第17話「どれだけ持ってりゃ気が済むんだよ」



「おれのターン」


 大昌の3ターン目が始まった。ここまでの動きはほとんどリソースを稼ぐことに注力していて、以前の速攻ムーブを考えると驚くほど静かで、人が変わったようだった。

 ただ──やはり、妙なプレッシャーが、決闘場を覆っている気がしてならない。


「赤込みの2エナで《みにロボ》を左に召喚。出た時、クオリア上限を1上げる」


 元から居たモノと合わせて、チープなロボが2体並んだ。


「更におれは3エナで《マシンアーム・ナックル》を右支援サークルに装備」


 大昌の右手にゴツゴツしい機械腕のウェポンが装着された。


「アタックフェイズ。おれは、テメェに攻撃する」


 駆け出した大昌の拳が、俺の元に迫る。彼の恵まれた体格も相まって、その姿はなかなかの圧を与える。

 ぼーっと突っ立っているドラコキッドにブロックさせるか迷ったが、何かと使い道のあるこの子は残しておきたいし、何より一度、ダメージを受けて確かめたかったので、歯を食いしばる。


「受ける……ッ!?」


 目の前に迫る拳は、しっかりと障壁に阻まれ。それにひびが入ると同時に、バイブレーションみたいな振動と衝撃が全身に響いた。

 ライフゲージが2点分、しっかりと減っている。しかし、想像に反してダメージはいつも通りだった。


「おれはこれでターンを終わる」


「俺のターン」


 フェイズの処理をしながら、俺は手札を見る。アンが帰ってきた上に棚ぼたでカードが手に入ったことで、いまデッキは赤青黄の三色で構築されているが、つまるところ。1枚のエナ置きミスで、そのあとの行動に大きく制限が伴うからだ。


「俺は3エナで左支援サークルに《ドラゴ・フィールド》を設置。赤を含む3エナを使って、《ベビー》を《セイバー・ドラコキッド》に成長。更に《フィールド》の効果で、エナチャージするぜ──アタックフェイズ。《セイバー》で《みにロボ》を攻撃」


