Chapter4
雄弁に咲く(1)
視界に映るざらついたアスファルトの上を歩くネズミ。カビ臭い匂いが漂っていて耳を澄ませば小動物の声が微かにしてくる。
テンコがヤオビクニらに連れて行かれてから大体1時間くらいはたっただろうか。
アタシは身体中の痛みと手を縛られていることで未だ身動きの取れない状態でいた。
いや、何より大事な仲間がつれていかれたことで憔悴していたからというのが正しいのかもししれない。
「シグレ!!大丈夫!?」
道の角から出てきたナガメとホマチがアタシを見るに血相を変えてこちらに走ってくる。
助けに来てくれたのだ。
ナガメから治癒魔法を受け少し身体が軽くなり、ホマチの手を借りながらゆっくりと立ち上がる。
「酷い怪我ね。でも、殺されてなくて良かったわ。ここまであなたを追い詰めれるほどの実力者って...。」
「ヤオビクニだ。」
「え...?ヤオビクニって、あの...。」
ホマチが唖然とした声を上げる。
当然だ。国のトップが麻薬事件に関与していて、あまつさえアタシ達を拉致暴行しているのだから。
「その話は後だ。...テンコは何処にいるんだい?波長で追ってきたんだが、ここまで来るのにシグレのものしか感じ取れなかったんだ。」
「テンコは...連れて行かれた...。"楽園送り"だ。」
「...ッ!そんな!?」
今度はホマチだけでなくナガメも動揺している様だった。
「ごめん...!本当にごめん!!アタシが巻き込んだ...そして何も出来なかった......テンコを...!守れなかった!!!」
多分涙でぐちゃぐちゃだったと思う。
ナガメとホマチに必死に謝ることしか今のアタシには出来なかった。
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テンコが連れて行かれたあの日以来アタシの心は罪悪感や悲しみ、不甲斐なさなどあらゆる負の感情が凝り固まって胸の内が常につっかえている様なそんな日々を送っていた。
2人は気を遣ってアタシをあまり責めないでいてくれたけど、本当はみんなテンコの事で動揺している。でもできるだけそれを見せない様にしているのはそこから更に最悪の事態を招かない様にするためだ。もしテンコを探そうと躍起になってアタシみたいに突っ走れば、今度は全員殺されるなんてこともあるかもしれない。
そうしてあの日のことは話さず、ただただ時だけが過ぎて行った。
だがテンコがいなくなってから3ヶ月が経過した頃、それは本当に突然、何の前触れもなく訪れた。
「ただいまぁ。」
いつも通り、ただ出かけた先から帰ってきただけの様なテンションでテンコがアジトに帰ってきたのだ。
「テンコ!大丈夫だったのかい!?今までどこに...いや今はいい。どこか痛むところとかはないか?」
「そんな...!生きて帰ってくるだなんて!」
「本当に無事...なのか。」
もしかしたらもう二度と会うこともできないかもしれないと思っていた仲間が帰ってきたことに喜びや安堵よりも驚きのほうが勝っていたように感じる。偽物かとも疑ったがナガメが素直に喜んでいるのを見て、その路線で考えるのはやめることにした。
「特別痛い所とかはないんやけど少し休ませて欲しいかも...。」
当たり前だが、いつもよりも暗く元気が無さそうなテンコを見て嫌でも何かあったんだろうと、アタシ達は察する他なかった。心配という意味で何があったのか確認したいが、それを帰ってきたばかりの本人に聞くなど野暮すぎる。
ましてやアタシは負い目を感じて、あまり積極的に声をかけようとはとてもじゃないけど思えなかった。
「取り敢えずお茶を出そう。安静にしてて。テンコの部屋も綺麗にしてあるから。」
「あなたがいないと調子狂うわ。早く元気になっちゃいなさい。」
「2人ともありがとぉな。」
上手く話しかけに行けずごたついているアタシに気づいたホマチが合いの手を出してくれる。
「ほ~ら縮こまってないで、あんたも何か言う事とかないの?」
とはいえやはりどんな話題を出せばいいかも分からず、咄嗟に口から出たのは、
「あ...え〜と、みんなで飯でも食いに行くか...?」
自分でも言った瞬間しまったと思った。というか何で調子が悪そうな事がわかっている状況で、飯に誘ってしまったのか。
「なんで、一発目がそれなのよ!」
「流石に帰ってきたばかりだしいきなりご飯を食べに行くのは...。」
2人ともテンコの様子を懸念して、安静にしておこうという無難な選択肢を取ろうとする。
だが、テンコは予想に反してアタシの提案に好印象で食いついてきた。
「おぉ、ええやん!久しぶりに行こっか。」
さっきまでの様子が嘘の様に...とまではいかないけど、意外と調子付いているテンコに少し意表を突かれた。
「テンコがいいなら構わないけど...。」
自分が下手に言ってしまったことが結果として好転的に働くとは思っていなかった。
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「さて、出掛ける準備しとかないとな。」
各々自室で準備をする形になり、出掛ける上で最低限の身だしなみと必要なものをポケットに入れておく。またこうして4人揃って出かけることができるんだと内心ちょっぴりワクワクしていた。
ガシャン
そんな時、外から何かが倒れるような音が聞こえてきて窓の方へ向かう。
アタシの部屋は入り口から真反対の裏口側に面しており、窓からちょうど裏手の道が見えるようになっている。と言っても裏手はすぐ行き止まりとなっており、ちょっとした物置小屋があるくらいなのだが。
窓から外を見ると、閉まっているはずの古い物置小屋の扉が開いており、テンコの後ろ姿が確認できた。
「何やってるんだ?あんな所で。」
気になって裏口から物置小屋へ行くとテンコはじっと何もない壁を見つめていた。こちらに背を向ける形で真正面の壁を見ているので顔色は伺えない。ただなんとなく、不穏で異様な雰囲気が漂っている様に感じた。
「テンコ...?」
返事はない。聞こえなかったのかと思いもう一度声をかけようとした瞬間、
パキンッ
すぐそばにある古い豆電球がこれ見よがしに割れる。突然割れたことにアタシは思わず肩をビクッと震わせるがテンコは微動だにせずその場に立ったままだ。
「ねぇ...大丈夫...?」
テンコに触れようと手を伸ばした。
凄く嫌な予感を感じながらも、伸ばさずにはいられなかった。
「シグレー!テンコー!どこに行ったの〜?もうすぐ出掛けようと思うから車の所まで来て欲しいんだけどー!」
アジトの入り口方面からナガメが呼びかける声がした瞬間、緊張感の糸が切れた気がした。
「はーい、今行くでー。」
何事もなかったかの様に振り返り、棒立ちなアタシの横を抜けてテンコは行ってしまった。
1人取り残されたアタシはまだ先程の余韻が消えずしばらく立ち尽くしていた。
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