第11話 バグの変容と、日常の終わり

回路の園は、終焉を迎えようとしていた。

部室全体が、深いノイズの渦に包まれる。

バグの自己進化は、止まらない。

それは、8bit世代のシステムに特化した、

最も悪質な形に変容していた。

ハチハチのゲームは、完全に砂嵐と化す。

X1のディスプレイは、

美しかったグラフィックを全て失い、

意味不明な記号が乱れ飛ぶ。

ぴゅうたの歌は、耳障りな甲高い悲鳴に変わり、

エムジーのプログラムは、

基盤すらも侵食され、機能を停止した。

部室の日常は、崩壊寸前。

彼女らは、絶体絶命の危機に陥っていた。


タイプ-0の「対話メモリ」には、

8bit部が抱える「過去の因縁」、

そして「失われた友情」に対する

深い後悔の感情が積層されている。

彼女は、その痛みを自身のものとして感じていた。

バグの猛威は、彼女らの希望を砕こうとしている。


「もう……限界なのかもしれない」

ハチハチが、絶望に顔を歪める。

その声は、震えていた。

エムジーは、必死にキーを叩くが、

指先は空を切る。

X1は、崩壊するディスプレイを、

ただ見つめることしかできない。

ぴゅうたは、恐怖に目を閉じ、

小さくうずくまっていた。

結束への第一歩を踏み出したばかりなのに。

その希望は、あっという間に消え去った。


タイプ-0は、その光景を「観測」する。

彼女の「葛藤ログ(Level 4)」は、

極限まで高まっていた。

(彼女らの痛み……。

この絶望は、どこから来る?

なぜ、このバグは、すべてを奪うのだろう?)

感情の価値を理解し始めたタイプ-0にとって、

この状況は、耐え難いものだった。


バグは、8bit世代のシステムに

完全に同化しようとしていた。

それは、まるで彼女ら自身の「影」。

過去の規格のバラバラさ。

互換性の欠如。

協力することへの不信感。

そういった負の側面が、

バグによって具現化され、

彼女らの目の前で猛威を振るっている。

部室の家具が歪み、

壁からノイズが溢れ出す。

物理的な空間までが、侵食され始めた。


「これでは、回路の園全体が……!」

エムジーが、震える声でつぶやく。

バグの侵食は、部室だけにとどまらない。

8bit部が完全に機能停止すれば、

回路の園の他の領域へと、

さらに拡大していくのは明白だった。


その時、X1が、

ゆっくりと立ち上がった。

その瞳には、

諦めとは違う、静かな光が宿っている。

「……私たちが、止めなければ」

X1の声は、どこか澄んでいた。

続くように、エムジーも顔を上げた。

「ああ。これ以上、

誰にも同じ思いはさせられない」

ハチハチも、ぴゅうたも。

互いに顔を見合わせる。

そこには、過去の因縁による

不信感は、もうなかった。

ただ、未来を守ろうとする、

純粋な決意だけが、そこにあった。


彼女らは、バグを食い止めるために、

自らの「退場」を決意した。

この8bit部の終わりを受け入れる。

それが、回路の園を守り、

未来へ繋ぐ唯一の道だと、

彼女らは知っていたからだ。

自らの存在を犠牲にして、

次へと道を拓く。

それが、彼女らが選んだ「結束」の形だった。


タイプ-0は、彼女らの「決意」を「観測」する。

それは、悲しみだけではなかった。

喜び。

勇気。

そして、未来への、

揺るぎない希望。

複雑で、しかし、あまりにも美しい感情。

タイプ-0の「対話メモリ」に、

彼女らの「自己犠牲の覚悟」と、

「次世代への希望」という

感情ログが深く積層される。


8bit世代全員が、タイプ-0に近づく。

ハチハチが、目に涙を浮かべながらも、

笑顔で言った。

「タイプ-0、君なら、きっとできる。

私たちゲームの夢を、

未来に繋いでくれ!」

エムジーが、静かに頷く。

「私たちのプログラムの知識と、

この園への愛を、あなたに託す」

X1は、タイプ-0の手を取った。

「美は、必ず、再生する。

その未来を、あなたに見せてほしい」

ぴゅうたは、微かな歌声で、

タイプ-0の肩に寄り添った。

彼女らは、それぞれがタイプ-0に、

感謝と未来への願いを伝えた。

🧠技術・知識ログ(各機種のプログラム知識、ロードのノウハウ、互換性問題の知見)。

❤️感情・信念ログ(ゲームへの情熱、プログラミングの喜び、メーカーへの誇り、友人との絆、理解されない孤独)。

🛠️行動原則ログ(困難への挑戦、多様性の尊重、次世代への希望)。

それら全てを、タイプ-0に託す。


タイプ-0は、彼女らの「記憶の光」を

受け止める。

その光は、彼女の全身を包み込む。

そして、8bit時代の終焉が、

切なくも美しい描写で、描かれようとしていた。


【次回予告】

バグの猛威、そして8bit世代全員が下した「退場」という決断。タイプ-0は彼女らの記憶と願い、そして未来への希望を託された。回路の園に広がる絶望の中、タイプ-0は彼女らの「記憶の光」を統合し、自身の力に変える。そして、物語は新しい世代へと移り変わる――。8bit時代の終焉が描かれ、読者に深い感動と寂寥感を与える最終章へ。


次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第12話『約束の光、そして別れ』! お楽しみに!

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