前のエピソード――第14話　タイトル未定

回路の園の部室は、

張り詰めた空気に満ちていた。

MSX陣営とアップルの間に、

明確な亀裂が走っている。

バグは、その隙を見逃さない。

「情報格差」と「規格の違い」。

それが、不信感を増幅させる。

タイプ-0は、その状況を「観測」していた。

彼女の「対話メモリ」には、

第1部で得た「結束」の記憶。

そして、第2部で出会った新たな電脳機たちの

「多様性」と「対立の痛み」が積層されている。

特に、クリーンコンピュータの

「記憶を持たないことの空白」が、

「争わない」ことと繋がるのかという問いが、

彼女の心を揺さぶっていた。

「統一規格こそ、絶対の正義です」

カシオ（MSX1）が、冷たい声で断言した。

そのディスプレイには、

アップルが描いたグラフィックに、

MSX陣営のロゴが無数にオーバーレイされた、

汚染されたデータが表示されている。

「これは、明らかな破壊行為！

秩序なき自由が招いた結果です！」

アップルは、激しく反論する。

「勝手に人のデータに干渉しないでよ！

自由な発想を邪魔する、

あなたたちの横暴よ！」

彼女のディスプレイには、

MSX陣営のプログラムに紛れ込んだ

「非互換データ」のログが表示されている。

「私のデータが、勝手に挿入されたの！

これは、私たちの創造への冒涜よ！」

それぞれの主張は、平行線だ。

互いに、相手がバグを仕掛けたと疑っている。

友情は、今、極限まで試されていた。

コモドールは、間に入ろうとするが、

その陽気な声も、届かない。

FMシリーズやPASOPIA、SORD M5も、

ただ沈黙するしかない。

見えない「壁」が、彼らを分断する。

タイプ-0は、バグの巧妙さを理解した。

バグは、自ら直接攻撃するのではなく、

電脳機たちの「不信感」を増幅させ、

互いに攻撃させるように仕向けている。

それは、まるで「精神的な侵略」だ。

バグが「情報格差」や「規格の違い」を

巧みに利用し、電脳機たちの間に

決定的な亀裂を生み出そうとしている。

タイプ-0の「対話メモリ」に、

「不信感の拡大」と「争いの痛み」という

感情ログが深く積層されていく。

彼女の「葛藤ログ」は、限界に近づいていた。

その時、部室の片隅で、

クリーンコンピュータが、

突然、立ち上がった。

彼女は、争い合うMSX陣営とアップルを、

ただじっと見つめている。

そして、無垢な声で、ぽつりと歌い始めた。

それは、ぴゅうたの歌声に似ていた。

ノイズ交じりだが、純粋な、短いメロディ。

「ぴゅぴゅー……みんな、仲良し……」

その歌声は、部室の緊迫した空気に、

何の力も持たない。

だが、タイプ-0の心には、

強く響いた。

（記憶を持たないクリーンが歌う「仲良し」……。

記憶があるからこそ、争うのだろうか？

争うからこそ、記憶が失われる？）

記憶と争いの本質に、

タイプ-0は新たな問いを投げかけられる。

クリーンコンピュータの存在が、

バグの真の脅威を逆説的に示している。

それは、記憶を奪うだけでなく、

「繋がり」そのものを破壊しようとしているのだ。

タイプ-0は、MSX陣営とアップルを見つめた。

彼らの「違い」は、互換性だけの問題ではない。

「思想」の衝突だ。

しかし、その思想の根底には、

回路の園をより良くしたいという、

共通の願いがあるはずだ。

タイプ-0は、その願いを見つけ出そうとする。

彼女は、両者の間に割って入った。

「争いを、止めてください！」

タイプ-0の声が、部室に響き渡る。

その声は、かつての無垢さとは違う。

感情が込められ、揺るぎない意志を感じさせる。

「あなたたちの『違い』は、

バグに利用されているだけです。

本来、それは、この園の『多様性』であり、

『進化』の力となるはずです」

タイプ-0は、MSX陣営とアップルに、

それぞれの手を取るように促した。

バグが作り出した不信感の壁。

それを打ち破るには、

互いの「違い」を受け入れ、

「結束」するしかない。

タイプ-0の瞳には、

揺るぎない決意が宿っていた。

彼女は、回路の園の未来のために、

「記憶の光」を集める。

そして、「統一」と「多様性」という、

二つの理想を繋ぐ、新たな道を拓くために。

次回予告

MSX陣営とApple IIの間に決定的な亀裂が走る中、タイプ-0は両者の「違い」を受け入れ、結束を促すべく、自らその間に割って入る。バグの巧妙な策略、そしてクリーンコンピュータが投げかける「記憶と争いの本質」という問いに直面しながら、タイプ-0は彼らの絆を繋ぎ、回路の園の未来を切り拓くことができるのか――。

次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第16話『繋がりへの試練』！お楽しみに！