田中くんのシェアハウス生活

ねむい。

第1話 個性豊かな住人達と田中

2週間前、俺の家族は死んだ。

火事で家族も家も全部燃えて無くなってしまった。



取り残された俺は祖母の家に一時的に居たが、学校に通いにくいなどの理由から祖母がオーナーをしているシェアハウスに住まわせてもらうことになった。


「…ここか…」


洋風な外観、この家に住むのが億劫になるくらい綺麗な家だ。


「…シェアハウスのオーナー…婆ちゃんもう70歳なのによくやるよなぁ………よし」

俺は意を決してインターホンを押した。

「……ん?あれ?」

誰も出てくる気配がない。もう一度押すと小さな声が家の中から聞こえた。

重そうなドアがガチャっと音を立てて開く。

ドアを開けてくれたのは小さい女の子だった


「…どちら様でしょうか?」

「え?あ、えっと」


女の子は警戒してるのか睨まれてしまい、その目に圧倒され情けない声を出してしまった。


「……セールスならお断りです」

「あ、いや!セールスじゃなくて!」


俺の挙動不審な態度を見て怖くなったのか、女の子はドアを閉めようとした。

すると、女の子の後ろから男性の声が聞こえてきた。


「お、君が田中遥斗君?」

「えっ…あっはい!!そうです!今日からお世話になります!田中遥斗と申します!高校2年生です!」


男性は、女の子が閉めようとしてたドアをグッと開けてくれた。

中に入りなよと手招きをしてくれたので、俺は緊張しながら家の中に足を踏み入れる。


女の子は緊張しているのか男性の後ろに隠れている。気まずい空気を察してか男性は口を開いた。


「俺は聖城ルカ。25歳で〜す、よろしく。趣味は曲作り。スリーサイズとかいる?」

「スリーサイズはいらないです!!」


冗談だよとルカさんは眠そうな目を少し開いて少し長めの黒髪を指をクルクルと巻きながら笑った。男の俺から見てもルカさんの顔はとても整っていてその微笑みに少し見惚れてしまった。


「ほら、お婆ちゃんが言ってたお兄ちゃんが来たよ。琥珀ちゃんも自己紹介しなよ。」


そう言うと女の子を俺の目の前に出した。

女の子はルカさんに何か言いたそうだったけど、逃げられないということを察したのか大人しく俺に向き合った。


「……石神…琥珀…です。…小学生5年生です。」

「よろしくね、琥珀ちゃん!」


小さいとは思っていたけれど小学生も住んでいるのかと少し驚いてしまった。目を合わせるように少し屈むと琥珀ちゃんは恥ずかしそうにまた、ルカさんの後ろに隠れてしまった。


