特別掲載:新聞部コラム 学食パラダイス ~コロッケは歌うか~

 昼休みの食堂というものは、戦場である。

 机を囲む生徒たちの数だけ“推しメニュー”があり、それぞれに譲れぬ美学がある。

「やっぱ、ミートソースだよなー。あれと白米だけで戦える」

「いやいや、冷やしぶっかけうどん最強説。カロリーも罪悪感もゼロ」

 そんな中、私たち新聞部は、あえて問うてみたい。

 コロッケという存在の、あの“揚げ音”に、何か意味はあるのか。


■ 学食の奥で、音が鳴る

 この日、新聞部のさやか記者(私)は、部員3名とともに学食の厨房裏に潜入した。もちろん、正式な取材申請の上である。目的はただひとつ――揚げたてのコロッケの“音”を、録音すること。

「……聞こえる? このジュワッて感じ」

「ジュワッてより、ズッっていうね。波形的には低域から入って……ほら、ここ。倍音が綺麗」

 そう語るのは、我らが音響オタク・真壁。

 録音した音をさっそくタブレットに取り込み、波形を分析している。

「“うまそうな周波数”って、ほんとにあるのかな?」

「あると思う。脳が空腹と結びつける特定帯域って、研究されてた気がする」

「……で、その研究は卒論になる?」

「ならないからやってるんだよ。趣味だよ、趣味!」


■ 高村詩音(食堂にて)

「……あの、これ、使いますか?」

 と、控えめに声をかけてきたのは、後輩の高村詩音。器用にポケットから取り出したのは、業務用ICレコーダー。どこで手に入れたのかは聞かないでおこう。

「私も、音の研究してるんです。“揚げ音”って、意外と個性出ますよ」

 そう言って、彼女はコロッケとメンチカツの波形比較図を取り出した。どうやら、先に私たちと同じテーマに興味を持っていたらしい。

「これ……ちゃんとした論文の構成になってない?」

「はい、今度『食の科学と文化』の学生論文賞に出そうかなと」

 軽く言ってのけるその姿に、真壁もさやかも口をポカンと開けた。

 新聞部の、上位互換がいた。


■ 結論:コロッケは、鳴いている

 取材の最後、私たちは皆で“揚げたてコロッケ”を食べた。外はカリカリ、中はほっくり。音の余韻を感じながら、一口ごとに満ちていく満足感。

「この音、やっぱり“おいしい”って言ってるよね」

「うん、言ってる。ちゃんと、メジャーコードで鳴ってる気がする」

「何言ってるんですか?」

 そう言って笑った詩音の頬にも、ほんの少しだけソースがついていた。


■ 編集後記

 “音楽”が旋律だけでできていないように、“味”もまた、音や空気と共に生まれる。

 そう思わせてくれるコロッケの音は、きっと、音楽と同じくらい正直な記録媒体だ。

 次回予告:「美術準備室の冷やし中華、始めました」特集を予定。


(文責:新聞部記者/九条さやか)

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