第5話

土曜日である。

うちの学校は対して偏差値の高くない公立高校なのでバリバリの週休2日、休みだ。

暇なのだ。

まあ先週までは中学時代の男友達とバスケとかしてたんだけど……いきなり女になったとは言えないしなあ。


(浪漫の家でも行こう)


男に戻りたい俺としてはスウェインに気に入られるのが最優先事項だが連絡先も知らないし、休日まで何が出来るでもない。

浪漫の家には学校帰りに行ったことがあるし……あいつも暇だろう。




「はい、どなた?」


記憶にあった浪漫の家のチャイムを鳴らすと、40代後半くらいのおばさんが出てきた。一応それなりにちゃんとした格好をしてきたつもりだし失礼にはならないだろう。


「あの、お……私、浪漫くんの友達の伊古っていいます。その、浪漫くんいますか?」


ロリコン父が買ってくれた白のワンピースを着た俺を前に、浪漫の母さんと思しき女性は固まっている。何だ?あれかな、やっぱりこの服装はおかしかったかな?




「ま……」

「ま?」




「まあまあまあまあまあ!あなた!うちの浪漫と親しいのね!?」


何だ?この反応……初対面とはいえ想定外だなあ。とりあえず合わせるか。


「は、はい。浪漫くんには色々お世話になってます」

「あら本当?ふふふ、あの子ったら何も言わないから……。さっそくお部屋に案内しますね」


浪漫の母さんに手を引かれ、何度か来たことのある部屋の前まで案内される。途中、妙なことを聞かれた。


「あの、つかぬ事をお伺いするけど……ぶっちゃけあなた、浪漫の事、好き?」

「え……」


いきなり何聞いてくるんだ、この人……どう答えたものか。適当に濁そう。


「あの……好きとかそういうのは、ちょっと……恥ずかしいですし」

「ふふふ、そうよね。ごめんなさい、おばちゃんになると品がなくなって駄目ねえ」


随分上機嫌な浪漫の母さん、これはあれか?俺は未来の娘候補にされているのか?おばさんには悪いが、それは叶えてあげられないなあ。

部屋をノックされ、ぼさぼさ頭の浪漫が現れた。


「……んだよ、今日休みだろ」

「全くこの子ったら……お友達来てるわよ!」


おばさんの後ろからひょこっと顔を覗かせると浪漫はびくっと驚いた。


「ってぴこ!?何だよお前、土曜の朝から!」

「……ごめん、何か色々」


普段なら折檻するところだけど、おばさんの前だしそれは出来ない。ここは素直に謝ろう。

しかし……何故かその直後におばさんが浪漫を殴り付ける。


「いてえ!何すんだよ!?」

「お黙り!あんた今後の人生でこれ以上の子に気に入られることなんてないよっ!わかってるのか!?貴様!」




「あ、あの……それくらいで」


俺が宥めたことにより、ようやく浪漫は解放された。


「あらあら、おばちゃんやり過ぎちゃったわ。それじゃあ……


ご☆ゆ☆っ☆く☆っ☆り」


ようやくおばさんは立ち去り、俺は浪漫の部屋に招かれた。まあこんな時間にきた俺も悪いとは思うけど……汚ねえ。布団は敷きっぱなしだし。


「で、何だよ朝っぱらから」

「いやいや、俺普段はこの時間から中学の友達と遊んでるだろ?でも今女だからそれ無理じゃん?浪漫のうち来るしかねーだろ」


「意味わからん。ま、俺はも一回寝るから適当にくつろいでてくれや」


そういいまた布団に潜る浪漫。俺が呼んでも反応がないし、すぐに寝息立て始めた。仕方なく部屋の中を物色する。


「浪漫ー、ゲームやってもいい?」


返事がないのはyesと取るよ?引き出しの中にあった一世代前のゲームを取り出した。ソフトソフトっと……


って、何だこりゃ?


「おいおい、ギャルゲばっかじゃねーか。こんなのやらねーっての」


パワ◯ロとかウイ◯レとかねーのかよ……。


……あ、このロープレ昔やりたかったやつだ。浪漫が横で寝息を立てる中、俺はゲームを始める。


が。


ぶっちゃけ昔のロープレはキツいなあ。すぐに飽きてゲームをしまうと、俺も眠くなった。


(眠いなあ……うち帰るのも面倒だし)


寝るか。とはいえこの散らかった部屋でまともに眠れそうなのは、浪漫のいる布団の中だけだし……。


侵入。


「浪漫さん、ちと詰めてくんない?」

「……んあ?」


浪漫を押し退け、何とかスペースを確保するとそこに潜り込む。とはいえ……ワンピースだと寝心地悪い。


脱ぐか。


(うんしょ……よし)


脱いだ服を傍に置く。一応パンツと下着は付けてるし問題ないだろ、別に浪漫に見られたところで何とも思わん。


「おやすみぃ……」


スペース確保の為、どうしても浪漫に寄り添う形になってしまうのが屈辱っちゃあ屈辱だけど……眠気には勝てない。浪漫同様、俺はあっという間に寝息を立て始めた。




「ぴこちゃん、だっけ?お昼ご飯何がいいかしら……




ご……




ごおぉぉおおおおるぅうう!」


その光景を目撃したおばさんは、吠えたらしい。




「……お前マジで何しにきたんだよ?あのオカンに嫁認定されたらただじゃ済まんぞ」

「ごめん、理解しました、マジ不用意だったわ」


部屋を覗きにきたおばちゃんは俺と浪漫が一緒に布団で眠っているのを見て軽く発狂。さらには息子の隣で眠る女は下着姿なのだから普通なら刃傷沙汰だろうが……鼻血出して伸びる程度で済んだのは運が良かったのかもしれない。

現在寝室で眠っていらっしゃるおばさんの無事?を確認し、俺は浪漫と部屋を出た。


「ねーねー浪漫くん、何かして遊ぼーよー」


腕を引っ張っていると、浪漫は面倒くさそうに頭を掻いている。


「遊ぶっつってもなあ……俺はぴこみたいにアクティブじゃないし、外の遊びとか知らんぞ?」

「映画観よう映画!カラオケボーリングでも可!」




「……金のかかる女だな」




「小遣い……持ってけえ……」


浪漫の母さんの謎の寝言に背中を押された俺たちは、そのまま繁華街へと向かった。

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