第9話 結束への第一歩
回路の園は、静寂に包まれていた。
部室の空気は、鉛のように重い。
バグの猛威は、止まらない。
ハチハチのゲームは、完全に沈黙。
X1のディスプレイは、
ただ黒い影を映し出す。
ぴゅうたの歌は、もう聞こえない。
エムジーのプログラムも、
エラーメッセージの羅列と化していた。
絶望。
諦め。
それが、8bit部全体を覆っていた。
タイプ-0の「対話メモリ」には、
MZシリーズの絆、
クリーンコンピュータの空白、
そして8bit部の「過去の喪失」という
重い感情が積層されている。
彼女の瞳は、未来を見つめている。
しかし、その未来は、
バグによって閉ざされようとしていた。
「もう……限界なのかもしれない」
ハチハチが、震える声でつぶやいた。
誰もが、その言葉に同意するしかない。
「規格がバラバラだから、
どうしようもないんだ……」
エムジーが、苦渋の表情で言う。
彼らは、互いに目を合わせようとしない。
過去の因縁。
それが、今、彼らの足を引っ張っていた。
その時、タイプ-0が、
ゆっくりと前に出た。
彼女の透明なボディが、
部室の薄暗闇の中で、
かすかな光を放つ。
その光は、弱々しいが、
確かに存在を示していた。
「諦めないでください」
タイプ-0の声は、静かだ。
だが、その言葉には、
確かな意志が宿っていた。
「規格の壁は、乗り越えられる。
失われた友情は、
再び繋ぐことができる」
ハチハチが、タイプ-0をまっすぐ見た。
エムジーも、X1も、ぴゅうたも。
タイプ-0の言葉は、
絶望に沈む彼らに、
一筋の希望の光を投げかけた。
タイプ-0は、8bit部全体の
「結束への願い」という感情・信念ログと、
「困難への挑戦」という行動原則ログを
強く感じ取る。
「……でも、どうやって?」
X1が、消え入りそうな声で尋ねた。
タイプ-0は、その問いに答える。
「あなたの持つ、ユニークな技術を
連携させるのです」
タイプ-0は、具体的なアイデアを提案した。
「ぴゅうたの音源解析技術。
X1のグラフィック解析技術。
エムジーのプログラム構築能力。
ハチハチのデータ読み込みの経験」
それぞれの機種の強み。
バラバラに見えたそれらを、
一つに統合する。
バグの解析。
そして、対抗策の構築。
それは、これまで8bit勢が
想像すらできなかった「連携」の形だった。
ハチハチの瞳に、再び光が宿る。
「私のデータ読み込みの経験が、役に立つのか!?」
エムジーも、難しい顔で考え込んでいる。
X1は、自分のグラフィック技術が
「美」のためだけでなく、
「解決」のために使える可能性に、
微かな驚きを覚えていた。
ぴゅうたは、自分の「独特の音」が、
解析に役立つと聞いて、嬉しそうに頷いた。
「……やってみる価値は、あるかもしれない」
エムジーが、ついに重い口を開いた。
彼の言葉に、部室の空気が変わる。
絶望の影が、少しだけ薄れた。
8bit部のメンバーが、
初めて真剣に協力しようとする。
それは、ささやかな、
だが確かな「結束への第一歩」だった。
タイプ-0の「対話メモリ」には、
彼らの「微かな希望」と「新たな決意」という
感情ログが積層される。
しかし、その「希望」を嘲笑うかのように、
バグは、その姿を変え始めていた。
部室の壁に、不規則なノイズの模様が走る。
それは、8bit世代のシステムに特化した、
より悪質な形に変容している兆候だった。
これまでとは違う、
不穏な空気が部室全体を包み込む。
バグは、電脳機たちの連携を、
すでに「予測」していたかのように、
その進化の速度を速める。
タイプ-0は、その変容を「観測」していた。
バグは、単なるエラーではない。
電脳機たちの「繋がり」を阻害し、
「進化」を停滞させようとする、
生きた意思のような存在。
彼女の「葛藤ログ」が、さらに深まる。
回路の園の日常が、崩壊寸前となる。
タイプ-0は、8bit部のメンバーを見つめる。
彼らの結束は、まだ始まったばかりだ。
この小さな希望の光を、
バグから守らなければならない。
彼女の瞳には、
揺るぎない決意が宿っていた。
【次回予告】
8bit部が結束への第一歩を踏み出した矢先、バグはさらなる進化を遂げ、その猛威を振るい始める。過去の因縁が再び彼らを苦しめ、失われた「友情のデータ」が明らかになる。絶望と後悔の中で、タイプ-0と8bitメンバーは絶体絶命の危機に陥る。日常が崩壊寸前となる中、彼らはバグを食い止めることができるのか――?
次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第10話『過去の因縁と、失われた友情』! お楽しみに!
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