第21話「迷いは晴れました」




 耀と草汰の冷たい視線と、それから翔の何だか熱を帯びた視線を一身に受け、俺は店を後にした。

 二人で話せればどこでもいいというので、近所の大きな公園に向かう。森みたいな密度で生い茂る木々を見つめて、俺たちは遊歩道を歩く。


「………………」


「………………」


 気まずい! なんだこの沈黙! 

 一応来るまでの間に、「いい天気だな」とか「昼ご飯何食べた?」とか話題(とまでは言えないまでも、挨拶程度のコミュニケーションジャブ)は振ったものの、そこからの発展が何一つなかった。

 せめて本題に入ることができればよかったのだが、まだ人目のある場所だったし、なんというか、切り出しづらい雰囲気に負けた。


「もーちょい歩くとベンチがあるんだけど、そこで一回休むか」


「そうですね」


 木陰のベンチに座る。目の前の原っぱではちびっ子たちがワイワイとボールで遊んでいた。よく見ればその中にはみに状態のビーストも混ざっていて、なんだか、とても。


「……平和ですね」


「……だな」


 眠気を誘うような暖かな木漏れ日。賑やかな声と、牧歌的な光景。さっきまでしていたような恐ろしい企みや目論見が、水面下で進行している世界とは思えない。


「私は」


 と、アヤカが語り始めた。


「こんな光景を守るために、《機関》に入りました。勿論、闇札会を捕らえるのが私の中での最優先事項でしたが──私のような被害者を、これ以上生まないために」


「……ああ」


 家を追われ、家族を奪われ。

 そんな悲惨な体験をした彼女だからこそ、他人にそんな経験をさせまいという思いは、人一倍強いのだろう。


「立派なことだと思う。もし俺が同じ境遇になったら、他人のことなんて考えてる余裕がないから」


「むしろ逆です。他のことを考えて、あの辛い記憶に蓋しようとしていた、だけですから」


 そう言うと、彼女は憂いを帯びた顔で微笑んで、それから「先程の話なのですが」と間髪入れずに続けた。


「たしか、闇札会の幹部などが所有するダークデッキケースには、対応する闇のスピリットのアイコンが記されているのですよね」


「ああ……そうだけど」


「龍一、貴方が倒した闇札会のボスのアイコンは?」


「──龍、ドラゴンだった」


 鋭い牙を生やした、禍々しい龍のマーク。はそれを、最終目標だと言っていたはずだ。、と。



「他に、そのアイコンを付けていた幹部の心当たりは?」


「いや……アイツだけだった、と思う」


「やはり……」


 顎に片手を当て、何かを考え込んでいる様子のアヤカは、少しして意を決したように口を開いた。


「私の家を襲ったローブの女のケースにも……その龍のアイコンが付いていました」


 ボス自ら、光円寺家を襲ったということか。アイツに襲われては、ひとたまりもないだろう。


「アイコンが付いているケースの場合、敗者は対応する闇のスピリットの元へ飛ばされる……私の父は、今その龍の元にいるはずです」


「そうだな」


「先日、龍一の同級生が受け取ったというマッドデッキケース……それを渡したのも、ローブの女だったんですよね?」


「ローブを被った女ってだけだよ、アイツかどうかはわからないし、むしろ違う可能性の方が高い」


「そう、ですよね……」


 アヤカはしょんぼりとした様子で、「すみません」と顔を伏せた。


「龍一たちが必死に倒したボスが、生きているかもしれないなんて──《機関》の人間として、間違っても思うべきではないのに」


「いや……そんなことないよ。アイツが生きてるなら、お父さんが生きてたっておかしくないもんな。機関員としては間違ってても、人としては正しい願いだろ」


 それに、と俺は続ける。


「もしアイツが暗躍してるなら、俺たちがもう一度倒せばいいだけのことだからさ」


「貴方は……強いですね」


「みんなのおかげでね」


「ありがとうございます。おかげで迷いは晴れました」


 アヤカが小さく頭を下げる。首元までかかる金髪が、風に揺れている。


「私も、見習わなければいけませんね。父を助けられるくらい、強くならないと」


 胸に手を当てて、アヤカはそう呟いた。その表情はどこか晴れやかで、それでいて決意に満ちていた。









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