まっすぐに立つことが怖い、と言ったのはフランツ・カフカだったでしょうか。
わたしはこの物語を読みながら、ずっと彼の言葉を考えていました。
天地も左右もわからず、薄氷を踏むように足元もおぼつかず、ただ心と体が育っていく痛みに涙も流せず泣いていた16歳の自分を思い出しました。
主人公のかすみ、そして彼女を取り巻く子供たち、見守る大人たちも、そんな痛みにまっすぐに向き合い、生き抜く姿が眩しく美しい物語でした。
ただ美しいだけではなく、痛みや苦しみ、自分の穢れ(と思える部分)も飲み込んで、糧にする、そんな強さも感じられます。
今は大人になった人にも、これから大人になろうとしている人にも、ぜひ読んでいただきたい物語です。
かすみと颯太に立ちはだかる、胸が苦しくなる恋と葛藤に頭を抱えたくなる青春小説です。
周りの大人たちの造形もかすみを子ども扱いせず、これから熟していくであろう青い感情に向き合ってそっと背中を押してくれ、じんわりと心温かく読みました。
そしてラスト……あまり書くとネタバレになりますが、主人公のハンドメイドの腕が、矜恃が、ここまで輝く展開になるとは思いもしませんでした。
ゆっくりと紡がれる恋は、ただお姫様が幸せになるだけで終われません。颯太の余命少ない幼馴染の願い、自分の気持ちを上手く伝えられない主人公の苦しみ、襲いかかる過去のトラウマ。
一口に恋愛小説と呼ぶには青く苦い、それでもきっと大人になって何度も取り出して見返すような季節を生き抜いた彼女らの結末を、見届けてほしいです。
読むことを途中でやめられなかった。
どっぷりとお話の中に入り込み、ただただ、
「ああ……」
と声を出すのみ。
主人公のかすみちゃんの成長物語であることも間違いないのだけど……
なんだろ、こう……所々に詰められた
「ああ……」
と言わざるを得ない言葉の欠片が溢れていて、とにかく私は今、ふわふわしている。
ああ、そう。
うん、そう。
そうだね、わかる。
それを語源化できるの?
そうだ、
「それを語源化できるの???」
がいっぱいあったのがとんでもなくすごかった!!!
レビューがレビューでなくなっていくの、まったくもって申し訳ない限りなんだけど、非常に素晴らしい、心に響く作品です。
キャラクターも活きてるし、ストーリーもいい。
なにより、
「生きろ」
がちゃんと詰まっている。
人間は弱い。けど、強く生きよう、があった。
沢山の方に読んでいただきたい。
そして
「ああ……」
ってなってほしい作品です。