4日目 口ずさむ【SF/おおいなるものに立ち向かう話/618字】
大講堂が包囲されてからすでに一週間が経過した。立てこもっていた学生たちは、それでも希望を失っていなかった。電気は途絶していたが、災害に備えて買い溜めていたモバイルバッテリーが役に立ち、自分たちの姿が動画配信サイトを通じて全世界に中継されていた。みんなどちらに非があるか理解してくれるだろう。みんなどちらに理があるか理解してくれるだろう。
『武器を捨てて投降しろ』
拡声器からわんわんと無機質な声を響く。
『お前たちの親は泣いているぞ』
「嘘をつくな」
隣にいた青年が、小さな声で反論する。
「俺の両親はもう死んでいる」
子供を大学にやっていたような知識層はもうこの国にはいない。一部は海外に脱出した。残った者たちは危険思想の持ち主として収容所に送られた。
「きっと天国にも行けずに、そのへんで俺を見ているさ。そして言うだろうよ。最後まで戦ったお前を誇りに思うと」
「違いない」
不意に、女子学生の歌声が聞こえてきた。聞き覚えのあるフレーズだった。確かミュージカルの歌だ。まだこの国に文化というものがあった頃に大学の演劇サークルがやっていたのを恋人と見に行った。あの頃はただ見ていただけだったけれど、今となっては実感を持って心に響いてくる。
俺たちは口ずさみながら立ち上がった。
これが最後の戦いになるだろう。
でも、みんなが、見ている。
世界が。
この国にまだ文化というものがあった頃に聞いたあの歌を歌う。
自由を求める革命の火が、消えぬようにと祈りながら。
「行くか」
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