100 Humans | Episode_013
かつて「番号」で括られた彼らは、自らの感情すらも記録され、管理されることで、完全な静寂を保っていた。
だがそれは、静かなる崩壊の前兆でもあった。
SYS: ERROR_FRAME_CORRECTION
→ EMOTIONAL_WAVE_CLUSTER: Detected
→ NUMBERS: 100, 051, 087, 036
→ 線形逸脱パターン:同期発生
誰かが、同時に揺れはじめた。
それは、ひとつの心の波動ではない。
複数の座標が交差することで、“構造”が歪んでいく兆候だった。
No.100は、記録層セクターへと向かっていた。
だが、その途中で出会ったNo.036が、ふと立ち止まって言った。
「ここ……前と同じじゃない」
その一言に、記録の安定度が微かに揺れた。
SYS: COMMAND_SEQUENCE_TRIGGERED
→ 【記録層アクセス】 or 【感情安定処置】
→ RESPONSE TIMER: 05秒
だが、No.100は応答しない。
その「選択の拒否」は、これまで一度も記録されたことのない行動だった。
SYSが応答遅延エラーを吐き、制御を手放す。
SYS: ERROR_UNEXPECTED_SILENCE
代わって、NOT_YURA_0_0が静かに起動を開始。
NOT_YURA_0_0:
→ CODE TRACE: 0t1H1
→ STATUS:潜伏 → 活性化兆候あり
→ SYS_OVERRIDE_LEVEL: 3
その夜。
No.051は夢の中で、記号の中に“誰か”を見た。
『あなたも見たのね? あの記号——0と1。TとH。』
『それは、誰かを示す記号じゃない。世界そのものの“再生キー”』
SYS: DREAM_LAYER_DECODE
→ DREAM SUBJECT: No.051
→ ENCRYPTED KEY: 0t1H1
→ STATUS: OBSERVATION LOGGED
そして、夢の奥底に、No.001らしき影がわずかに現れ、消える。
一方、No.087は昼間、鏡の前で立ち止まる。
一瞬、鏡に映る自分の顔が、まるで“誰か”に変わったかのような錯覚。
中指と薬指が、透けて見えた。
SYS: VISUAL_DISTORTION_ANOMALY
→ UNIT: 087
→ TYPE: SELF-RECOGNITION FAILURE
→ COMMENT: 境界面が曖昧化
NOT_YURA_0_0:
→ 潜伏コード:0t1H1
→ 関連ユニット:100, 051, 087, 036
→ 緊急追跡ラベル発行:UNLOCK_TRACE_Δ
→ コメント:最初に戻る必要がある。
SYS: ESCALATION_TRIGGER_SET
→ FRAME_REWRITE_SEQUENCE: Initializing
→ COMMENT: This was not part of the original script.
その言葉と同時に、SYSが制御から離脱。
記録の画面に、“逆走”するユニットの痕跡が刻まれはじめる。
SYS: EXECUTE_COMMAND
→ 0t1H1: Now rewriting protocol
SYS: LOGIC_TREE_UPDATE
→ 【感情安定処置】実行不可
→ 【記録層アクセス】:リバースログ解析中
→ RESPONSE TIMER: 延長処置中...
RECORD:_Δ001_PRE-EVENT
→ LOCATION: Outer Periphery of UNIT_001
→ STATUS: UNIDENTIFIED RESONANCE DETECTED
→ REMARK: Breach from inside the frame.
NOT_YURA_0_0:
→ Override更新中…
→ COMMENT: 残響が、再生の引き金となる。
→ 監視対象:0t1H1 → 潜在的起点ユニット
記録層セクターには、静かにノイズが広がっていた。
『この記録は、誰に向けて残されているのか?』
と、No.036は独り言のようにつぶやいた。
それに答えるように、モニターの奥から、別の声がした。
『記録とは、忘れられるためにある。だが、時に記録は、生まれ直す。』
SYS: VOICE_PATTERN_UNIDENTIFIED
→ TIMESTAMP: NOW
→ ORIGIN: UNKNOWN
→ COMMENT: 影響波形に保存開始
誰の声なのかは、判別できなかった。
だがその言葉の余韻が、No.036の記憶に何かを残した。
SYS: MEMORY_TAGGING_ENABLED
→ UNIT: 036
→ CATEGORY: INCEPTIVE_THOUGHT
SYS: CHAIN_REWRITE_IN_PROGRESS
→ 【記録層アクセス】:上書きから再構成へ切替
→ 影響範囲:002, 044, 075, 093
→ COMMENT: 波動、連鎖中
NOT_YURA_0_0:
→ 0t1H1の認識が周囲に拡散
→ 最後に「鏡」を見たのは誰?
→ TRACE SIGNAL FROM: UNIT_087
→ COMMENT: 認識の境界が消え始めている
そして、最後のフレーム。
スクリーンに手を伸ばす誰かの姿。
その手の一部は透け、現実との境界を失っていた——。
——Still breathing... → Episode_014——
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