら)

「誰も、信じられない……! どうせ……また壊すんだ……!」

「……不安だ……全部……こわい……」


(ナレーション)


──そのとき、グラウブはまだ知らなかった。

この少年が、のちに彼にとってかけがえのない存在になることを。


そして、彼がこの少年に与える名前──

**“ナーヴァ”**が、“不安”という意味を持つことも、まだ知らない。


⸻ 次回予告


かつて全てを失った男は、異世界で再び“救い”に出会う。

それは小さく、怯え、壊れかけた命。


「……不安だ……」

少年が吐いたその言葉は、誰よりも深く、真実だった。


──**“ナーヴァ・アウスフューレン”**

不安を背負い、生きると誓った少年。


正義は信じ直せるのか。

愛はもう一度、芽吹くのか。

そして、誰が“真実”を語り、誰が“過去”を偽るのか。


第3話『ナーヴァ・アウスフューレン』


少年の瞳に映るのは──儚い希望、そして誰にも壊されたくないという、たったひとつの願い。


「……もう誰にも、壊されたくないんだよ」

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