第20話「できれば二人きりで」



「御免ください」


 定休日のナッシュ。そこに、全国チャンプ──光円寺アヤカがやってきた。


「休日に押しかけてしまい、申し訳ありません」


「こちらこそ、わざわざ来てもらって悪いな」


「いえ。電話やメッセージでは盗聴の恐れがありますので。それに、またここに来たいと思っていたので、丁度いい機会です」


 デュエルスペースに通すと、既にいつもの三人もいた。おじさんが端の方に座っていて「わざわざご苦労さん。まあゆっくりしてけや」と頬杖しながら言った。


「ありがとうございます──それでは、ご報告させていただきます」


 アヤカが腕時計型端末を操作すると、そこから空中にディスプレイが表示される。そこには様々な図・解説文と、その中心でゆっくりと回転する、ダークデッキケースと、マッドデッキケースがあった。


「こちらが、いままで闇札会が使用していたダークデッキケース。主な機能として、所持者と対戦相手を逃がさず闘わせるための『闇の瘴気』や、それに付随したダメージの実体化。更には、敗北者を《アナザー》に転送し、拘束する権能が付いています。これは一種の契約に近く、ダークデッキケースの闇の瘴気と繋がった、闇のスピリットの元に送られ、弄ばれるとされています」


 帰った人間がいないため、詳細は分かりませんが。と、苦い顔で続く。少なくとも、にされていることだけはたしかだろう。


「……続けます。そして今回確認されたのが、このマッドデッキケース。ダークデッキケースのような、ある種致命的な機能がない代わりに、所持者の欲望の増幅。一部のカードの実体化。所有者への永続的な機能が判明しました。これは実体化したカードの攻撃でも発生するようで、貴方たちが感じた脱力感はこれが原因ですね」


 図の中で、恐らく《デストロイヤー》であろうシルエットに、俺と大昌っぽいシルエットからのエネルギーが供給されていく。


「注目すべきなのは、この一部のカードの実体化です。先日の件で該当するのは《滅破界ロボ SUPER・デストロイヤー》ですが、このカードはビーストカードでないにも関わらず進化──もとい塗替アップグレードされていました。解析の結果、その理由として──闇のスピリットの、肉体のが含まれていることが解明されました」


「それってつまり、闇のスピリットが、通常のスピリットをしているってこと!?」


「恐らくは、そういうことになるかと」


 耀の問いに、アヤカが答えた。それゆえの塗替アップグレードと、なるほど。

 スピリットカードが分霊であるという話を何度かしていると思うが。

 その分霊が入った紙を乗っ取り、それどころか自分の存在で補強するなんて、埒外にも程がある。


「ドレインされた生気は、闇のスピリットの一片に吸収される構造になっています。生気を吸い取り、闇のスピリットの復活──あるいは強化を図っている、と《機関》では結論づけました」


「闇のスピリットって……一体どんなスピリットなの?」


「いい質問だな」


 翔の問いに、おじさんが答えた。


「闇のスピリットっつーのは、広義では犯罪に加担したヤツのことを指すんだ。極端な話、お前らの相棒も犯罪に加担したら闇のスピリットの仲間入りってワケだ。ただ、さっきの文脈で指す場合は、《アナザー》の奥地に封印された、十二体のスピリットを指すことが多い」


「そ、そんなのがいるんですか……!?」


 十二体の闇のスピリット。危険度とその強さに応じて、時計の針が二つ名として刻まれた彼らは、別名『滅びを刻む長針バニシング・カウント・クロック』と呼ばれている。俺は長いのでバニクロと略している。あと、そのまま呼ぶとあまりにも厨二病臭い。


「すべて解放された時には、世界が滅ぶ──とも言われているらしいぜ」


「実際、闇札会の時点でバニクロと繋がりはあったっぽいもんな」


 基本的には十把一絡げで適当な闇のスピリットの元に飛ばされるのだが、一部のダークデッキケースによる敗北ペナルティの転送先は、バニクロらしい。幹部級ともなれば大体そうで、デッキケースにバニクロのアイコンが付いていた。あまり考えたくはないが、今頃相当酷い目に合っているのではないだろうか。

 幹部も、ボスも──


「そんな『滅びを刻む長針バニシング・カウント・クロック』を復活させようというのが、闇札会残党の目論見ではないかと」


「なるほど。筋は通るね。いままでの闇札会は世界征服を狙っていたから『滅びを刻む長針』の解放はあまり狙っていなかったけど、組織自体が壊滅したことでなりふり構わない世界転覆を狙ってきたってところかな」


 草汰がそう考察した。恐らく、正しいと思う。


「となると警戒すべきなのは、マッドデッキケースのか」


 容易に量産できるものなのかどうか分からないから判断がつきかねるが、どうしても後手に回らざるを得ない都合上、同時多発的にデッキケースを配られて、その混乱に応じて──みたいになると相当厳しい。

 まあメタ的に見れば、終盤までは一話一個だと思うので大丈夫だと思うけど……


「まだサンプルが少ないので判断がつきかねますが、マッドデッキケースの配布自体、いくつか適性が必要な可能性が出ています。あまり大っぴらには動けないでしょうし」


「まあいいんじゃねえか? CMでも打って注意喚起すれば誰も引っかかんねーだろ」


「そうしたいのは山々ですが……」


「《機関》は秘密組織で闇札案件は秘匿されるべきもの、だもんな。上の日和見体質にはホントに困ったもんだぜ」


 カード自体が良き隣人で、簡単に扱えるである以上、こうした負の部分はなるべく大衆と切り離されるようになっている。むしろそういう危険をしっかり教育して浸透させるべきだと思うんだけど、まあ展開上のご都合主義なんだろうな。


「まあその辺、思うことがあっても意見できないのが機関員の辛いところだねえ。だからオレはやめたんだけどさ」


「問題ありません。自分が抱えている不満は――上に立てば、自ずと変えることができるので」


「いい心がけだねえ、オジサンには眩しいぜ」


 やれやれと大仰なジェスチャーをして、「ま、ゆっくりしてけや」とおじさんは店の奥に戻っていった。話が一段落したのを察したのだろう。


「とりあえず、今後も要警戒ってことだな」


「難しい話は置いといて……アヤカちゃん! 折角来たんだし、スピストしましょうよ!」


「こら耀、抜け駆けはずるいよ。アヤカさん、そのあとは僕と是非スピストを……」


「ええ、是非お手合わせを──と言いたいところですが」


 彼女の金の双眸が、こちらに向かった。


「龍一。少し、時間を貰ってもいいですか?」


「え、俺? 別にいいけど、スピストならコイツらの後でも……」


「──いえ。その、できれば二人きりで」


「……はい?」















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