第2話

「と、到着……」


昨日突然やって来た転校生、スウェインの魔術?で女にされた俺、伊古ぴこ。男に戻してもらおうと話し掛けてはみたが……スカート履いて出直せと言われてしまう。

仕方なく午後の授業をさぼり、着るものを買いに行く羽目に。

ドレスでも着てりゃあニコニコして話聞いてもらえると思っていたのだが……




もちろん、俺にそんな金は無かった。結局予算の都合で白パンツに膝くらいまでの長さのスカートに、出来るだけ女が身に付けてそうな柄のパーカーを購入し帰宅した。


そして今日。

気合いを入れて着こなしてやろうとしていたものの……




大寝坊。


「遅いぞ伊古!……って」

「す、すんません!」


「……」


扉を開いた瞬間、出席を取ろうとしていた担任からの怒声が響く。

が、すぐに俺の格好を見て固まる。

もちろん担任だけではない。

女子からは冷やかな視線を向けられ、男共は爆笑している。


「ま、まじかよ!伊古……くくく」

「か、可愛いやん……ぐはは」


く、笑いたきゃ笑え。現実俺は今女なんだしこうやって生きていかなきゃいかんのだ。


「……静かに。伊古、早く席に付け。厨二病はほどほどにな」

「……はい」


出来るだけはっちゃけて登場したかったのだが……この条件では仕方ないか。それにしても赤の他人でこのダメージとか、父さん母さんに見せるとどんな反応になるのやら。


(昨日は言えんかったし、今朝はそのまま飛び出して来たもんなあ……)


くそう、お陰で腹ペコだし。

昼休みまでが地獄だな……。




「おい伊古!いきなり女装デビューとか、朝からキマってんのかよ?」


1限終了後、早速不良1に絡まれた。事情を話してもいいんだけど……いや、スウェインが聞いていないとも限らないし、奴の機嫌を損ねるのは得策ではないな。


「伊古ぴこくんは遠い星にいきました。代わりに伊古ぴこちゃんが学校に通っています」


こうなりゃ不思議ちゃんにでもなんでもなってやらあ!


「ぐははは!気に入ったわ、そのキャラ!」

「痛い!マジで痛い!ぴこちゃんは防御力が低いんだって……」


背中をバンバン叩かれ吐きそうになる。男の時はここまでのダメージではなかったのだが……。


(にしても、スウェインの野郎……また女子といちゃついてやがる)


女子3人とポッキーゲームとか……どこのリア充だよ。ビッチも怒れよな。早く男に戻りたいんだがなあ……あれをこちらに振り向かせるのは骨が折れそう。

溜息を付いた俺はそのまま机に突っ伏し、2〜4限を睡眠に費やすことを決意した。



そして、ついにお待ちかねの昼休みとなる。


(やっと飯食える!……じゃなかった)


その前にやることがあった。意を決して、俺はスウェインを誘う。


「スカートです。付き合ってください」

「断る」

「酷っ!」


身を乗り出し猛抗議する俺をスウェインは押し退ける。


「魔術を解いて欲しいだけであろ?それなら付き合うだけ無駄だ」

「ぐう……」


ビンゴだし。それ以外に用事なんてねーし……って引き下がっちゃあいなんのか。


「ぴこちゃん充分反省したし……」


こうなりゃ何でもやってやるぜ。オロオロと泣き真似をする俺を見て、流石のスウェインも立ち止まる。




「……仕方あるまい。ではこうしよう」


ポケットに手を突っ込んだまま、こちらを振り返る。


「お前が我を喜ばせることが出来たら……考えてやる」

「ホント!?」


飛び付く俺を突き返して、スウェインはまた歩き出した。


「だが、今のお前はそれ以前の問題だ。ぼさぼさの寝癖頭女と連れ添う趣味は無い」

「寝癖!?」


はっとして頭に手をやると……確かに酷い寝癖だった。再び前を向いた時、もうスウェインの姿は無い。


(今日も……無理か)

仕方ない飯にしよう。丁度いいところに浪漫がいるし、昨日の買い物でほぼ全財産を使い果たした俺としては……たかる!


