第9話-3 東堂の観測〜情報の裏側③
「今でこそ、メディア系部活では最も成功しているという言われている新聞部だけど、僕が入部したばかりの時は、それこそ廃部寸前だったことは知っているかい?」
3年の一ノ瀬が入部した時というと、当然東堂はまだ入学前の話ではあったが、“情報“としては知っていた。
「ええ、そこからたった2年で、部活の業績をV字回復させたのは、一ノ瀬先輩の功績が大きかったと聞いています。
それが、情報の真偽を問わないスタンスの理由だと?」
「全く、頭が冴えすぎなのも考えものだね。直ぐに結論に行きたがる。
まあ、間違ってはいないけど、もう少し感傷的に語らせてくれてもいいんじゃないの?」
一ノ瀬にそう言われた東堂は、黙って先を促すことにする。
「この学園が、“実社会の縮図“だとはよく言ったものだよね。
僕が入った時の新聞部は、まさに世の中での“新聞“の苦境を絵に描いたような状況だった。
徐々に紙媒体を読まなくなる生徒達に対して、印刷のコストは、どうしても固定費的にかかる。この部活の収支はジリ貧だったんだ」
そう話ながら、一ノ瀬は落ちていた紙、作りかけの当時の学園新聞だろうか、を拾い上げ、一瞥した後にはらりと床に落とす。
「でもね、東堂君。
それは、単純に電子媒体に変えればいいという話ではなかったんだよ。
僕は、情報のインプットは五感でされるものだと思っている。紙を捲る触覚や、インクの匂いと言った嗅覚、そういったものとセットでないと、どうしても情報ってやつは軽くなる。
電子媒体では、それらが極端に薄くなるんだ。
……ならば、どうしたらいいと思う?」
「情報自体のインパクト、濃さで勝負するということでしょうか?」
東堂は、少し考えた後に答える。
一ノ瀬の話は、あくまで“観測者“、情報の伝達者としての立場を重視している東堂としては、そこまで切迫的には感じない。
だが、共感できる部分がないわけではなかった。
「流石だね、その通り」
「だから、情報の真偽ではなく、インパクトを重視する、ということですか」
どこか、寂しそうに笑いながら答える一ノ瀬に対して、東堂はため息をつきながら、呟く。
「まあ、最初に話した通り、何が正解って話じゃない。僕は僕の、君は君の考えがあるってことさ」
「……そうですね。僕も別に自分の考えをあなたに押し付けたいわけじゃない。
ただ、一つだけ言わせてください。
“情報“は魔物です。
本気で牙を剥かれたら、先輩も僕も太刀打ちできるような代物じゃない……。
手懐けられていると、勘違いしない方がよろしいかと」
東堂は本心からそう話す。
一ノ瀬は、急に真顔になり、東堂の方を見据えながら答える。
「もちろんだよ。それに食い殺される覚悟が、僕にないとでも思っているのかい?」
その目は、どこまでの静かで、どこか狂気を孕んだものだった……。
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