第3話 ナーヴァ・アウスフューレン

少年の細い腕が、グラウブの腕を貫いた。


「……これは怒りじゃない。不安で動いた──そういうやつか」


怯えた目。震える肩。木の根元で、少年は獣のように身を縮めていた。


(この子は、ただ怯えていた──誰かに、助けられたかっただけ)


(距離を取りながら、静かに観察する)


(木の根元にうずくまる少年。細い身体を必死に縮め、全身を震わせている)

(短い黄色の髪。闇を裂く銀色の瞳。褐色の肌には無数の傷跡──)


(口元には、年齢に似合わぬ鋭い牙がわずかに覗いていた)

(まるで──獣だ)


グラウブ:

「……わかった。今は話しても無駄だな」

「ごめんな。少し寝てろ」


(そっと近づき、迷いなく顎を軽く撃つ。少年は気を失って崩れ落ちる)


(グラウブはその体を抱き、そっと魔力を流す。……が、魔法は発動しない)


グラウブ(心の声):

「……これは“正義”か? いや、違う。ただの応急処置だ。助けたいだけだ」


(自分に言い聞かせるように、もう一度──)


「……光よ、癒せ」


(淡い光が、少年の傷を包む)


──


数時間後


(天井をぼんやり見つめる少年。視界に映るのは──焚き火と、知らない男)


(目を潤ませながら、少年は震える手でグラウブにしがみつく)


グラウブ:

「……よかった。お前、名前は?」


少年(小さく):

「……ない。名前、呼ばれたことない。ずっと、“あれ”とか“実験体”とか……」


グラウブ:

「……そうか。じゃあ、俺がつけてやる」


(焚き火の火を見つめながら)


「ナーヴァ・アウスフューレン。

“不安(Nervös)を超えて動ける奴”って意味だ」


(少年は数秒固まり──)


ナーヴァ(ぽつりと):

「ナーヴァ……アウスフューレン……! すごい……かっこいい……!」


(グラウブ、小さく微笑む)


グラウブ:

「気に入ったか。じゃあ、俺が育ててやる。お前は今日から、俺の相棒だ」


──


(焚き火の前)


ナーヴァ:

「……ねえ、グラウブはどこから来たの?」


グラウブ:

「……遠い国、だ。話すようなもんじゃない」


ナーヴァ:

「ふーん……でも、なんか悲しい顔してた」


グラウブ:

「……今は聞いちゃダメなやつだ」


ナーヴァ(少しすねて):

「わかった……でも、いつか教えてね」


──


ナーヴァ:

「僕たち、これからどうするの?」


グラウブ:

「生き残る……ために、力が必要だ。俺らには足りない」


ナーヴァ:

「……じゃあ、強くなる?」


グラウブ:

「試してみよう。いいか、目を閉じろ。想像するんだ──」


「“大切な誰かが、お前のせいで傷つきそうになった”とき……」


(ナーヴァ、目を閉じ、拳を握る)


(瞬間、黒銀の光が身体中を駆け巡り──肉体が、変化する)


効果音:「ゴオォッ!!」


(狼のような耳と尻尾。風圧で木々がざわつく)


グラウブ(驚愕):

「お前……まさか……絶滅したはずの、シルバーウルフ族の“獣神化”か……!?」


(ナーヴァ、力を使い果たし、ぐったりと倒れる)

(だが──耳と尻尾だけは、そのままだった)


ナーヴァ(真っ赤な顔で):

「えっ……ええっ!? 耳!? 尻尾!! なんでぇぇぇ!?」


グラウブ(心の声):

(絶滅したはずの──シルバーウルフ族の、生き残り……?)


(焚き火の光に照らされるナーヴァを見つめ、グラウブは黙ったまま立ち尽くす)


グラウブ(心の声):

(こいつ……笑ってる。嬉しそうに……)

(でも、俺は……もしかして)

(──“何か”を、奪ってしまったんじゃないか)

(不安という名の力と引き換えに……)


(森の夜風が、二人の頬を優しく撫でた)



次回予告


第4話『休息と急速』


不安は名となり、傷は絆となる。

それでも心は、まだ過去を手放せない。


ナーヴァが見た悪夢。

グラウブが隠す過去。

そして、“観測者”の魔の手が、再び近づく。


──この時間は穏やかで、だが儚い。


「……不安だ……また、壊れてしまいそうで」


ナーヴァの瞳に映るのは、壊れそうな希望。そして──守ってほしいという祈り。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

🕯次回予告🕯

「信じることは、強さだと思っていた。けど、それは残酷な選択でもあった」

第4話では、グラウブとナーヴァの関係が大きく揺れ動きます。

正義とは何か。信頼とは何か。

その答えを探しながら進む、静かな嵐のような一話です。

次回は7/8火曜日21時に更新予定です。

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