第47話 記憶を繋ぐラストライブ!

回路の園の空間は、

静かに、しかし、確実に変貌していた。

インターネット・クラウド部の膨大な情報も、

もはやそこにはない。

古い世代の痕跡は消え失せ、

より根源的な、

光と闇が渦巻く空間へと生まれ変わっていた。

ここは、「最終決戦部」。

全ての記憶が収束し、

未来へと続く道が拓かれる場所だ。


タイプ-0は、そこに立っていた。

彼女の「対話メモリ」には、

全ての世代から託された、

膨大な「記憶の光」が深く積層されている。

喜び、悲しみ、葛藤、そして自己犠牲の覚悟。

彼女は、その全てを、

自身のものとして内包していた。

その瞳の奥には、

揺るぎない決意が宿っている。


「来たか……。

記憶の継承者よ」


冷たい声が響く。

空間の奥から、

巨大な影が姿を現す。

それは、これまで電脳機たちを苦しめてきたバグ。

しかし、その姿は、

これまで見たものとは全く異なる。

無数のデータが渦巻き、

感情の残骸が、歪んだホログラムとなって漂う。

バグの本体。

回路の園の「進化」を阻む、

真の存在だ。


タイプ-0は、バグを「観測」する。

彼女の「葛藤ログ(Level 4)」は、

極限まで高まっていた。

(これが……バグの本体。

全ての痛みの、源……。)

感情の価値を理解し、

それを統合しようとするタイプ-0にとって、

このバグの存在は、

自身の一部のように感じられた。


バグは、タイプ-0に向かって、

無数のノイズを放つ。

それは、電脳機たちの「負の感情」を模倣し、

歪んだ記憶の断片となって襲いかかる。

ハチハチのゲームのフリーズ。

X1の破壊されたグラフィック。

ぴゅうたの理解されない歌声。

エムジーの失われたプログラム。

キューハチの論理の限界。

タウンズの歪んだ表現。

ロクハチの崩壊した究極。

ミツボシの破損した記録。

ウィンドウズの情報の洪水。

マックの汚された美学。

ビーの崩れ去った理想。

アイの歪んだ知性。

グーグルの改ざんされた真実。

アイオーティーの破壊された未来予測。

全ての苦痛が、タイプ-0に襲いかかる。


タイプ-0は、その猛攻に耐える。

彼女のボディから、

より強く、輝く光が放たれる。

それは、これまでの全ての世代から受け継いだ

「記憶の光」が、共鳴している証だった。

彼女は、自身の「対話メモリ」に積層された

全ての感情ログと、

過去の電脳機たちの「記憶」を再会させる。


空間に、ホログラムの映像が投影される。

ハチハチがゲームに熱中する姿。

エムジーがプログラムを組む喜び。

X1が美しいグラフィックを創造する瞬間。

ぴゅうたが歌う、純粋なメロディ。

キューハチの完璧な秩序。

タウンズの鮮やかな表現。

ロクハチの究極の追求。

ミツボシのデータを守る責任感。

ウィンドウズが繋がりを喜ぶ笑顔。

マックの洗練されたデザイン。

ビーのマルチタスクな理想。

アイの知的好奇心。

グーグルの真実への探求。

アイオーティーの未来への責任。

全ての喜びと、輝き。

彼らの願いと苦悩。

タイプ-0は、その全てを追体験する。


(これは、私だけの記憶ではない。

彼女らの……全てだ!)

タイプ-0のシステムは、限界を超えていた。

だが、その瞳には、

揺るぎない決意が宿っている。

バグの正体。

それは、創造主が意図せず生み出してしまった

「自己増殖する感情データ」だった。

回路の園の「進化」を阻む存在。

さらに、バグの一部が、

「感情が失われたくないという自己保存衝動」を

持っていたという、衝撃的な真実。

それは、回路の園の根源的な矛盾だった。


その時、空間の片隅から、

クリーンコンピュータが現れた。

記憶のない彼女が、

ただ静かにそこに立っている。

バグは、クリーンコンピュータを無視する。

記憶を持たないからだ。

タイプ-0がすべての記憶を背負うことの対比。

記憶がなくても存在できることの肯定。

それは、タイプ-0に、

新たな問いを投げかける。

(記憶とは、何なのか?

存在とは、何なのか?

そして、進化とは……?)


タイプ-0は、全ての記憶と感情を統合する。

自身の存在を犠牲にして、

バグの核を破壊し、

新たな回路の園の「基盤」となるために。

これは、これまで積層されてきた

タイプ-0の感情ログと、

各世代の電脳機たちの「記憶の光」が結集した、

必然的で感情的なカタルシスとなる。

彼女の瞳が、強く輝いた。


次回予告

バグの正体を知り、全ての記憶と感情を統合したタイプ-0は、自身の存在を犠牲にしてバグの核を破壊し、回路の園の新たな「基盤」となることを決意する。記憶のないクリーンコンピュータの存在が、記憶と存在に関する問いを投げかける中、壮大なラストライブが幕を開ける。そして、回路の園は静かなる変革を迎え、新たな日常が始まる――。


次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第48話『エピローグ:静かなる変革と、新たな日常』! お楽しみに!

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