君って、つまらないね

「ボクを、お嫁に貰ってください!!」


 "は?"


 戸惑いを隠せずにいると、目の前の幽霊さんは立ち上がって部屋をうろうろしながら饒舌にしゃべり続ける。


「ボクは君にあんな恥ずかしいとこ見られちゃったんだよ?もうお嫁に行けないよ……//」


 顔を赤らめながら僕を見つめてくる。


「……は?」

「なにその間抜けな顔」


 唐突にそんなこと言われたら間抜けな顔にもなるだろ。


「じょ、冗談……ですよね??」


 あまりにまっすぐな瞳が僕を見つめてくる。


「本気だよ」


 "ですよねー"

 一回落ち着こう。もちろん顔は"ド"タイプ。だからといって幽霊と結婚する、なんて趣味は僕にはない。というかお互いに名前も知らないのに結婚とか出来ない。


「……で、でもですよ?僕たちお互いに名前も知らな……」

「知ってるよ?橘瑠衣たちばなるい。十八歳。誕生日は十一月十一日。好きな食べ物は……」

「も、もういいです。わかったから」

「ね?ボクはちゃんと君のこと知ってるよ?」


 幽霊さんのことを完全に舐めていた。どこから見つけた情報なのか知らないが、本名や生年月日、好きな食べ物まで知っているなんて……。


「でも。僕はあなたの名前も何もかも知りません」

「あ、そっか。そうだね。ボクはシオンって名前。苗字は……もう少ししたら"橘"になるかな?」


 ニマニマした顔でこちらを見てくる。


「誕生日は覚えていない。今は二十歳だよ。好きな食べ物はシュークリーム。意外だろ?まぁ、今は食べられないんだけどね」


 自嘲気味に笑っている。


「ね?これでボクの事も少しはわかったでしょ?ほら、いつでもいいよ?」


 目を閉じて、少しだけ唇を突き出してこちらを向いている。いわゆる、"キス待ち顔"というやつだ。


「ほら〜早くして〜」


 目を閉じたまま急かしてくる。


「触れないんですよ?知ってるでしょ?」


 キス待ち顔をやめて、呆れたような顔で目を開ける。


「知ってるよ」

「ならなんで……」

「君って、小説書いてるくせに……つまらないね。」


 "ぐはっ"



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