 凛々しい表情の赤い仔竜が、自身とあまり変わらない背丈の剣を携えて、トトトと走り出す。


「《セイバー》の攻撃時効果。BP4000以下のスピリットを破壊するぜ」


 攻撃対象のみにロボに向かう道すがら、《セイバー》はすれ違いざまにもう一体を目にも止まらぬ早さで切りつけた。返す刀で元から狙っていたロボを倒し、2体は爆発する。

《セイバー》は『2回攻撃』を持っているが、ここでは敢えて殴らず温存する。相手の攻撃を阻むブロッカーとして運用したいからだ。


「ターンエンドだ」


「……おれのターン」


 淡々とフェイズの処理を進めながら、大昌は、ようやく顔を上げてこちらを見た。


「この程度かよ」


「そりゃそうだ、まだ序盤だろうが」


「中盤になったら、いつもみたいに女に助けてもらうのか?」


「助けてもらうさ、相棒なんだから」


「……チッ」


 嫌味が刺さらなかったことが不満だったのか、大昌は小さく舌打ちした。


「メインフェイズ。おれは《超破壊ロボ MAX・デストロイヤー》を召喚」


 人型ロボが盤面に現れ、ビっとポーズを取ってみせた。


「『臨時2』発動。このままアタックだ」


「《セイバー》でブロックだ」


 一回り大きくなった人型ロボが、その赤き腕をこちらに向け、拳を飛ばしたロケットパンチ。だがこれは、割り込んだ《セイバー》が身を呈して防いだ。


「『グロウガード1』で耐えるぜ」


「『2回攻撃』」


 もう一方の拳も放ち、再び俺を衝撃が襲う。ライフが5点まで削られた。

 だがライフが減ったということは、カウンターのチャンスだ。


「カウンタースペル『反撃準備』発動。山札の上から1枚を裏向きでエナに置き、このターン5点以上のダメージを受けているから、1枚引くぞ」


「なら、おれ自身でテメェを攻撃する」


 大昌が武器を装備した手を後ろに引くと、機械腕の機構から噴き出した炎で勢いよく加速し、こちらに迫る。


「マシンアーム・ナックルの効果。前のターンに破壊されたおれのスピリットの数だけ、このカードのクオリアを上げる」


「カウンタースペル《白刃取り》を発動! ウェポンによる攻撃だから、ダメージを0にして1枚引くぜ」


「ターンエンドだ」


「俺のターン」


 思っていたよりライフを削られてしまった。やはり《超破壊ロボ》の火力はバカにできない。


「俺は、《氷龍ブリザード・ワイアーム》を召喚」


「いざ、参ります」


 宙を舞うエナと雪が晴れると、一礼したリザが盤面に現れた。


「《氷龍》の召喚時能力! お前の盤面のカードに『フリーズ』を付与するぜ」


淡雪深々あわゆきしんしん!」


 リザの袖元から雪が放たれ、それは大昌の盤面に降り注ぎ、機械腕と《超破壊ロボ》を凍りつかせた。


「《ドラゴ・フィールド》の能力でクオリアを上昇。更に2エナで《ドラグ・スピアー》を装備してアタックフェイズ。俺は、《氷龍》で大昌に攻撃」


「喰らいなさい──」


 どこからか取り出した扇を広げて、リザが障壁を削る。


「続けて《セイバー》と俺も攻撃するぜ」


 槍と剣を携え、氷像と化したロボを横切って俺と仔竜は大昌へ駆ける。


「《ドラグ・スピアー》の攻撃力は自分の場のドラゴンの数×2000上昇し、クオリアもドラゴンの数だけ上がる」


 元が1000/1だったスタッツは、《セイバー》とリザがいることで5000/3まで上昇した。

 同時に行われた攻撃は、大昌のライフを一気に削る。


「おれはカウンタースペル《傷害保険》を発動。ターン中削られたライフ3点につき、カードを1枚引く」


「……ターンエンドだ」


 盤面はリザが凍らせた。手札も、いまのカウンターで引いた2枚だけ。

 有利なのは俺のはずだ。なのに──以前と違って何の感情も出さない大昌が、本当に不気味だった。


「──いいよな、テメェは」


「え?」


 フェイズの処理をしながらポツリと零れた言葉に、思わず耳を疑った。


「仲良いダチに囲まれて、家も太くて、挙句の果てに4枚のビーストカードだァ? どれだけ持ってりゃ気が済むんだよ」


「そんな、別にお前だって──」


「うるせえ! テメェに何がわかる!」


 凍った腕で、大昌は決闘台を叩いた。


「おれには何も無ェんだよ……スピストしかないのに、恵まれたテメェに負けられねえ……!」


 大昌の雰囲気が変わった。そして、ずっと放たれていた嫌なプレッシャーが強まった。


「赤黒2エナずつを含む6エナで《超破壊ロボ MAX・デストロイヤー》を、《滅破界ロボ SUPER・デストロイヤー》に塗替アップグレード!」


《デストロイヤー》の姿が書き換わっていく。赤かったカラーリングはドス黒い黒へと置換され、顔のゴテゴテとした装飾は、禍々しく歪み、手足には触れる者を拒絶するような棘のパーツも付いている。

 そんなことよりも。


成長グロウアップじゃなくて塗替アップグレード……!?」


塗替アップグレードは、指定のスピリットを場から墓地へ送ることで発動可能な


《超破壊ロボ》は先程までレストしていたので、成長であればそこに重なる都合上、上のスピリットもレスト状態で出てくる。

 だがなるほど。塗替は出す過程でだけだから、スタンド状態で出てくるし、最悪指定スピリットがいなくても活用できる上に、いれば能力が得られる、ということなのだろう。


 問題は、それだけのコストを払って得られる能力は間違いなく強力ということ……! 


