点滅

ヤマ

点滅

 広場の片隅に、奇妙な電光掲示板がある。


 高さ、幅ともに小規模なビルに匹敵する巨大な構造物で、全面には数十億個の小さな豆電球が縦横にびっしりと並び、時折、発光のパターンによって、何かを描き出す。


 しかし、それは広告ではなかった。

 天気予報でも、交通情報でもない。


 図形、記号、幾何学的な線——意味のわからないものばかりが、規則性もなく現れては消える。


「壊れているのでは?」

「芸術作品だって話だ」

「人工知能が制御しているらしい」


 噂ばかりが囁かれたが、誰にも真相はわからない。





 そんな中、ある学者が発表した仮説が話題となった。


 曰く、「あれは、掲示板ではない。あれこそが、だ」と。


 個々の電球は、自動制御されておらず、すべて、人間の「生死」に対応して点滅しているという。


 誰かが生まれれば、一つが点き、

 誰かが死ねば、一つが消える。


 明滅のタイミングは、完全に自然の摂理に任されている。


 つまり、あの電光掲示板は——


 我々の存在のパターン——生まれ、生き、死ぬという点の集合——が描き出す、偶然の総体。


 意味はない。

 意志もない。


 ただ、人間の生滅が、

 図形を、

 記号を、

 文様を織りなす。


 さながら、運命と呼ばれるもののように——









 しかし、問題はそこからだった。









 どう見ても「偶然の産物」とは思えない、明確な「形」が出現するようになったのだ。


 古代文字に酷似した文様。

 星座のような、何かを結ぶ、まっすぐな線。

 繰り返す明滅の中に潜む、数列のような秩序。


「これは単なる偶然か?」

「誰かが操作しているのか?」

「あるいは、人間の行動そのものが……、何かに支配されているのか?」


 様々な憶測が飛び交ったが、当然のように結論は出なかった。











 その日——


 電光掲示板は、一際はっきりとしたを描き出した。


 夜の街に、冷たく浮かぶその文字を、人々は息を呑んで見上げていた。











 【FAILED失敗した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

点滅 ヤマ @ymhr0926

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説