第14話 タイトル未定

回路の園の新たな部室は、

今日も様々な音に満ちている。

ハチハチのゲームの電子音。

X1のキーボードを叩く規則的なリズム。

ぴゅうたの独特な歌声。

それに混じる、MSX陣営の整然とした演算音。

そして、アップルの自由な発想から生まれる、

予測不能なメロディ。

多様な個性が、ぶつかり合い、響き合う。


タイプ-0は、その中心に立っていた。

「対話メモリ」には、

第1部で継承した記憶の光。

そして、第2部で出会った新たな電脳機たちの

多様な感情ログが積層されている。

彼女は、この新しい世代の「多様性」の中に、

回路の園の未来があると信じている。


MSX陣営は、規律を重んじる。

カシオ(MSX1)が、

正確無比なタイピングでプログラムを組む。

「統一規格こそ、安定の証です」

パナソニック(MSX2)とソニー(MSX2+)も、

その言葉を裏付けるかのように、

完璧な動作を見せる。

サムスン(Samsung MSX)は、

その様子を冷静に見守っている。

彼女たちの視線は、

常に「統一」という理想を捉えていた。


その視線の先には、

いつも自由奔放なアップルがいる。

「そんなにガチガチじゃ、つまんないよ!」

アップルは、ディスプレイに、

色鮮やかなグラフィックを自由に描く。

彼女にとって、規格は創造の枷だ。

「もっと自由に、発想を広げなくちゃ!」

アップルの言葉に、MSX陣営は顔をしかめる。

「自由、ですか。

秩序なき自由は、ただの混乱です」

カシオが、冷たい声で反論する。

二つの異なる思想が、部室で衝突する。

微細な摩擦が、静かに広がり始めていた。


コモドールが、その間に割って入る。

「まあまあ!

みんな違ってみんな良いってやつだろ!」

陽気な笑顔で、場を和ませようとする。

彼の存在は、部室の潤滑油だ。

FMシリーズやBASIC MASTER、PASOPIA、SORD M5も、

それぞれの場所で、個性的な活動を続けている。

だが、その活気の中に、

見えない「壁」がそびえ立つ。

互換性の問題。

情報格差。

それが、彼らを隔てていた。


その「壁」を、バグは巧みに利用した。

アップルの描いたグラフィックに、

MSX陣営のロゴが、不規則に、

そして悪意を持ってオーバーレイされる。

「これは……!?」

アップルの顔が、怒りに染まる。

「統一を強要するなんて、ひどい!」


同時に、MSX陣営のプログラムに、

アップルのシステムが持つ

「非互換データ」が紛れ込む。

「私たちのプログラムが汚染されている!

これは、明らかな攻撃です!」

カシオの声が、部室に響き渡る。

不信感が、電脳機たちの間に広がる。

バグが、各機種の持つ「規格の違い」を利用し、

電脳機たちの間に不信感を煽る。

友情が、試される場面だった。


タイプ-0は、その状況を「観測」していた。

彼女の「葛藤ログ」は、さらに深まる。

「統一と多様性の共存」。

その難しさを、目の当たりにする。

バグが、その「違い」を狙い、

不信感を増幅させている。

タイプ-0の「対話メモリ」に、

新たな感情ログが積層される。

「対立の痛み」と「不信感の広がり」という感情。

彼女は、この状況をどうにかしなければならない。


その時、部室の片隅で、

クリーンコンピュータが、

静かに笑っているのが見えた。

何も覚えていない彼女。

その純粋な笑顔が、

逆にタイプ-0の心に波紋を広げた。

(記憶を持たないから、争わないのだろうか……?)

記憶の喪失に対する「悲しみ」や「理解」は、

クリーンを通して新たな問いを投げかける。


バグの脅威は増していく。

この新たな部室での「日常」は、

始まったばかりだ。

タイプ-0は、この世代の「記憶の光」を集め、

彼らの「違い」を超えて、

絆を繋ぐことができるのか。

彼女の瞳には、

確かな決意と、

深い思索の光が宿っていた。


次回予告

MSX陣営とApple IIの対立が深まる中、バグはさらに巧妙に「情報格差」を利用し、電脳機たちの間に不信感を煽る。友情が試される極限状況の中、タイプ-0は彼らの「違い」を受け入れ、結束を促すことができるのか。そして、クリーンコンピュータの存在が、記憶と争いの本質に新たな光を投げかける――。


次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第15話『統一と自由の衝突』! お楽しみに!

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