邂逅(6)

 突如起こった大地震。甚大な被害が予想され、死傷者は数知れず。これが滅多な事ではないというのだから街全体の完全復興の目処は勿論立っていない。しかし、脅威はそれだけではない。災害の直後、混乱の渦の中こそ好機と見立て暗躍する物も少数ながら現れる。


「あと100メートル先ってところかな〜。」


 ツクヨミが再度ホマチの前に現れたのはそういう類のものかも知れない。だがハクウがそこまで勘繰る事はなく、ツクヨミを打倒する事だけを考えていた。

 一応ホマチを助けることも頭の片隅に入れながらではあるが。

 そんなに燃えているハクウにとって、100メートルなどとるに足らない距離だった。波長を辿り、見えてくるのは周りを火の海に囲まれながら相対する2人の姿であった。


「...正気とは思えねぇなぁ?」

「...邪魔をするなら。」


 うっすらと聞こえてくる会話。そんなことなどお構いなしに高らかな声でハクウは叫んだ。


「ヒーロー参上ぉ!!」


 突然の介入者に2人は目を丸くする。その様子を見てハクウは満足気に笑った。


「おチビのヒーローさん、ここは危険よ?なんで来たの。」

「チビって言うな!ツクヨミの波長を追ってここまで来たんだよ!オマエを助けようと思ってきたわけじゃ無いからな!」


 2人が会話をしている間も燃え盛る炎の勢いは止まることを知らず激しさを増していた。


「にしてもここ、火が強いな...!何でこんなことになってるんだ?」

「引火の原因はさっきの地震のせいだろうけど...周りに転がってるタクシーボットの残骸が火の勢いを増してるのかも。いずれにせよここに長居するのは得策じゃないわ、ケホッ、ケホッ!」

「ったく、何のつもりだハクウ?今、私達の先輩であるお方に腕と目がなくなった喜びを聞いてた最中だったってのに!ヒヒッ!」

「皮肉ってのもつくづく他人の趣味を選ぶべきだと思うわ。あんたみたいなのが使ってると皮肉ちゃんが可哀想。」

「へぇ、そうかい!じゃあ地に堕ちたテメェなら良くしてくれんのかい?先輩!」

「先輩、先輩って...あんたみたいなろくでもない後輩いらないのよ。」

「減らず口が多いなぁ...そんなに早く死にてぇか?それとも仲間が増えて気でもでかくなったか。」

「あんたのその無駄にデカい羽くらいには大きくなったかもねぇ!後輩!」


 ホマチの煽りを皮切りに、ツクヨミは昨晩と同じ様に自身の翼からでかい羽を取り出しそれをホマチに振るおうとした。その攻撃を仕掛ける速度たるや恐ろしく、1秒も立たずホマチの喉を掻っ切る寸前だった。


 キィンッ


 だが、その攻撃は側にいたハクウによって阻止される。いつの間に取り出したのか、巨大な大鎌で羽の進行を食い止めていた。


「おい、2人だけで盛り上がってるところ悪いけど私もいるんだからな...!」

「じゃあお前も笑え...!笑って、泣いて、死ね!な?」



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「ここはほんま、静かやなぁ...まあどこの慰霊碑もそうやったか。」


 目の前に立つかつての仲間を前にシグレは手が震える。だが、昨夜とは違い少しだけ落ち着いてなるべく冷静に話始める。


「今日は...着てなくていいのか?」

「訳あって今は外してるんや。見た目も酷いやろあれ。いやぁそれにしても...ハハッ、なんやその顔!聞きたいことが多そうやなぁ...!」

「当たり前だ!お前と会った時からウチの頭の中は今にもパンクしそうなんだよ!どう言うことなんだ?説明しろ!」


 テンコは無邪気そうな笑顔で語りかける。

 この雰囲気を明らかに楽しんでいる様だった。


「なぁ!一人称どないしたん?もしかして...ウチが死んだこと後悔してその呼び方になったとか?フフッ、アハハ!」

「無駄話はいい!ちゃんと話せよ!」

「いやぁ、これが結構無駄でもないんよなぁ。一体いつから自分がその一人称を使い始めたか...覚えてる?」

「いつから...だと?」


 今まで考えこともなかったそんな問いにシグレは頭を悩ませる。思い返せば自分がいつからテンコと同じ"ウチ"呼びにになったのか全く思い出せない。


「答えられんよなぁ...。自らの心にでかい蓋をしてるんや。"ミラー"についても話すつもりやけど...まずはその蓋をこじ開けさせてもらうで。」


 突如、急激な眩暈に襲われシグレは立てなくなりその場に倒れる。波長を拾った時の頭痛など生ぬるく感じるほどの頭の感覚に襲われ、目の前に立つテンコを見上げるので精一杯だった。


「今でもやっぱり...好きやでシグちゃん。」


 少し哀しむような笑顔を浮かべるテンコを見たが最期、シグレの意識は闇の中へと消えていった。

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