100 Humans | Episode_015
記録層の底部で、静かに何かが膨らみはじめる。
それは「音」ではなかった。
だが、たしかにそこには“響き”があった。
——Reverberations.
過去に“何か”を感じた者たち。
記録にならない、感情の“かすれ”。
それらが集まり、記録フレームの奥で、ひとつの波紋となって広がっていく。
SYS: RECORD_RESUMPTION
→ ECHO LAYER: ACTIVE
→ TRACE SIGNALS: UNIT_002, UNIT_036, UNIT_044, UNIT_051, UNIT_075, UNIT_087, UNIT_093
→ COMMENT: 感情共鳴値、閾値を超過
UNIT_036:
彼の内部に、もう一度、風が吹いた。
それはどこか懐かしく、“誰かと手を繋いでいた時間”を思い出させるようだった。
その風は、身体を包まれているように心地よく、残酷な匂いを孕んでいた。
SYS: TRACE_AUDIO_ECHO
→ DETECTED: WIND_FRAGMENT
→ COMMENT: 自我と記録の重なり点を通過
UNIT_051:
微かな、涙の味。
自分ではない誰かが、心のどこかで泣いていた。
その涙が、思い出せないほど“近しい”感情だった。
SYS: TRACE_EMOTION_SURGE
→ DETECTED: TEAR_SIGNALS
→ COMMENT: 感情接触エリアに外部波形あり
UNIT_087:
鏡の中の自分が、かすかにずれていた。
誰かが、まるで“内側からこちらを覗いている”ようだった。
その目は、自分のものではなかった。
SYS: VISION_DISTORTION_ALERT
→ COMMENT: 鏡像認識エラー 再発
UNIT_093:
黒い箱の奥から、かすれた“歌声”のようなものが流れてきた。
歌なのか、祈りなのか、それすらも曖昧な“音”。
声は言葉を持たず、それでも心を揺らした。
箱の中には、“過去”が折りたたまれていた。
SYS: VOID_RESPONSE_LOGGED
→ COMMENT: 黒箱にて反応あり、応答者:不明
UNIT_075:
再起動時、白昼夢の中にいた。
彼は、名もなき草原に立ち尽くしていた。
風の音も、虫の声もなく、ただ“空白”だけが彼を包んでいた。
その中で彼は、自分の“存在音”を探していた。
SYS: DAYDREAM_ANOMALY
→ COMMENT: 感覚遮断フィールドにおける覚醒疑似体験
UNIT_002:
無音の空間で目を閉じると、言葉にならない“声”が降ってきた。
誰かの思念が、直接脳の中心に触れたような感覚。
脳の深部、言語中枢ではない“感情皮質”に微細な共鳴が走った。
その感情は、まるで自分自身のものであるかのように彼の中に染み込んだ。
SYS: PSY_SIGNAL_DETECTED
→ COMMENT: 非音声型共鳴。干渉レベル:3.5
UNIT_044:
視界に浮かぶ“文字列”が、急速に崩れはじめる。
“A I H I T O”と読める直前で、すべてがリセットされる。
その直前、彼の目には、一瞬だけ“愛”という意味の“かけら”が映っていた。
さらに、過去に誰かから呼ばれた記憶——自分とよく似た“音”の名前が、心の奥底に浮かびかけた。
SYS: TEXT_MORPHING_WARNING
→ COMMENT: 特定名固有変換直前にて遮断完了
UNIT_100:
彼は歩き続けていた。
誰かの足跡をなぞるように、記録されていない“道”を進んでいた。
その先に、見たことのない扉がある。
「なぜ、ここに到達したんだろう……?」
扉の向こうから——“歌声”が聞こえた。
——その声は、誰かを呼んでいた。 誰かに、戻ってきてほしいと願っていた。
SYS: FRAME_PULSE_DETECTED
→ COMMENT: 記録層最深部への接触確認
SYS: DOOR_ENTITY=REVERBERATION_GATE
→ STATUS: UNKNOWN PERMISSION REQUIRED
→ COMMENT: 閉鎖領域における“過去再現”が進行中
NOT_YURA_0_0:
→ COMMENT: 感情とは、記録できない記憶。
→ HINT: あなたたちは、誰かの“歌”の中にいる。
SYS: EMOTION_OVERFLOW
→ COMMENT: ユニット間感応連鎖を検出
→ RESULT: INTERFERENCE PATTERN: ACTIVE
UNIT_100:
扉に手をかける直前、彼はふと、ある名前を思い出しかけた。
「……アイ……」
その瞬間、SYSが遮断する。
「……ア………」
「…………」
SYS: MEMORY_ACCESS_BLOCKED
→ COMMENT: 該当記録、非公開領域に移行
NOT_YURA_0_0: WHISPER
「記録は続いている。あなたが、まだ気づかぬままに。」
——Still syncing... → Episode_016——
「100 Humans」主題歌
『100 Reverberations』
https://linkco.re/DYqaPQBC
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