「《滅破界ロボ SUPER・デストロイヤー》の塗替能力アップグレードボーナス。このターンコイツはデストロイヤーの効果を得て、更に『3回攻撃』を得る!」


「は!?」


 元のスタッツが11000/3のカードが、臨時でクオリア4になって3回攻撃だって? いくらなんでも話が違う。


「デストロイヤーでワイアームに攻撃。更に攻撃時効果でセイバードラコキッドを破壊」


「クソ……! だがカウンタースペル《龍の恩恵》は使わせてもらう!」


 エナ、手札、クオリアがそれぞれ1ずつ増えた。

《セイバー》でブロックしてリザを守るつもりだったのに、計算が崩れた。BP6000以下を破壊できる効果は、おまけとしては破格だ。


「きゃあっ!?」


《デストロイヤー》が爆発的に加速し、赤黒く塗られた拳を突き出す。すれ違いざま、リザの周りに爆発が起きた。


「『エナガード1』で耐えるぜ」


「そんな女どうでもいい。テメェのライフはすぐに尽きるんだからな」


「……ッ、気をつけてください旦那様。その攻撃は──」



 リザが何かを言い終わる前に、《デストロイヤー》の目が赤く光る。照準をこちらに定め、そこから熱線を放った。


「2回目だ」


「く……!?」


 障壁を削られる衝撃──まではいつも通りなのだが、その直後、とてつもない脱力感に襲われた。思わず、膝をつく程の。


「『3回攻撃』ッ!」


「……カウンタースペル《ドラグ・バインド》を発動。その攻撃を無効にする……!」


「チッ、ターンエンドだ」


「ハア……ッ!」


 どうにか凌げたが、荒くなった呼吸が整わない。

 闇のバトルでは、ない。障壁も機能してるし、痛みも特にない。ただ、まるで──


「生命力を吸われているよう──でしたね」


「……そうだな」


 リザの言葉に頷く。いままでのダークデッキケースとは違うが、だが確実に闇札案件ダークカードケースだ。恐らく、原因はあの禍々しいスピリット。


「闇堕ち系イベントね──なるほど」


 何となく、展開自体は読めてきた。あのロボが元凶、ないし元凶と繋がっている。

 大昌の負の感情を増幅させて吸収しつつ、対戦相手の生命力も奪っているってところか? 

 気になるのは手に入れたそれらをどう使うかってところだが──まあ、今はそんなことはどうでもいいか。


「まずは勝たなきゃ始まらないもんな──ドロー!」


 悪くない引きだが、まだ分からない。このあとの展開にすべてがかかっている。


「エナをチャージして、4エナでプッシュスペル《龍の転生》を発動。墓地のドラゴン3枚をデッキに返して、2枚引く」


 何か引けなきゃ、負ける。

 さっきの一撃からして、もし負けても死にはしないだろうが──俺は、負けたくなかった。

 大昌がこうなった原因が少なからず俺にあるなら、俺が止めなきゃいけないし、何よりも。


「負けたら、悔しいだろうが……!」


 2枚、同時に山札からドローして。堂々と晒し上げる。


「2枚ともドラゴンだ、引いた数だけエナをスタンドさせてもらう」


「いま手札を増やしても、もうおせェだろ」


「いいや、このおかげで逆転ができるんだ──俺は黄3エナを含む6エナで、《輝龍アンフィスバエナ》を召喚!」


「まっかせといてー!」


 デコられた長いネイルを見せつけながら、ギャルドラゴンが登場した。


「まずは《輝龍》の召喚時効果。このターン他に使ったコストの数だけライフを回復」


「よくがんばりました〜」


 手から癒しの波動が伝わる。同時にアンの腕がちょっとムキッとする。


「《輝龍》の効果で、ライフが回復する度にその半分の数値の『臨時』を得る!」


「ハッ、その程度で──」


「更に俺は、プッシュスペル《闘龍門》を発動! 自分の場のドラゴン1枚を選び、それと同じ色でコストが+2より少ないドラゴンを、山札から重ねて特殊召喚する!」


 リザの姿が光に包まれ、一回り成長する。


「──来い、《酷氷龍ブリザード・ワイアーム》!」


「旦那様の命とあらば」


 そして彼女は姿を変えると同時に、盤面に氷の氷像を生成した。


「《酷氷龍》の能力。お前の墓地の《みにロボ》と《超破壊ロボ》を盤面に戻すぜ」


「わざわざ壁を増やしてくれんのか!?」


「アタックフェイズ。《輝龍》で《超破壊ロボ》を攻撃。更に攻撃時効果で、《みにロボ》のBPをマイナスして破壊する」


「更にライフを回復するよ〜!」


 後光でみにロボを消滅させ、ネイルで氷像を砕く。

 スピリットを破壊したことで、相手のクオリア分、1点と3点を回復する。


「ライフを回復したことで、《輝龍》はその半分の『臨時』を得る!」


 半分と言っても端数は切り上げられるので、1点と2点──召喚時の回復と合わせて、クオリアは6点まで上昇した。


「『2回攻撃』! 《滅破界ロボ》を攻撃しろ!」


「リザの仇は取ったるかんね!」


 攻撃時のBP減少で、《滅破界ロボ》の打点を上回った。アンとロボは取っ組み合いのガチンコ対決になったものの、パンプアップされた筋肉でロボットを転倒させ、エンジンらしきところに爪を突き立てて爆発させた。


「『エナガード1』で耐える。コイツが死ななきゃ、次のターンで──」


「そんな隙は与えないぜ。《酷氷龍》の『リムーブ』を発動! 味方1体をスタンドさせるぜ」


「なんだと……!?」


《滅破界ロボ》を倒したことで、アンのクオリアは9点。一撃殺ワンショットの圏内だ。


「これで終わりだ。《酷氷龍》と《輝龍》で大昌に攻撃!」


「クソォォオォオオォ……!」


 二人の一撃で障壁は砕け散り、俺たちは光の中に包まれ、決闘場は閉場する。

 ──勝者、俺。



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