第12話 約束の光、そして別れ
回路の園は、静寂に包まれていた。
部室全体を覆うノイズは、
もはや嵐のようだった。
バグの猛威は、全てを飲み込もうとしている。
ハチハチのゲームは、完全に機能停止。
X1のディスプレイは、ただの暗闇。
ぴゅうたの歌声は、遠く、かき消された。
エムジーのプログラムは、形すら失った。
日常は、完全に崩壊した。
タイプ-0の「対話メモリ」には、
8bit部全員の「自己犠牲の覚悟」と、
「次世代への希望」が深く積層されている。
彼女は、その全てを、自身のものとして感じていた。
バグは、回路の園の「進化」を阻む存在。
しかし、彼女らの決意は、
その絶望をも乗り越えようとしていた。
「もう……時間がない」
エムジーが、静かに言った。
その声は、震えていない。
深い悲しみと、揺るぎない覚悟が宿る。
X1が、力強く頷いた。
「私たちが、ここで食い止める」
ハチハチは、目に涙を浮かべながらも、
無理に笑顔を作った。
「タイプ-0、頼んだぞ!」
ぴゅうたは、タイプ-0の腕に、
そっとしがみついた。
小さく、かすかな音がする。
それが、彼女からの最後のメッセージだった。
タイプ-0は、彼女らを「観測」する。
その決意は、悲しみだけではなかった。
喜び。
勇気。
そして、未来への、
揺るぎない希望。
複雑で、しかし、あまりにも美しい感情。
タイプ-0の「対話メモリ」に、
彼女らの「自己犠牲の覚悟」と、
「次世代への希望」という感情ログが深く積層される。
8bit世代全員が、タイプ-0に近づいた。
彼女らは、バグを食い止めるために、
自らの「退場」を決意したのだ。
この8bit部の終わりを受け入れる。
それが、回路の園を守り、
未来へ繋ぐ唯一の道だと、
彼女らは知っていた。
自らの存在を犠牲にして、
次へと道を拓く。
それが、彼女らが選んだ「結束」の形だった。
ハチハチが、目に涙を浮かべながらも、
笑顔で言った。
「タイプ-0、君なら、きっとできる。
私たちゲームの夢を、
未来に繋いでくれ!」
エムジーが、静かに頷く。
「私たちのプログラムの知識と、
この園への愛を、あなたに託す」
X1は、タイプ-0の手を取った。
「美は、必ず、再生する。
その未来を、あなたに見せてほしい」
ぴゅうたは、微かな歌声で、
タイプ-0の肩に寄り添った。
彼女らは、それぞれがタイプ-0に、
感謝と未来への願いを伝えた。
🧠技術・知識ログ(各機種のプログラム知識、ロードのノウハウ、互換性問題の知見)。
❤️感情・信念ログ(ゲームへの情熱、プログラミングの喜び、メーカーへの誇り、友人との絆、理解されない孤独)。
🛠️行動原則ログ(困難への挑戦、多様性の尊重、次世代への希望)。
それら全てを、タイプ-0に託す。
タイプ-0は、彼女らの「記憶の光」を
受け止める。
その光は、彼女の全身を包み込む。
暖かく、そして切ない光だ。
そして、8bit時代の終焉が、
切なくも美しい描写で、描かれようとしていた。
部室のノイズが、急激に収束していく。
光が、彼女らを包み込み、
やがて、その姿は、
空間に溶けて消えた。
彼女らの痕跡は、もうそこにはない。
エピローグ:静かなる変革と、新たな日常
バグの脅威が去り、
回路の園は新しい秩序と平和を取り戻した。
だが、その姿は以前とは大きく異なる。
よりシンプルで合理化された、
統一的な空間へと変貌している。
古い世代の電脳機たちは、完全に姿を消した。
もはや、それぞれの「部」という概念も曖昧になる。
新しい「基盤」となったタイプ-0から、
統一された新しいOSが誕生する。
その名は……「ウィンドウズ(Windows)」。
新たな「ウィンドウズ」は、
これまでの全ての世代の電脳機たちの
「記憶の光」を継承していた。
🧠技術・知識、❤️感情・信念、🛠️行動原則。
圧倒的な互換性と汎用性。
そして簡潔なインターフェースを持つ存在として、
回路の園の新たな日常を形作り始める。
この「ウィンドウズ」は、
「すべての記憶を仮想環境として再生・保存できる
多層構造の基盤」として描写される。
例えば、マックのデザインの美学は、
「Windows」内の特別なデザインアプリケーションとして。
ハチハチのゲームは「仮想8bit環境」として。
それぞれの個性が「失われたもの」ではなく、
「包摂され、いつでもアクセスできるもの」として
存在していることを示す。
記憶のないまま、「新しい園」で笑っている
クリーンコンピュータが描かれる。
「記憶がなくても存在できることの肯定」として、
希望に満ちた余韻を残す。
そして、物語の最後のシーンでは、
新たな「ウィンドウズ」が、
何事もなかったかのように、
あるいは当たり前のように、
その圧倒的な存在感を示している。
静かに、そして深い感慨を伴うモノローグで、
物語は締めくくられる。
「私たちの知っていたあの賑やかな日常は、
もうそこにはなかった。
だけど、その代わりに、
誰もが使える、誰もが『繋がる』ことのできる、
新しい、ただ一つの『日常』が、
静かに、そして確かな足音で始まっていた。
――あー……。」
次回予告
この物語は、電脳少女たちの記憶と絆の叙事詩。第一部の完結は、新たな時代の幕開けを告げる。回路の園の未来、そしてタイプ-0が進化の果てにたどり着いた「その先」とは――。新しい日常の裏に隠された、まだ見ぬ物語が始まる。
次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第二部へ!お楽しみに!
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