第28話 仕方ねえ


リビングで待っていてとトイレから戻ってきた碧月に言われ、座布団に座り待つ俺。


「……」


ざわつく心。キッチンはここから丸見えで、彼女の後ろ姿がみえる。


包丁で何かを切っているようだが、しきりに首をかしげている碧月。ただ食材を切る行程で、そんなに疑問を覚えることがあるのだろうか。


それにさっきから「……あれ」とか「ん?」とかいう呟きがしきりに聞こえてくる。


(……まさか、ね)


一人暮らししてるんだよな?なら、自炊できるんだよな?大丈夫だよな?まさか、他は完璧だけど唯一料理だけは苦手とかいうベタな属性なんて持ってないよな……?


不安を感じるたびにさっき見かけたカップ麺類の山が脳裏を過る。俺は首を振りそれを嫌な予感とともにかき消す。安売りシールがついていたあれは……安かったから、非常食として買ってきたんだよね?うん、きっとそう。


そもそも、あの碧月が自信満々に料理を食べてけって言い切ったんだぜ?私が一人暮らしできるところをみせてやるとかなんとかって……


「あ……これ塩じゃな……まあ、いっか。砂糖でも」


よくないよな?碧月の今の発言はあきらかに問題あるだろ。塩と砂糖、その正反対の調味料を間違えて許される料理ってあるん?


そんな感じで謎にストレスを与え続けられ、時間が過ぎていき、


「……」


一言も喋らなくなった碧月。額に手を当て、固まっている。アフレコするなら、『あれ、なんでこうなったんだろ……どうしよう』か。


心配になった俺は立ち上がり彼女の元へ。背後からみえたそれはもはや料理していたとは思えない惨状だった。


流しのそこにぶち撒けられた割るのに失敗したらしきぐしゃぐしゃの卵。煙を上げ黒焦げになっているフライパンの中の何か。脇に置かれたパックご飯ふたつ……まともなのこのパックご飯だけかよ。


「……」


「……」


かける言葉が見つからなかった。おそらく碧月は普段料理をしていなかったのだろう。しかし、俺にいいところをみせたくてできもしない料理に挑戦した……自信満々の顔だったのを思い出すに、料理くらい簡単にできるなどと思っていたのだろう。


「……ごめん……私、料理できないっぽい」


「……」


色々とツッコミたかったけれど、なんか普通に落ち込んでるっぽいから無理だった。さすがに傷口に塩を塗り込むようなことはできない……料理だけに。


「もしかして、普段の食事ってそこにあるカップ麺とかで済ませてるのか?」


ぴくりと反応する碧月。やや間があって、観念したかの様にわずかに頷いた。恥ずかしかったのか顔を少し背けられた。


まあ、恥ずかしいよな。あんだけ自信満々に言っといてできたのがこの焦げた黒い何かだもんな。


「碧月」


「は、はい」


「ちょっと台所借りていいか?」


「え?」


こんな食生活じゃいつか体を壊す。そんなことで鈴音を苦しませるわけにはいかない。ま、お猫様の体調管理も俺の役目っつーことで。


「俺が飯作ってやるよ」

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