第4話

「ねえねえ、スウェインくん」


昼休みとなり、俺は隣に座るスウェインをちょんとつついた。


「何だ?魔術は解かんぞ」


今朝までの俺ならここで引くところだが、今は違う。浪漫の言うようにここはスウェインに好印象をもたれるべきだ、長期戦にはなるけどじっくり仲良くなるのが得策である。


「違くて。ぴこちゃんお弁当持って来たの、食べて?」


そう。俺がスウェインの悪い印象を覆すには10分休憩では難しい、さらに隣の席というアドバンテージを考えると時間をかけられる昼休みが一番都合がいい。それを見据えて……今日は秘密兵器、手作り弁当を用意してきた。


「……お前が作ったのか?」


「うんうん!」


母さんに手伝ってもらえれば一番上手くいくと思うけど……男に戻ると公言している以上、あまり女っぽくしたら煙たがられるに決まっている。完全に自己流ではあるが……手作り弁当ってそういうものだよ。

早速蓋を開け、スウェインに差し出す。


「どうぞ。好きなの食べて」


「……仕方ない」


俺から割り箸を受け取り、卵焼きを一つ口へ放り込んだ。


(わくわく)


別に心からスウェインに喜んでもらいたいわけではないが、せっかく早起きしたんだし……美味いと言ってもらいたいに決まってる。

……どうだ!?




「……不味い」

「酷っ!」


「別に意地悪で言ったわけではないぞ。お前、味見とかしたのか?」


味見?


「ううん?」


「だろうな。ほら、一つ食べてみろ」


スウェインが掴んだ卵焼きが差し出され、俺は口を開いた。

んぐ、んぐ……。




「うっわ、不味っ!」

「だろ?これは人に食べさせるレベルではない、精進するんだな」


そのままスウェインは立ち去った。俺は何処がいけなかったのか腕を組んで考える。


「何が駄目だったんだろ……色合いを良くする為にレモン入れまくったこと?」


卵焼きって黄色くすればいいんじゃないのか……。今度さりげなく母さんに聞いてみるとしよう。


「ぴこー、学食行こうぜ……って弁当!?作ったのか!?」


お、いいところに残飯処理班がやってきた。


「浪漫くんだ!食べて食べて!」

「手作りなのか!?よっし、頂き!




……





ひやぁあああ!不味いぃいいい!」

「ああ!待って!」


俺の制止を振り切り、浪漫はそのまま行方を眩ました。




「ぴこたんうぃーっす!」


5限が終わりしばらくした頃、俺はその声で目を覚ました。


「うにゃ……誰?」

「俺俺!」


こいつ……確かキョロ。名前は別にあるんだろうけど、席も遠いし男時代全く話さなかったから知らん。

不良の強いうちのクラスではそれほど目立たないけど、女子とも話せる数少ない男子だ。スウェインの来た今となってはそれも過去の栄光なんだろうが……俺が女になったから絡みにきたのか。まあ不良1がいたら大人しくしてるんだろうけど、あいつら昼休みからいないし。


「うーん?ぴこちゃんに何か用事ー?」

「そそ。親睦も兼ねてさー、遊び行かね?6限生物だろ、つまんねーって」


ほう、意外にワルだねキョロ。確かに生物は究極つまらんし……


って、いやいや。男に戻るのが最優先課題の俺に女にならなきゃ寄ってこないキョロと付き合う意味など何処にもないだろ。


「サボりいくないよ」

「いやいやいや!晩年宿題写してるぴこたんに言われたくないし!」


……喧嘩売ってんのかこいつ。そもそも俺は宿題はやらんが提出率は100なんだぜ。そこは譲れない。


「な!な!早く行こうぜっ!」

「ううー、痛いってー」


引っ張られる腕を振り払おうと力を込めるも、女になって弱体化した現状キョロすら振り払えない。助けを呼ぼうにも不良1はいないし、スウェインは女子連中と王様ゲーム中だし……。


(浪漫……)


あいつは駄目だ、目空しやがった。キョロ相手にビビるとかカースト最下層じゃねえか……。




しゃーねえ。


「行こうぜぇ!きゃわいい君ー!」




「……忍者、go」




「とおりゃあ!」

「ぐへら!」


俺のsosに駆け付けた忍者の巴投げによりキョロは空高く跳ね上げられ、さらに着地直前にスライディング蹴りまで決まり……そのまま伸びた。


「はっ!拙者は何を……いかん、先祖の血が暴走を……許せ」


忍者はキョロに手を合わせている。俺は駆け寄りその労を労う。


「ありがと、その人がしつこくて困ってたの」

「何!?こやつやはり暴漢か!先祖の血は正しかった!」


忍者はそのままは跳ね上がりキョロに頭から突っ込んだ。




「ふう……何か疲れた」


結局今日も進展なしか、まあしゃーない。気長にいくか……。そんなことを考えながら校門前までやってきた時、hr終了と同時に早々と姿を消したはずの浪漫が現れた。




「よお!今帰りか?」

「……」


なんだ?こいつ……用事でもあったんじゃないの?というかお前がとっとと帰るから俺今1人なんだろ。

黙って睨み付けてみるものの、浪漫は何かを期待したような視線を向けてくる。


(何?誘って欲しいの?)


相変わらずキラキラした目で俺を見る浪漫。仕方ないので誘った。


「うん。一緒に帰らない?」

「……




悪いな!俺用事あるん……!?」


俺は迷わず浪漫を鞄で殴り倒した。

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