第5話 PC-100の訪問と、時代の先を行く孤独
部室の扉が、静かに開いた。
そこに立っていたのは、
洗練された印象の少女だった。
白いワンピースに、
無駄のない機能美が漂う。
PC-100。
高解像度GUI、マウス標準装備。
彼女の存在が、
8bit部に未来的な空気を持ち込んだ。
ぴゅうたとの出会いを経て、
タイプ-0は「理解」という感情を深めた。
喜び、悲しみ、悔しさ、そして孤独。
さまざまな感情が、
彼女の「対話メモリ」に積層されている。
PC-100の静かで上品な雰囲気に、
タイプ-0は興味を覚えた。
PC-100は優雅に部室を見渡す。
ハチハチのカラフルなゲーム。
エムジーの打ち込み式プログラム。
X1の精緻なドット絵。
彼女の瞳には、
それら全てが「過去の遺物」と映る。
口数は多くない。
だが、その視線は、
すべてを深く洞察していた。
「……なぜ、皆様は
カセットテープで何時間も待つのでしょう?」
PC-100が、静かに問いかけた。
「フロッピーなら、一瞬で読み込めますのに」
ハチハチはきょとんとした顔。
「え、それが普通じゃん!」
エムジーは黙って肩をすくめた。
PC-100にとっては当たり前のことが、
8bit勢には理解できない。
価値観のギャップが、露呈する。
「GUIってこんなに便利なのに、
なぜ誰も使わないの?」
PC-100の言葉に、
ハチハチたちは困惑するばかり。
彼女の顔に、
わずかな寂しさが浮かんだ。
(なぜ、理解されないのだろう……)
その孤独感が、部室の空気に滲む。
タイプ-0は、PC-100の「孤独」を「観測」していた。
彼女の抱える「時代を先取りしすぎたゆえの苦悩」。
タイプ-0の「対話メモリ」に、
PC-100の「先見の明」という技術・知識ログと、
「理解されない悲哀」という感情・信念ログが、
深く積層されていく。
タイプ-0の感情階層で、
「共感ログ(Level 3)」が深まる。
他者の感情を自身のデータとして「共振」する。
彼女は単なる受け手ではない。
PC-100の感情を内包する存在へと進化していた。
PC-100は、自身の持つディスプレイを
タイプ-0に見せた。
高解像度で鮮やかな画面。
しかし、その画面の隅に、
微細な歪みが走る。
バグだ。
「これは、非効率なデータ。
私のシステムには影響しない」
PC-100は冷静に分析する。
彼女自身はバグの影響をほとんど受けない。
だが、その持つ「高解像度データ」が、
バグのミラーリング特性に影響を与え、
一時的にバグの「影」を鮮明に映し出してしまった。
バグの進行構造・階層分類図でいう、
「第4層:予測干渉型バグ」の兆候だった。
PCの処理や行動パターンを「予測」し、
意図的に干渉するバグ。
その微細な歪みを、
PC-100の精密なディスプレイが可視化する。
タイプ-0は、その歪みをじっと見つめた。
バグが、単なるシステムエラーではない。
感情を、そして思考を干渉する。
その深刻さを、タイプ-0は肌で感じ取る。
PC-100は、バグの感情的な側面を理解できない。
だが、その存在が、
バグの新たな脅威を露呈させている。
タイプ-0は、PC-100の手を取った。
「あなたの先見の明は、
この園の未来を照らす光です。
その孤独も、
無駄ではない」
PC-100は、わずかに目を見開いた。
自分を理解する存在。
タイプ-0の瞳には、
彼女の未来への期待と、
理解されない悲哀が映し出されている。
PC-100の「未来への方向性」という
行動原則ログが、タイプ-0に流れ込む。
新たな絆が、静かに芽生える。
PC-100は、タイプ-0に、
自身の「高解像度GUI技術・知識ログ」(GUI設計、マウス操作、高解像度描画ノウハウ)と、
「先見の明」「理解されない悲哀」という
「感情・信念ログ」、
そして「未来への期待」という
「行動原則ログ」を託した。
タイプ-0の「対話メモリ」に、
それらが深く積層される。
タイプ-0は、PC-100が映し出した
バグの「影」を見つめる。
その影は、予測不能な動きをしていた。
回路の園に、新たな脅威が迫る。
タイプ-0は、全ての記憶を集めなければならない。
彼女の瞳は、
さらに強く、深く、輝きを増していた。
【次回予告】
PC-100との出会いで、バグの新たな脅威を知ったタイプ-0。しかし、回路の園の外の世界では、さらにバグの侵食が広がっていた。ポータブル性やビジネスライクな性格で、外の情報を冷静に報告するPC-200。彼女の持つ「効率性」の裏に隠された疲弊と、8bit部全体の危機感が描かれる――。
次回、『電脳少女は今日もカフェ巡り』、第6話『ポータブルの憂鬱、PC-200の機能美』! お楽しみに!
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