3日目 鏡【異世界ファンタジー/双子の姉妹の話/682字】

 ユリアとマリアは双子の姉妹だ。村じゅうの人間にそっくりだと言われて育った。けれどこの村には鏡がないので、ユリアはマリアの顔しか知らなかったし、マリアはユリアの顔しか知らなかった。自分の顔をはっきりと見たことがなかったのだ。村の中を流れる小さな水路の水面にぼんやり映る顔を見る限りでは、確かに似ているような気がする。けれど絶え間なく流れ続ける水面の動きで像は揺れ動き、ユリアとマリアは確信を得られずに互いの顔を見合わせるばかりであった。


 双子が六歳になった頃のこと、村にちょっとした慶事があった。なんと、村で作っていたワインの品質が良いとのことで、女王陛下から褒美の下賜があったのである。


 女王陛下の使いの者が羊皮紙に書かれた目録を持ってきて、列挙された下賜品の項目を読み上げる。牛一頭、馬一頭、乾燥させた大豆を村人三百人の一年分、そして――鏡を一枚。


 こうして村に鏡がやって来た。


 一枚しかない鏡は、村の教会に飾られた。村の人々は鏡を覗きにこぞって教会を訪れた。


 さて、いよいよユリアとマリアの番が回ってきた。


 双子は驚いた。


 二人同時に鏡を覗くと、鏡の中にまったくふたつ同じ顔があるではないか。


 なんだ、ユリアとマリアは、本当にそっくりだったのか。


 周りで見ていた双子の母が、「二対、よっつ同じ顔があるわ」と笑っていたが、双子もそれをおおいに喜び、世界とはそういうものなのだと認識した。


 以来、双子は鏡を見ていない。自分の顔を見たくなったら、片割れの顔を見ればいいのである。二人はそれで満たされた。


 ずっと二人なら怖くない。だって片割れは自分自身、もう一人の自分に他ならないのだから。





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