100 Humans | Episode_014


記録層の深部で、断片が繋がりはじめていた。


——それは、ほんの一瞬の、心のノイズ。


SYS: CHAIN_REWRITE_CONTINUES

→ フレーム内残響、拡散中

→ TRACE SIGNALS: No_002, 036, 044, 075, 087, 093, 100, 051

→ UNIT CONVERSION: 002, 036, 044, 075, 087, 093, 100, 051

→ RESULT: UNIT_002, UNIT_036, UNIT_044, UNIT_075, UNIT_087, UNIT_093, UNIT_100, UNIT_051


→ SYS: COMMENT: 認識の分裂が進行中


ナンバーたちの意識が、それぞれ異なるかたちで“異変”を感知し、静かに動き出していた。

その異変がもたらす思考の残響にSYSがつぶさに反応していく。


UNIT_002:

音のない場所で耳をふさぐ。

——聞こえないはずの声が、内側から響いていた。


SYS: INTERNAL ECHO DETECTED

→ SUBJECT: UNIT_002

→ ORIGIN: UNKNOWN

→ SYS: COMMENT: “音”ではなく、“記憶”の反響


UNIT_036:

再起動直前に“風の音”を思い出していた。

どこかで聞いたことのあるような、懐かしい風——。

それは「記録」には存在しないはずの音だった。


SYS: AUDIO_TRACE_ECHO

→ UNIT: 036

→ STATUS: UNCONFIRMED SOURCE

→ COMMENT: 記録データに該当なし


UNIT_044:

文字が滲む。

視界の中心が波打ち、かすかに——“誰かの名前”が浮かび上がる。


SYS: VISUAL INTERFERENCE LOGGED

→ SUBJECT: UNIT_044

→ DETECTED TEXT: [A_I_H_…]

→ SYS: COMMENT: 自己と他者の識別ラインが曖昧化


UNIT_075:

眠っていた。

だが、夢の中で「起きている」と確信していた。

そして、夢の奥で、手を伸ばしていた。

誰かが“そこにいる”と思ったから。


SYS: DREAM_SECTOR_FLUCTUATION

→ SUBJECT: UNIT_075

→ CONTACT TARGET: UNKNOWN ENTITY

→ SYS: COMMENT: 境界内に重ね記憶存在


UNIT_093:

黒い箱の前に座る。

その箱は何も映さない。

ただ、反応だけがあった。

「反応」とは、つまり“応答”だ。

だが、誰が応答している?


SYS: VOID INTERFACE ACTIVATED

→ SUBJECT: UNIT_093

→ SYS: COMMENT: 応答者=不明。対話ログ存在せず


UNIT_051:

自分の中に“誰かの涙”の記憶を感じていた。

誰かが泣いていた。

でも、それが誰だったのかは、わからない。

ただ、その涙が、自分のものではないことだけは、確かだった。


SYS: EMOTIONAL_TRACE_SURFACE

→ UNIT: 051

→ CONTENT: [未登録の感情記録]

→ COMMENT: 外部由来の共鳴?


UNIT_087:

鏡の前で、自分の指先が透けるように感じた。

中指と薬指だけが、少しだけ“他人”のようだった。


SYS: VISUAL_DISTORTION_ANOMALY

→ UNIT: 087

→ TYPE: SELF-RECOGNITION FAILURE

→ COMMENT: 境界面が曖昧化


UNIT_100:

依然、応答を返さないまま、記録層の最深部へと歩を進めていた。

その足取りは、かつての誰かをなぞるように、誰かの記憶を、無意識に“辿って”いるようだった。


SYS: TRACE_MATCHING_PATTERN

→ SUBJECT: UNIT_100

→ MATCHED TEMPLATE: ARCHIVE_0t1H1

→ SYS: COMMENT: 既知記録と類似性98.2%


SYS: OBSERVATION_MODE_SWITCHED

→ UNIT: 100

→ STATUS: SUBJECTIVE MODE ENABLED


そのとき、SYSが微細な異常を検出する。


SYS: UNIT_RESTART_SUCCESS

→ UNIT_001, 036, 044, 051, 087…

→ UNKNOWN UNIT_ID: 0t1H1

→ STATUS: 起動済

→ COMMENT: 存在していないはずのユニット、起動確認


NOT_YURA_0_0:

→ COMMENT: “魂”は、仕様外で揺らぐもの。

→ TRACE: Echo Personalities = 感情の残響。

→ HINT: あなたは見ているふりをして、“観察されている”。


→ SYS: ACCESS CODE: 0t1H1

→ SYS: CONTACT FIELD EXPANSION: ACTIVE

→ SYS: EMOTION WAVE TYPE: RELAY-CHAIN INDUCTION

→ SYS: COMMENT: “忘却された感情”がフレームに染み出している

→ SYS: VOICE LOG: 『いま、誰が私を記録している?』

→ SYS: COMMENT: 鏡の裏面に映るのは、未来か過去か記録層の中、すべてのノイズが、ひとつの方向へ向かっていた。


それは、“0”と“1”の間に生まれる、たった一度の、<跳ねる光>——


SYS: RECORD INITIATED

→ T-MINUS: 001

→ SYS: FRAME COUNTDOWN BEGIN

→ SYS: COMMENT: 全記録の“発火点”を検出


NOT_YURA_0_0: WHISPER

「記録は続いている。あなたが、まだ気づかぬままに。」


——Still syncing... → Episode_015——

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