第9話-1 東堂の観測〜情報の裏側①
東堂は、旧校舎の入り口に貼られていたテープを潜る。
『工事中につき、関係者以外立ち入り禁止』テープの端には、そんな張り紙がぶら下がっていた。
この学園の校舎は、新陳代謝が早い。
10年前に「成果主義」が導入されて以来、その原動力となる部活動のための設備への投資は、最大限に考慮されていた。
東堂の情報部や藍沢の探偵部などの、「一人部活」に対しても部室が当てがわれることから、その需要を満たすために、増改築が常態化しているその様は、さながら、現代のサグラダ・ファミリアであった。
心霊アニメなどに出てくるように、歩けば床が軋む、そこまでの古さはない。だが、学園全体の“陽“の空気に対峙するように、新しい校舎への建て替えが決まり、取り壊される予定となっている旧校舎は、“陰“の気を纏っていた。
東堂は指定された部室(厳密に言うと“旧部室“)に向かう。
目当ての教室は、旧校舎の2階の端に位置していた。
目的の部屋についた東堂は、「新聞部」と抱えた表札を確認し、扉を開ける。立て付けの悪いその扉は開けるのにも一苦労で、先日訪れた“現在の“新聞部の部室とは全く異なる雰囲気の場所に感じられた。
——そこには、新聞部部長、一ノ瀬光が待っていた。
すでに役割を終えたのであろう古い印刷機が数台、それを囲むように、インクと紙が散乱しており、部屋全体の時間が止まっているような空間だった。
流石に、埃まみれのこの部屋で、椅子には座ってはいなかったが、一ノ瀬は忙しなく携帯の画面をタップしているところだった。
「すみません、遅くなりました」
時間通りだったので、謝罪する必要はなかったが、先輩を立てる意味で、東堂はそう声をかける。
「問題ないよ。僕がわかりにくい場所を指定しちゃったしね」
一ノ瀬は、携帯から目を離さずにそう答える。
「なぜ、この場所を指定されたんですか?」
東堂にしては珍しく、オープンなクエスチョンを当ててみる。
“情報屋“の彼としては、多少の予想はついていたものの、その予想は、彼が知る一ノ瀬のキャラクターからすると、少し違和感のある“推測“だった為、あまり自信のあるものではなった。
一ノ瀬は、突然携帯から目を離し、東堂の方をじっと見つめてくる。
瞬きもしないその瞳に、東堂は少しだけ背筋が寒くなる。
「それで? チャットアプリだと、今日は『恋文代行部』のことで聞きたいことがある、と言う話だったよね?」
どうやら、彼は東堂の問いに答えるつもりはないようだった。
——それなら、それで構わない。
東堂も、単刀直入に本題に入ることにする。
「ええ、『恋文代行部』は、新聞部が100%出資している“子会社部活“ですよね?
その目的を是非、伺えればと思っていまして」
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