筋肉×悪女=最強?

「おい、カス野郎」

 戸惑っているジャベンニに対し、俺は低い声を発した。

「――そこまで言ったからには、覚悟はできてるんだろうな?」


「ぐ……ぐぐぐ……!」


 さすがに予想外の事態だったのだろう。

 俺の圧に押されて、ジャベンニは数歩後ずさる。


「お、おい。なんだ今の……」

「あいつの拳圧だけで、木が折れた……?」

「マジかよ。あいつ新入生だよな?」


 周囲の学生たちも、俺たちを見て驚愕の声を発している。


 なかには上級生もいるようだが――そんなことはどうでもいい。


 目の前にいるこいつは今、俺の家族を侮辱した。

 そのうえで、フィクスとレイナンに危害を加えると発言した。

 これと比べれば、周囲の様子など些末なものだ。


「ふ、ふん。まぐれ・・・で木を折ることに成功したようだが、忘れたのか? 俺は剣聖様に剣を指導された者。小手先の戦闘技術だけで勝てるとは思わんことだ」


「ほう。あれをまぐれだと思ったのか」


 ポキ、ポキと。

 拳の骨を鳴らしながら、俺はジャベンニを睨みつける。


「ならばもう一度試してみるか? 今後はその舐めたクチを聞けないようにな」


「うぐ……‼」


 物怖じせずに言い返した俺に対し、ジャベンニはまたも後退するが――。

 その際、こっそり取り巻き二人に視線を送ったのを、俺は見逃さなかった。


 ザァン‼ と。

 いつの間に俺の背後に回り込んだ取り巻きたちが、その刀身を振り払ってくる。


 剣を教わっていたのは事実のようで、なるほどたしかに慣れた身のこなしだった。


 が。

 乾いた金属音が周囲に響き渡ったかと思うと、半分に割れた刀身がくるくると宙を舞う。

 そしてそれが近くの地面に突き刺さった頃には、取り巻きたちもこの事態を察したらしい。


 ――奴らの剣が、俺の筋肉に弾かれたことに。


「…………え」


「何かやったか? 小物ども」

 戸惑いの表情を浮かべている取り巻きたちに、俺はゆっくりと近づいていく。

「筋肉は裏切らない。今日はこの言葉を覚えて帰れ」


「な、なにを――ほげぇえ!」


 俺の放った拳が、取り巻きたちの頬にクリーンヒット。


 さすがにアクアトータスほど硬い相手ではないので、殺してしまわないよう加減はしているけどな。しかし放っておけば何をしてくるかわからないため、痛めつけることに容赦はしない。


「ほがっ」


 空高く吹き飛んだ取り巻きたちは、情けない悲鳴とともに地面に着地。

 こいつらもそれなり鍛えているようだからな。この程度では死なないだろう。


 あと残っているのは――ジャベンニか。


「ひ、ひいっ」

 俺が鋭い視線を向けると、ジャベンニは真っ青な表情で尻餅をついた。

「い、いったいどんな筋肉してんだよ。せっかく今日は気合を入れて“あれ”を使ったのに……!」


「ふん。すっかり戦意喪失したか」


 とはいえ、俺の家族を侮辱した罪は重い。

 アルボレオ伯爵家を守るためにも、ここはしっかりとお灸をすえる必要があるだろう。


 そう判断した俺は、再び拳を振り上げた――のだが。


「待って」

 今までずっと静観していたレイナンが、俺の肩に手を置いた。

「ジャベンニ侯爵家……。この年で学園に入ってきたということは、あなたはウィンザー・ファ・ジャベンニね」


「…………?」

 よくわからない話の切り出し方に、俺は眉をひそめる。

「どうしたんだいったい。今になってジャベンニの身分を確認したところで……」


「いいえ、それがそうでもないのよ。実は公爵家たちの間では、ジャベンニ侯爵家が〝戦闘力を増強させる違法薬物〟を使っているという噂があってね」


「なんだと……!」


 それは許せない。

 真面目に鍛えてこそ強くなった喜びがあるのに、それではせっかくの筋肉が泣くではないか。


「もちろん、噂に過ぎないけどね。でもさっきの取り巻きたちもすごい速さだったし、もしかしたら……と思ってね」


「なんだレイナン。あいつら別に速くはなかったぞ」


「……あなたは黙っててちょうだい」


 呆れ気味に突っ込みを入れるレイナン。


「く、薬……?」

「いやでも、俺もどこかで聞いたことあるぞ?」

「さすがにそれはまずいんじゃ……」


 大勢の前で暴露したことで、観衆たちがざわめき始める。


 あまりにもモブ的存在なので詳しく覚えていないが、たしかジャベンニ侯爵家は貴族間でもあまり評判の良くない家だったか。

 今回の違法薬物と同じように、権力を手にするためならばどんなことでも手を出していく――そんな家柄だったはずだ。


「ふ、ふざけるな! そちらこそ侮辱ではないか!」

 すっかり噂の的となってしまったジャベンニが、真っ赤な顔で抗議する。

「リスティアーナ公爵家ともあろう者が、そんな不確かな情報を流すなどと……‼ 貴族としてあるまじき行為だ! 恥を知れ!」


「あら? あなたこそ、いったい何を言っているのかしら」

 しかしその恫喝にも応じず、レイナンはにっこりと笑う。

「リスティアーナ公爵家? そんな意味不明な家、まったく覚えがないのだけれど」


「な、なんだって……⁉」


「不服ならしかるべき公的機関に通報させていただきますわ。世間で言われている通り、私は悪女でね……。いつかライバルとなりえる家を蹴落とすために、色々と情報を仕入れているの」


「…………」


「あなたがいったい違法薬物をどこに隠しているのか……。心当たりがあるとすれば、ルーミン村の置物小屋? それとも秘密裏で建設した地下通路? もしくは……」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!」


 図星だったのだろうか。

 レイナンの声をかき消すがごとく、ジャベンニが大きな声を上げる。


「うふふ……」


 その声を聞いて悪い笑みを浮かべるレイナンは……うん。

 マジでラスボスにふさわしい風格を漂わせていた。


「ネスト、さすがにあの子は殴らないであげて。せっかくの名門校入学が取り消しになるだけでなく――罪を犯した愚か者として、牢に閉じ込められることになるのだから」


 もしかしたらこの婚約者、俺より強い説ある?

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