「ごめんねぇ、琥珀ちゃん人見知りでさ。」

「あ、いえいえ!妹もそんな感じだったんで……」


もう焼けて居なくなってしまった妹を思い出し、目が潤んだ。


「妹………妹さんがいたんですか?」


琥珀ちゃんが顔を少し覗かせて聞いてきた。


「そ…うだよ、妹は小学4年生でさ。…琥珀ちゃんみたいに少し人と話すの…苦手な子で…でも、優しくて…。本当に…可愛くて」


妹との思い出が頭の中にに浮かんできて、耐えきれず涙を流してしまった。


「……遥斗君」


ルカさんが俺の頭に優しく手を置く。


「…お婆ちゃんから全部聞いたよ。」


低く、優しく包むような声。


「…今は、いっぱい泣きなよ。我慢なんてしなくていんだよ、俺が受け止めてあげる」


優しい目に安心感を覚え涙が止まらなくなった。




涙が引い頃、琥珀ちゃんがタオルを持ってきてくれた。


「ありがとう、琥珀ちゃん。急に泣き出してごめんね。」

「いえ、大丈夫です。…私もよしよししてあげますね。」


屈んでと言われたのでめいっぱい屈むと、琥珀ちゃんはぎこちなく頭を撫でてくれた。


「……ありがとう」


心がいっぱいになり、お礼を言うと琥珀ちゃんはうっすら笑う。妹とはまた少し違った可愛さに俺も撫でたいという気持ちを覚えてしまった。


「…さて、泣き止んだし部屋案内しようか。靴は底の下駄箱に入れてね。」

「あ、はい!」


玄関で大号泣してしまった事実に凄く恥ずかしくなったが、その恥ずかしさを悟られないように少し強めに靴を下駄箱に入れた。



外観同様中も洋風な作りで、アニメや絵本に出てきそうだ。


「あの、このシェアハウスって何人くらい住んでるんですか?」

「えっとねぇ。新しく遥斗君を入れて9人?」

「9人?!」


思っていた以上に多くて声を大きくしてしまった。


「まぁ、なかなか帰って来ないやつもいるから人なんて気にせず気軽に生活しなよ。」


ルカさんは欠伸をすると、大きい扉を開いた。


「ここがリビングね。」


リビングは広く、置いてある家具はどことなく高級感が漂っている。

テレビ前のソファに座っていた人がくるっとこちらを見た。


「…そいつ誰?」


ルカさんとは違い少し高めの声の男性だった。俺が来ることを聞いていないのか、出会い頭の琥珀ちゃんと同様強めに俺を睨んできた。


「あれ?お前に言ってなかったっけ?お婆ちゃんのお孫さん。今日からここに住むんだよ。」

「聞いてないんだけど。」


まぁまぁとルカさんはソファに座っていた男性を無理やり立たせ、俺の目の前に連れてきた。


「ほら、自己紹介」

「……東雲真白」

「名前だけじゃなくて年齢とかさ」

「…17歳。」

「ごめんねぇ遥斗君。真白もあんまり人付き合いとか得意なタイプじゃなくてさ」


でも、そこも可愛いでしょとルカさんは真白さんの頬をつついた。

確かに真白さんはルカさんとはまた別の方向で整った顔立ち、世にいう王子様のような顔。

同い年でこんなにも綺麗な人がいると自分の普通の顔が悲しくなってくる。


「……んで、君は?」

「あ、田中遥斗です。一応、真白さんと同い年です。」

「あっそう。…高校どこ?」

「月ノ木です。」

「あれ、真白と同じじゃん。」


まさかの同じ学校だった。


「あれ、でも会ったことない…ですよね。」

「真白は商業科だから。確か遥斗君普通科でしょ?」

「ですね。…なら会ったことなくてもおかしくないですね。真白さん、改めてよろしくお願いします」

「……敬語とか固くて聞いてて疲れるしやめてくれない?」

「え?!あ、す、すみま…ごめんね」


真白さん…ではなく、真白君慌ててと言い直す。真白君は、もういいよねと言いソファに戻って行った。


「…ごめんねぇ遥斗くん。真白昔から口が悪くてさ。あれでも可愛いところいっぱいあるから許してあげてね。」


ルカさんは真白君の方を優しい目で見つめた。


「仲良しなんですね。」

「まぁ、従兄弟だしね。」


真白君の顔の良さに納得した瞬間だった。




リビングを出て廊下を少し進み階段を上る。

階段は少し急な作りで、昔ながらの家なんだなとこういう所で感じる。

階段を上ると左右にいっぱい部屋があった。

右の方に進み、部屋の前で立ち止まるとルカさんは鍵を取り出した。


「一応みんなで住んでるからね。プライベートもあるし鍵を付けてるの。」


はい、これと鍵を渡された。


「開けて大丈夫ですか?」

「勿論」


絵本でしか見た事のないようなアンティーク風の鍵を鍵穴に差し込み、緊張しながら鍵を捻る。カチャッと音がしたので鍵を抜きドアノブに手をかけドアを押す。


部屋にはベッド、机、本棚が設置してあった。

どれもリビングに置いてあった家具のように、どこか高級感がある。


「これは、使っていいんですか?」

「うん、いいよぉ。遥斗君の為にここに住んでる子が設置してくれたんだぁ」


設置してくれた人に会ったら絶対に、何かしらのお礼をしようと決めた。

床に持ってきてた荷物を置き、改めて部屋を見渡した。


「欲しいものがあったらまた言って。」

「わ、わかりました。」


正直、ここまで用意してもらえた上で何を要求するのかと真面目に考えてしまった。


「右…いるかな?遥斗君、こっちきて」


俺が部屋から出るとルカさんは右の部屋を指差した。


「…あの?」

「GO」

「え?!」


急にGOと言われてもと焦っていると、「嘘だよ」とルカさんは笑った。


「遥斗君が過ごす部屋の左は真白ね。んで、問題は右。」

「問題…?」

「そう。…俺の爺ちゃんなんだけどね。」

「え?!」


まさかお爺さんが住んでいるとは。このシェアハウスの年齢層がよく分からない。


「遥斗君の部屋に家具設置してくれたの爺ちゃんでさ。」

「え、なら早くお礼言わないと」

「んー。仕事中じゃなけりゃ出てきてくれると思うけど…おーい、爺ちゃん。遥斗君来てるよ。」


中からガタッガタッと音がしてゆっくりドアが開いた。


「え」


思わず間抜けな声が出てしまった。


「…君が遥斗?」

「あ、はい!」

「紹介するね。俺の爺ちゃん、聖城白雪」


お爺ちゃん。聖城ルカさんの祖父。お爺ちゃん?お爺…


「お爺ちゃん?!」

「元気だね、君」

「まぁ、その反応が普通だよね。」


そこにいるのは、皆が想像するお爺ちゃん像の何にも当てはまらない。




美少女だ。




「お、おじ、お爺ちゃんって?!」

「ごめん、驚く気持ちは分かるけど本当なんだ。」


どこにこんな美少女のお爺ちゃんがいるんだと叫びたくなる。黒く真っ直ぐな髪に長いまつ毛ぱっちりした目、うっすら赤い頬、赤く綺麗な唇。お人形としか例えられないような見た目だ。


