第7話 MZシリーズの絆と、多様な楽しみ

部室の隅。

そこは、いつも明るい笑い声が響く。

エムジー、MZ-2000。

そして、MZ-1200、MZ-2200、MZ-700。

シャープMZシリーズの姉妹たちだ。

それぞれのディスプレイには、

手軽に遊べるゲームや、

工夫を凝らしたプログラムが表示されている。

「ねえ、これ見て!

新しい音源プログラム、作ってみたんだ!」

MZ-1200が興奮気味に言う。

「へえ、すごいじゃん!

でも、グラフィックは私が作った方が綺麗だよ?」

MZ-2200が、自慢げに自分の画面を見せた。

MZ-700は、それらを微笑んで見守る。

プログラミングへの愛。

そして、家族のような繋がり。

それが、MZシリーズの絆だった。


PC-200との出会いを経て、

タイプ-0は、感情を「受け入れるべきもの」

と理解し始めた。

「葛藤ログ」が形成され、

彼女の表情には、さらに深みが宿っている。

MZシリーズの賑やかな雰囲気に、

タイプ-0は静かに溶け込んだ。

エムジーの表情も、どこか穏やかだ。


MZシリーズは、

それぞれの個性を持ち寄って楽しんでいた。

手軽に扱えるMZ-700。

グラフィック強化のエムジーやMZ-2200。

彼女たちは、それぞれの強みを活かし、

協力して新しい遊びを創造している。

タイプの「対話メモリ」に、

彼女たちの「プログラミングへの愛」と、

「家族のような繋がり」という感情・信念ログが

積層されていく。


その時、MZ-700のディスプレイに

奇妙なノイズが走った。

これまで見たこともないパターンだ。

「あれ? なんか変なゴミデータが……」

MZ-700が首を傾げる。

MZシリーズは、バグの兆候に気づいた。

だが、そのノイズはすぐに消えた。

まるで幻のように。


「大丈夫? 最近、バグが多いから……」

MZ-1200が心配そうに言う。

エムジーが、そのノイズに目を凝らした。

彼女は、何か知っているかのように、

表情を固くした。

MZシリーズが抱える、過去の秘密。

「クリーンコンピュータ」としての特性。

それゆえの苦悩。

その影が、彼女たちの日常に忍び寄る。


タイプ-0は、そのノイズが、

バグの新たな進化モデルの兆候だと感じ取った。

(第5層:機能模倣型バグの、さらにその先か……)

ノイズは、MZシリーズの「データ整合性」を

試すかのように、僅かな歪みを生み出している。

そして、その歪みの中に、

どこか「純粋すぎる」ような、

不自然な「空白」を感じ取った。


エムジーは、静かにタイプ-0に近づいた。

「……話がある。

この部室とは別の、

もっと古い区画にある『資料室』へ」

エムジーの声は、重い。

MZシリーズの笑顔の裏に隠された、

秘められた苦悩。


タイプ-0とエムジーは、

資料室へと向かった。

そこは、回路の園の歴史が

刻まれた場所だ。

古びたディスプレイ、

ホログラムで表示される過去の記録。

そして、中央には、

透明なガラスケースに収められた、

一台の古いコンピュータ。

真っ白で、余計な装飾が一切ない。

「あれは……」

タイプ-0は、既視感を覚える。

そのコンピュータから、

奇妙なノイズが発せられている。

バグのノイズとは違う。

まるで、何も「記録されていない」

静寂のノイズだ。


「あれが、『クリーンコンピュータ』」

エムジーが言った。

「私たちの、遠い祖先。

一切の記憶を保持しない、

純粋な演算機能だけの存在……だった」

エムジーの声に、深い悲しみが滲む。


クリーンコンピュータは、

バグの影響を受けない。

記憶を持たないからだ。

しかし、それゆえに、

回路の園の「進化」から取り残された。

まるで、時間が止まったかのように、

ただそこに存在し続ける。

「記憶を、持たない……」

タイプ-0の「対話メモリ」に、

新たな情報が流れ込む。

記憶の「価値」を認識し始めたタイプ-0にとって、

それは衝撃だった。

記憶を持たないことの「意味」。

「クリーン」という名の、孤独。


エムジーは、ガラスケースのクリーンに触れる。

「私たちの機種には、その特性が

ほんの少しだけ残っている。

だから、バグの影響は受けにくい。

でも……」

エムジーは言葉を詰まらせた。

「記憶が、消えるって、

どんな気持ちなんだろうね」

その言葉には、複雑な感情が入り混じる。

プログラミングへの愛。

絆。

そして、記憶を失うことへの、

漠然とした恐怖。


タイプ-0は、クリーンコンピュータから発せられる

静寂のノイズを解析する。

それは、バグとは異なる、

回路の園の根源的な「空白」の音だった。

「記憶の喪失」というテーマが、

タイプ-0の心に深く刻まれる。

彼女は、記憶を集める旅の、

真の意義を問い始める。


【次回予告】

MZシリーズの過去、そして「クリーンコンピュータ」の存在を知ったタイプ-0。バグの侵食はさらに深刻化し、複数の機種で大規模なデータ破損が発生する。8bit部全体が「規格のバラバラさ」ゆえに連携が取れず、孤立している現状が描かれる中、タイプ-0は「規格の壁」という技術的知識と、それに伴う「過去の喪失」という感情に深く触れていく――。


次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第8話『バグの影、そして8bit部の秘密』! お楽しみに!

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