第27話 まさか……ね
「良かったな、バイト決まって」
「うん、ありがと」
猫カフェから出て帰り道。気づけば外はもう日が落ちかけ、オレンジに染まっていた。
碧月の勤務は土日で、時間帯は基本午前中で10〜13時の四時間勤務である。
ちなみに碧月はもっと働きたいと希望していたが、シフト的に無理だといわれた。
気落ちしている碧月。まあ無理もない……父親に一人暮らしの援助はもういらないと啖呵を切った碧月。だが、このままだと家賃すら払っていくのも難しいだろうからな。
「まあ、そんな落ち込むなって」
俺が気遣ってることに気がついた碧月は、ハッとした。
「ごめん、気を遣わせて……せっかくバイト紹介してくれたのに、ほんとごめん」
……素直なんだよな、こいつ。これがキャラクターを演じてない素の姿。
「でも、大丈夫。他のバイトがんばって見つけるから」
「掛け持ちするのか」
「まあ、ね……しないと生活できないし。あ、でも鈴木はもうバイト紹介してくれなくていいからね?」
「え?」
「ちゃんと自分の力でがんばりたいんだ。鈴木に甘えてばかりもよくないしさ」
にこっと碧月は微笑む。
「ただでさえ、猫化のことでフォローしてもらってるのに……これ以上負担にはなりたくないから」
「別に負担とは思ってないけど」
「……うん、そうだね。そういうと思った。けど、ダメだよ」
「なんで?」
「これは私がちゃんと一人でもやれるっていう証明でもあるから」
「証明?」
「お父さんに安心してほしい。だから、その証明」
……高校生とは思えない意識の高さだな。できるできないは置いといても、この意思の強さは立派に思える。そんで、彼女と比べまだまだ自分は子供なのだとも思えて少し恥ずかしい。
「碧月は自分の力でお金が稼ぎたいんだな」
「うん。お金をたくさん稼いで、なんとか自立したい。……将来、お父さんが私につかった学費とかも返したいと思ってるし」
けど、なんだろう……この意思の強さは、ただの証明ではないような気がする。
お父さんの負担になりたくない以上の何かを感じる。
「じゃあたくさん頑張らないとだな」
「うん、がんばる」
にかっと白い歯を見せ笑う碧月。彼女の後ろにはほのかに青く美しい月が、うっすらと浮かんでいた。
それから碧月の家へ到着。
「……少しあがってく?」
「いいのか?」
「うん。あ、そーだ、お腹空いてない?」
「え、ああ……お昼も食べてなかったしな」
「なら夕食つくるから食べてってよ」
「え、悪いだろそれは……」
「お礼だよお礼。バイトも紹介してもらっちゃったし」
「いや、それは……」
「ふふん、それに私がちゃんと一人暮らしできるってところを見せてあげるわ」
「そうか。んじゃ、お言葉に甘えて」
マジか。碧月の料理が食えるんか。これはワクワクする。文武両道、あらゆることに関し完璧超人の碧月だ……彼女が作る料理なんて絶対美味いに決まってる。
ましてや一人暮らしを認めさせたいといってるんだ。自炊なんでお手のものだろう。
碧月が部屋の鍵をあけ、中へ。
「どーぞ」
「おじゃまします」
「そっちで手洗ってね」
台所を指さす碧月。俺は言われるまま手を洗いにそちらへと向かう。ちなみに碧月はトイレに行ったっぽい。
「……?」
ふと台所の隅にあるものをみつけた。
それは大量のカップ麺やスープ春雨、カレー飯の山だった。
「……」
わずかな疑念と嫌な予感が俺の背筋を寒くした。
……まさか、ね。
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