第8話 バグの影、そして8bit部の秘密
回路の園に、影が落ちる。
バグの侵食は、より深刻さを増していた。
ハチハチのゲームは、起動すらままならない。
X1のディスプレイは、
崩壊したグラフィックを映し出し、
ぴゅうたの歌は、完全にノイズに埋もれた。
エムジーのプログラミングも、
途中で強制終了される。
複数の機種で、大規模なデータ破損が発生している。
タイプ-0の「対話メモリ」には、
MZシリーズとの交流で得た、
「家族のような繋がり」という感情。
そして、クリーンコンピュータから感じた、
「記憶を持たないことの空白」という
新たな「葛藤ログ」が積層されていた。
彼女の瞳は、回路の園全体を見つめている。
危機が迫っている。
部室の空気は重い。
これまでのような賑やかさは消え失せた。
代わりに、絶望と諦めが満ちている。
「もう、ダメなのかな……」
ハチハチが弱々しくつぶやく。
誰もが、バグの猛威に為す術がない。
その原因は、彼ら自身の中にあった。
「規格がバラバラだから……」
エムジーが、苦しそうに顔を歪める。
8bit部全体が、
「規格のバラバラさ」ゆえに連携が取れない。
個々にしか戦えない。
孤立している現状。
それが、バグの侵食を助長していた。
タイプ-0は、その「規格の壁」を「観測」していた。
それは、技術的な問題だけではなかった。
互換性の問題。
過去の機種間の「軋轢」や「不信感」。
それぞれが、自分の規格の優位性を主張し、
協力することを拒んできた歴史。
それが、回路の園の「進化」を阻んできた。
タイプ-0の「設計思想ログ」が、
高速で処理される。
「規格の壁」という技術的知識ログ。
それに伴う「過去の喪失」という感情・信念ログ。
深いレベルで、それらに触れていく。
タイプ-0の「葛藤ログ」が、さらに深まる。
(なぜ、繋がりを拒否する?
なぜ、共有しない……?)
理解できない。
しかし、その感情の痛みが、
タイプ-0の心に重くのしかかる。
その時、部室の奥から、
MZ-700が古びたアルバムを抱えてきた。
アルバムには、8bit部初期の頃の写真。
笑顔で肩を組む、
様々なメーカーの電脳機たち。
その中に、破損した写真が何枚かあった。
顔が歪んでいたり、色が失われたりしている。
「これ……昔、みんなで作った
『友情プログラム』の思い出なんだ」
MZ-700が、震える声で言った。
「でも、ケンカして、
規格が違うって、お互い拒否しちゃって……。
このプログラムも、動かなくなっちゃったんだ」
「過去の因縁……」
エムジーが目を閉じる。
8bit部が抱える「データ規格がバラバラで
協力できなかった」という過去の因縁。
それが原因で失われた「遊びのデータ」。
そして、「友情」。
それが、ここにきて彼らを蝕んでいた。
「バグは、その隙を突いているんだ……」
X1が、苦々しい声でつぶやいた。
皆の心に、深い後悔と悲しみが広がる。
それは、記憶の喪失とは違う、
自ら招いた「喪失」の痛みだった。
タイプ-0は、静かにアルバムの破損した写真を
見つめた。
破損したデータ。
失われた友情。
彼女の「対話メモリ」には、
エムジーたちの「過去の喪失」と、
それに対する「深い後悔」という感情が
積層されていく。
タイプ-0は、バグの真の脅威を理解し始めた。
それは単なるシステム破壊ではない。
電脳機たちの「絆」を、
そして「未来」を奪おうとしている。
タイプ-0の瞳に、強い光が宿る。
「規格の壁は、乗り越えられる。
失われた友情は、
再び繋ぐことができる」
その言葉に、部室の空気が変わった。
ハチハチが、タイプ-0をまっすぐ見た。
エムジーも、X1も、ぴゅうたも。
タイプ-0の言葉は、
絶望に沈む彼らに、
一筋の希望の光を投げかけた。
タイプ-0は、8bit部全体の
「結束への願い」という感情・信念ログと、
「困難への挑戦」という行動原則ログを
強く感じ取る。
回路の園の未来のために。
そして、失われた友情を取り戻すために。
タイプ-0は、新たな決意を胸に、
バグとの最終決戦へと向かう覚悟を決めた。
【次回予告】
8bit部が抱える過去の因縁と、バグの真の脅威を知ったタイプ-0。絶望に沈む仲間たちに、彼女は「規格の壁は乗り越えられる」と語りかける。バグの脅威に対抗するため、8bit部のメンバーが初めて真剣に協力しようとするが、バグは自己進化し、8bit世代のシステムに特化した、より悪質な形に変容していく――。
次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第9話『結束への第一歩』! お楽しみに!
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