第3話

(はあ……昨日はマジ惨劇だったわ)


風呂場の一件から緊急家族会議へと発展。ただ唯一救いだったのは、問題が父さんの『ロリコン』へとすり替わったことだ。母さんも俺の裸を見てしまった以上、それ自体は仕方が無いと納得する他なく、男に戻る方法を一緒に探そうと言ってくれた。父さんへの処遇としては『一緒にお風呂禁止』や『お触り禁止』など様々な規制が議論されたが、自らに包丁を向けての猛反発により可決は見送られ『分別ある父親として接する』という妥協案で閉幕した。


「ぴこたん!おいぴこたん!」

「誰がぴこたんか」


振り向くとやけにニヤニヤした不良1頬杖を付いてこちらを伺っている、せっせと宿題写しに勤しんでいた俺はそのまま机に視線を戻した。


「やっぱあれか?チン◯も無くなった感じか?」


流石dq◯さん、質問がストレートっすね。まあ現状オネエ烙印押されるより痴女として扱われる方が生きやすいし……ここは素直に答えよう。


「うん、付いてない」

「ぐわあ!言い切ったな!見して見して!」


まあそうくるわな。こちとら男に戻れりゃそれでいいし、隠す必要などない。


「わかった。ならトイレに行こう」

「キッタコレ!野郎共、便所押さえな!」


不良1の合図を皮切りに、スウェイン以外の男がぞろぞろと男子トイレに終結。そしてぴこたんのそこ鑑賞会が開かれた。


「うっわ……マジだ」

「ね?ぴこちゃん嘘ついてない」

「でもあれだよな……見慣れたチ◯毛も主がいないとエロいな……」


やたらテンションの上がった一団が教室へと戻り、女子がキモがり……男女仲の隔たりはベルリンの壁の如く強固なものとなった。

とはいえそのキャンペーンによりぴこたんは女という認識が女子にも広まったような気がするので少しは俺の待遇も上がると期待したい。


(にしても、変なパワーバランスだな)


男の中に俺一人と女の中にスウェイン一人の派閥とか。


ん?待てよ、これは……

俺、しくった?


「ふん、我はふしだらな女は好かんな」

「あ痛っ!」


またスウェインの印象を悪くしてしまった……がくり。


「ふふふ、お困りだなぴこ」

「浪漫か」


がっくりと項垂れていると、何故か腕組みをした浪漫がやって来た。


「……何か用?」

「おいおい、冷たいねえ。せっかく妙案を持ってきてやったというに」


妙案?

……そっか、こいつにはスウェインに女にされたって言ってたなあ。


「聞こう」

「よし。現状お前はスウェインに好かれていない、いや嫌われているといっても過言ではない」


ぐう……はっきり言ってくれるじゃないの。てかそんなことはわかりきってんだよ。


「そんな睨むなって。それには原因があんだよ」

「原因?」


スウェインに嫌われている原因ねえ……わからん。強いて言えば最初やらかしたからか?


「ぴこがスウェインに嫌われている理由!それは……」

「それは?」




「プレイングだあ!」


……いみふ。


「お前もう席帰れ」

「最後まで聞けって!俺はお前以外にも宿題を写させたりしてるからクラスの情報、特に男女絡みは仕入れやすいんだよ!」


知らんがな、それが俺に役立つのかよ……。


「で、俺はそれを踏まえた上でお前にアドバイスを出す!スウェインの好みとか探って好かれようぜ?」


そっか!そういうことか!俺は席を立ち浪漫の両手を握る。


「流石浪漫!超使える!」

「だろ?ふふふ……落としてやろうぜ、難攻不落の最難関キャラをな!」


メラメラ燃える浪漫を見て、やっぱりこいつ普通じゃないと一歩引く。そもそもそんな献身的な奴じゃないはずだ。宿題写させてもらっておいてなんだが……。


「浪漫さん、何故そんなに燃えてるんだい?」

「決まってんだろ!?リアルギャルゲプレイとか!楽しすぎるだろjk!」




……こうしてボーナスキャラは情報屋へと進化した。




「ふぁっ……ふぁっ……ふぁ……」


古文の授業中、謎の笑い声で目が覚めた。寝ぼけ眼で辺りを伺うと隣に座るスウェインから苦情がきた。


(お前、気持ち悪い寝言で我の勉学を妨げるとはいい度胸だな)


流石に授業中はスウェインも気を使ったのか、小声で話し掛けてきた。一瞬わけがわからなかったが、少なくとも俺じゃないので誤解を解きにいく。


(ち、違うし。ぴこちゃん女の子、あんなキモい声でない)


スウェインは依然俺を疑っている様子だ。その時、また例の笑い声が聞こえる、当然俺ではない。


(ほら、ぴこちゃん違うでしょ)


(うむ……では誰であろう)


辺りを見渡し警戒しているスウェイン。しかし……俺にはもう犯人はわかった。そいつに呼び掛けるよりも早く、後ろから突つかれる。


(尋ねたい)


古文の授業で不良1が起きているわけがないので、その主こそ……キモい笑いの張本人だ。しかしスウェインに気付かれたらまた例の魔術を使いかねない為、俺は内密に処理する手段に出る。眠るフリをして、そいつに語り掛けた。


(何?)


(そち、転校生であろう?席順が変わっておるな……拙者の席は何処?)


……うーわ、完全に忘れてたわ。俺の席、別に元々隣に誰もいなかったわけではない。たまたまスウェインが来た時空席だったが為……いないものとして処理されていた。




忍者。

それ以外にこいつの呼び名を知る者はここにはいない。サボリ魔なのか登校拒否なのか存在感がないだけなのか……俺も2、3回しか見た記憶がない。担任、完全に忘れてたな……今こいつの席ねーし。

適当に答えるか。


(課題だって)


(課題、とな?)


(席替えした時、いなかったみたいだし……ここの席を引いた私が教えてあげてって先生に)


これでは俺=伊古ぴこルールがこいつに対して崩れてしまうんだが……面倒だし、いいか。どうせ覚えてねーし。


(では、君が転校生でそのために席が足りなくなったのだな。理解した。で、課題とは?)


(何かね、忍術を生かして席なしで授業を受けろーって。無茶苦茶だよね、私の席使う?)


こいつ馬鹿だけど、こういうプライドだけは高かった気がする。後は勝手に何とかするだろ。


(心配ご無用、拙者、このような処遇には慣れている所以。ではお嬢さん、この次は共にランチでも)


言い残し、忍者は消え失せた。ホッとしたのも束の間……再び現れた。


(ひっ!?)


(一つ確認せねば。君の隣のいけ好かん野郎は何者か?拙者としたことが記憶にない)


そりゃあ、お前とは初対面だしな。しかしそれを記憶で済ます辺り本人にも幽霊高校生という自覚があるのだろうか。転校生であるということは伏せ、簡単にスウェインの情報を伝えた。


(ふむ、魔術師と名乗る男……ヤバ気である。お嬢さん、ピンチになれば構わず拙者を頼るがよい……では)


今度こそ姿を消した忍者。あいつの事だ、真面目に席なし授業など受けるわけもなく、どうせ何処かの駄菓子屋で時間潰してるんだろう。

いい感じに疲労感を感じた俺は今度こそ、深い眠りに付いた。

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