「学食行こう!浪漫の奢りで!」

「えええええ!?」


俺は財布を握り締めブルブル震えている浪漫を引っ張り学食へと向かった。




特に収穫の無かった1日が終わり、俺はまた人生の帰路に佇む。

そう……家族に対しての説明だ。

父さんが今帰宅し、風呂へと向かった。もちろん外見上の大きな変化はなく、少し違和感のある声や胸は『太った』とか『風邪引いた』で誤魔化せるっちゃあ誤魔化せるけど……。


(やっぱ言わないとだなあ)


流石に親だし、隠し事はしたくない。

とはいえうちは父さんより母さんの方が怖いから……そっちから攻めた方が被害が少ない気がする。


「よおし!」


覚悟を決めた俺は風呂場に直行した。




「父さん、一緒に入っていい?」


すでに浴槽に浸かっている父さんに確認する。


「ああ……構わんが、お前風邪引いたって言ってなかったか?」

「直った!それより、相談したいことが……」


「よし!聞くぞ、我が息子!」


父さんの了解を得て、俺は服を脱ぎ始めた。そして全裸になり父さんの前に立つ。こちらを向かない父さんに呼び掛ける。


「相談なんだけど……これのことなんだ」


それに対して父さんは笑いながらこちらを振り向く。


「ははは、心配するなぴこ。皮なんて向けなくてもいいんだぞ、男なら相手を病気にしてやるくらいの図々しさが……」

「……」


包◯問題と勘違いしていた父さんは、俺のそこを見た瞬間……固まった。


「……」

「被るどころか、いなくなっちゃった……」




「ま……」

「ま?」




「孫おおおおお!」


(ああ、なーる)


息子の息子で孫ね。

座布団一枚っ!




「何故、そうなった?」

「えーと……ある日、突然」


スウェインの魔術で女にされたとか言ったら今日日イジメ問題になりかねないし、それで奴の機嫌を損ねたりしたらそれこそ男に戻る希望が絶たれかねない。

腕を組み考えに耽る父さん。


「俄かに信じ難いが……実際に見てしまうと否定できんな」

「だよねえ」


はあ……父さん、黙り込んじゃったなあ。


(マジすんません……馬鹿息子で)


いや、息子ですらなくなったのか。

父さん……顔を覆ってぷるぷる震え出した。泣くな、こりゃあ……。


「父さん……父さん……」

「……」


鼻声になる父を見て、こっちも涙が出そうになる。


「父さん……




マジ嬉しい」


……


は?


いきなり俺を抱き締め出す。


「ちょっ!?」

「やばいわ!お前には黙ってたが、父さん昔からロリコンでな!子供が出来た時女の子が欲しくて欲しくて、お前が男の子だとしった時マジ自殺しようかと悩んだほどだ!」


おいおい、マジかよ……流石の俺も引くわ……っておい待て。


「んじゃあ……ぴこって名前」

「昔唯一ぐっときたショタアニメの男の娘の名前だ!母さんにはキレられて殴られたおしたけどな!」


親からもらった名前だから今まで気にしないように生きてきたが……そんな邪な理由だったとは。

まあ女になってしまった今となっちゃあ、助かるけどさあ。


「二人目作るって誘っても母さん、うちに女の子はいりませんって拒むし……ショックで種なしになるし……いやあ!神様っているんだな!」

「知らんし……それより、母さんになんて言ったらいいと思う?」


ベタベタ触ってくる変態父を押し退つつ尋ねた。もちろんまともな答えは返ってこず胸やら尻やらをガンガン触ってくる。


「ちょっ!マジやめてお願いだからさあ!」

「すべすべだよ!貧乳だよ!気持ちいいおおおおお!」


振り払うべく立ち上がると父さんも縋り付いてくる……そこを立派にしながら。


「やめてって……洒落にならないって」

「jk貧乳jk貧乳jk貧乳jk貧乳jk貧乳jk貧乳jk貧乳jk貧乳jk貧乳jk貧乳……」


やばい、真剣に怖い。暴れる父はバシャバシャ水飛沫をあげ……


「ちょっと!もう少し静かに入れないの!」


その騒音に鬼の形相の母さんが扉を開け放つ。




「「……あ」」


固まる俺と父さん、震えながら怒りのボルテージをあげる母さん。


「……あなた、その子、何処から連れ込んだ?」

「か、か、か、母さん!違うよマジで!ぴこだよ、ぴこ!」




(これは、でるな)




「ぴこは男の子です!はあぁぁぁああああ!」

「うわああぁぁぁあああ!」


マザーお得意の必殺技……




「あぃぐぅ!あぷぁぁああかあぁぁっとぉぉおお!」


タイ◯ーアッ◯ーカット。

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