第9話-2 東堂の観測〜情報の裏側②

「君も大概、意地が悪いよね。大体の察しはついているんだろ?」


 一ノ瀬は笑顔を見せながら、東堂に問いかける。


「底意地が悪いのはお互い様でしょう?

 まあ、あなたに対して腹の探り合いもしても時間の無駄なのは仰るとおりです。

 ……そうですね、目的は、学校内の恋愛事情を掌握するため、とかでしょうか?」


「まあね。僕個人としては、あまり好きな“情報“ではないんだけど、読者の皆さんはその手のゴシップが好きなのは、現実社会でも、この学園でも一緒みたいだからね。

 知っているかい?この学園の新聞でも、熱愛スクープは閲覧件数に直結するんだよ?」


「まあ、イギリスでも“ゴシップは悪魔のラジオ“と言われるくらいですからね。そんな人間の性質は世界共通なんでしょう。

 その情報を入手するために、ラブレターに対してトラウマ抱える、宮原さんを利用して、部活を立ち上げさせたこと自体は、僕も、まあ、やり方として面白いとは思っていますよ」

 東堂は本心でそう答える。品の良さ、悪さはあるにせよ、“情報“に品格など必要無いと思っている点においては、彼も同じスタンスだった。


「お、褒めてくれるのかい? 嬉しいね。

 まあ、ただ、宮原君の管理能力の乏しさについては、完全に計算外だったけどね。

 ああ、でも君の友人の探偵君が、管理システムを作ってくれたんだって?

 意外と優秀なんだね、彼女」


「まあ、探偵に類のスキルに関しては、総じて藍沢は優秀ですよ」


そう答える東堂に対して、一ノ瀬は吹き出す。


「面白い子だね。それでも、“探偵“を志す彼女の本質。

 確かに君が“観測“したがるわけだ」


不思議と、自分の感情が見透かされた気がして不愉快に感じながら、東堂は問いかける。

「一つだけ、確認させてください。恋文代行部で得られる情報は、あくまで生徒の感情のベクトルだけだ。すなわち、“結果“が出る前の情報です。

 まさか、それをそのまま記事にしようと思っていたわけでは無いですよね?」


「いや、その通りだよ」

 悪びれもしない態度で一ノ瀬が答える。


 ——やはり、そうか。心の中で東堂はため息をつく。


 どこまで行っても、その真偽を重視する東堂と、それよりもニュースとしての伝達性や意外性を重視する一ノ瀬では、情報に対しての考え方が合わないようだ。


「……やっぱり、あなたとはスタンスが合いませんね」


 そのコメントだけで、言わんとすることは伝わったのだろう。

 一ノ瀬は笑みを浮かべたまま答える。


「そうかもね。でも、“それ“を擦り合わせることは無意味だってことに前回もなっているだろう?

 そうだ、騒がせたお詫び、というわけではないが、君の最初の問いに答えようか?」

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