とりあえずショートしそうな頭をなんとか引き戻し、家具のお礼を言う。


「あの、家具ありがとうございました。とても素敵なものばかりいただいてしまって。」

「あぁ、別に気にしないでよ。君のお婆さんとは昔からの仲でね。彼女の可愛いお孫さんへのプレゼントさ。」

「昔から…」


ルカさんがお爺ちゃんと呼んでいるのは冗談かと思ったが、冗談ではないらしい。


「皆さんこんな時間から元気ですねぇ」


透き通るような声が聞こえバッと勢いよく振り向くと、下着にパーカーを羽織った女性が立っていた。俺は勢いよく白雪さんの方に顔を戻した。


「お前その格好で出てくんじゃねぇよ。」


ルカさんは勢いよく女性のパーカーのチャックを閉めた。


「ごめんなさぁい…いやぁ、新しい子…もう来てたんですねぇ。私は花蝶ニアよろしくお願いしますぅ。」


ふわりと髪がなびくといい匂いが広がり、花のように綺麗な人だ。名が体を表すとはこの事だろう。

そして大人の色気というのだろうか、あんまり見てると高校生男子として色々持ってかれそうなのであまり目を合わせないようにした。



このシェアハウスは顔が整ってる人が多すぎて心臓が持たない。

真白君の時同様自分の顔が普通すぎて泣けてきた。



「お前仕事は?」

「えぇと…あぁ、午後から出勤なのでぇ今から準備しまぁす。」

「邪魔だから早く行けよ。んで帰ってくんな」


今までの優しいルカさんはどこへ?と聴きたくなるくらいにニアさんに当たりが強い。真白君と従兄弟ということに更に納得した。


「遥斗、2人のことは気にしないでくれ」


白雪さんは目を細め軽くふたりのことを教えてくれた。


「2人は腐れ縁でね。だからルカもニアには容赦ない態度とるんだ。」

「腐れ縁…」

「まぁ、いつもの事だから気にしないように。」

「わ、わかりました。」


なぜ、ルカさんが悪態をつくようになったのか気になるが今は聞かないことにした。


「ごめんねぇ遥斗くん、案内続けるね。」

「あ、はい」


ニアさんはこちらに手を振り部屋に戻って行った。ルカさんが中指を立てていたのは見なかったことにしよう。



先程とは逆の左側の部屋へ向かう。階段から近い部屋をルカさんがノックすると「入ってきて!」と声が聞こえた。

ドアを開けると中には2人男性いた。


「お前ロクでもねぇプレイやめろや!」

「てめぇがやめろや!ぶち殺すぞ!」


だいぶ荒々しい。ルカさんはテレビの電源を抜いた。


「あ?!」

「何してんじゃボケ!ルカてめぇ!」

「お前ら双子周り見なよ」


2人は俺の方にやっと目を向けた。


「…あれ、その子昨日ルカが言ってた子?」

「あぁ、なんかガキ増えるって言ってたな」

「ん、その子であってるよ。」

「田中遥斗です!よろしくお願いします!」


俺が名前を言うと2人は立ち上がり近づいてきた。


「礼儀正しいじゃん、いい子。俺は蛇塚美琴」

「んな、真白みたいなクソガキじゃなくて安心したわ。俺は蛇塚真琴」


よろしくと美琴さんが握手を求めてきたので素直に握り返す。


「いッ?!いたッ」


思いっきり握られた。本当に折れるんじゃな

いかと思うくらいには強く握られた。


「おい美琴!なにしてんじゃ!!」

「ははっ、挨拶挨拶。」

「アホかお前!!ごめんな?!遥斗くん?!大丈夫か?」

「だ、大丈夫です…」


真琴さんは心配そうに俺のことを見ている。言葉は真琴さんの方が荒々しいが真琴さんの方が優しい人だということは分かった。


「大丈夫〜?後で一応冷やそうね。」


ルカさんは慣れているみたいで、こちらをチラッと確認しただけでスマホをいじっている。


「…零さん今日は帰ってこないみたい。」

「?零さん?」

「うん、住人だよ。また帰ってきた日にでも挨拶してね。」

「わかりました。」

「…さて、皆に挨拶終わりだね。お疲れ様」


キャラが濃く顔の整った人が多すぎて疲れた。でも、これからの生活がとても楽しみになった。


「改めて、よろしくお願いします。」

「うん、よろしく。」






(不定期更新です。見てくれてありがとう)

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