お嫁に貰ってくださいっ!

 し、しまった……

 不意に耳に息を吹きかけられて、思わず声が出てしまった。


「へ?」


 明らかに戸惑っている幽霊さん。

 頭をフル回転させて対処法を考える。


 僕が導き出した最適解は"寝たふりを続ける"ことだ。さっきのは寝言ということにして……


 さっきから視線が痛い。

 怪しまれている……どうしよう……


「もしかして……聞こえてる?」


 恐る恐る尋ねてくる幽霊さん。その不安を孕んだ声に僕の心は動かされてしまった。この先あんな目に合うなんてこの時の僕は全く想像もしていなかった。


「……聞こえてます……」

「……ま?」

「……まじです。」

「んんっ……リピートアフターミー。赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ」

「赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ」

「……聞こえてるんだ……」


 まだ不安も抱えているが、驚きが勝っているのかテンションがバグりかけている幽霊さん。目を開けると幽霊さんの綺麗な黒い目と僕の目が合う。


「……声聞こえてるだけ?それとも……見えてる?」

「はい……見えちゃってます」

「いつから……?」

「ずっと見えてます……」


 僕がそう答える前に急に視界から消える幽霊さん。辺りを見回すと部屋の隅で縮こまっている。


「……あ、あのぉ……」

「話しかけないでっ!恥ずかしすぎて死んじゃう……」

「なんか……すみません」


 縮こまったまま"もうお嫁にいけない"などと独り言を呟く幽霊さん。


 数分後、さっきより幾分か落ち着いた幽霊さんは、部屋の隅から僕のベットの横にやってくる。するとまた視界から消えて、下を見ると綺麗に体を畳み込み土下座をしている。


「ほんとうにごめんなさい!」


 慌てて土下座を辞めさせようとするが、幽霊さんは土下座まま間髪入れずに衝撃的な発言をする。


「ボクを、お嫁に貰ってください!!」


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