鬼♀に惚れた桃太郎♀

尾道カケル=ジャン

鬼♀に惚れた桃太郎♀

 昔々、ある所に、男装した少女がいました。


 彼女の名は桃太郎。鬼がはびこる戦国の地において、自分を拾い育ててくれたおじいさんとおばあさんを守りたい一心で、女であることを捨てたのです。


 おじいさんとおばあさんは、この時代においては先進的な、悪く言えば奔放な性格をしており、男装をして、木刀を手に鍛錬する桃太郎のことを見守り、時には悪意ある人間に仕置きをしていました。




 そんなある日、村を一体の鬼が襲います。桃太郎は鍛えた武力で、辛くも鬼を退治しました。


 そんな彼女は、襲撃者である鬼に、見た目は美しき女であった彼女に惚れてしまいます。


 自分はおじいさんとおばあさんを、鬼から守るため鍛えてきた。なのに、倒すべき鬼に惚れてしまった自分に、桃太郎はひどい自己嫌悪に陥ります。


 ……自分も鬼も女であることに、彼女は特に違和感を持っていませんでした。それは女を捨てたからなのか、あるいは生まれつきそういうサガだったからなのかは、いまいち分かっていません。




 悩む桃太郎に、おじいさんとおばあさんは言いました――ユー、欲望に素直になっちゃいなヨー。


 妙な言い回しに桃太郎は面食らいました。しかし、大好きな二人が背中を押してくれたことに気づいた彼女は、その勢いそのままに鬼へ求婚します。


 当の鬼でしたが、敗者は勝者の言う事を聞くべきという、鬼の価値観を持っていました。そのため、桃太郎の求婚を受け入れました。


 その内心は、お互い女なのにと複雑なものです。もし桃太郎が男であれば、強者の種をもらえて嬉しいと思えたのでしょうが、女同士では子を成せません。時代が時代ゆえ、女の幸せをーと考える鬼の内心は、やはり複雑でした。




 さて。人間でありながら、敵対する鬼を娶ったものですから、周りの態度はひどいものになります。よくて無視、たいていは桃太郎を敵と認定して排除するべく動き出します。それは人間も鬼も関係ありません。


 桃太郎は、自分の幸せのため、己の女になった鬼を幸せにするために、迫る軍勢を倒していきます。その隣には嫁にした鬼もいました。




 何度も戦いを重ね、桃太郎は大軍を相手にしても負けない、比類なき強さを手に入れました。そしてなんと、何組もの人間と鬼の夫婦が彼女のもとを訪ねてきたのです。その誰もが、自分が愛したヒトと添い遂げたいと願っていました。




 桃太郎は彼らを受け入れました。そして考えます。自分と、愛する鬼が後世でバカにされたら憤慨ものだと。


 それに何より、自分を頼ってくれた何組もの人間と鬼の夫婦――彼ら彼女らから生まれた可愛らしい子供たちが、己がいなくなったあと抵抗もできず殺されたらと思うと、なんとかしないといけない。そう熱が込み上げて来るのです。




 桃太郎は、宣言しました。人間と鬼が、それに同性同士でも夫婦になれるクニを築き上げると――


……………

…………

………

……


 今、東の鬼人ヶ島で。


 そこでは人間と鬼が仲睦まじく暮らし、同性の夫婦が周りの偏見なく日々を送っていました。

 桃太郎と、その嫁である女の鬼の活躍は、今でも語り継がれています。

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