第2話 猫みたいだ


「……え?庇った……?何をだ?」


惚けた。ここでそうだよと言う理由もないし、あれは俺が勝手にやったこと。道端のゴミが気になったからクズかごに入れたくらいの行為だ。……あとそれで恩に着られても嫌だしここは惚けとこう。


「なにそれ……とぼけないでよ。私、さっきみてたんだから」


「え」


「玄関から出たあとあの人から逃げられるように、校舎の陰に隠れてみてたの。そしたら、君があの人の靴を隠したのがみえたのよ」


「……見間違えでは」


「はあ?」


こ、こええええ!!


ギロリと睨む碧月。この威嚇顔はよくはたから見ていたけれど、こうして自分にされるとその怖さがわかる。廊下で声掛けた先輩がこれされて、ビビって逃げていったこともあるしな。


「見間違えないわよ。私、目がとてもいいのよ。はっきり見ていたわ。君が二年の下駄箱であのひとの靴を下駄箱から取り出した瞬間を。それと、そのあと彼が靴が無いって叫んでるところもね」


「え、聞こえた?碧月は校舎の外でみてたんだよな?」


「……私、耳もいいの」


マジで猫じみてるなこの人……!いくら先輩が叫んだからといって雑音の多い校内の音を、校舎の外から聞くなんて。


「ふん。で、さっさと話を進めたいの。私もこんなことに割いている時間なんてないし。認める?」


「認めるもなにも見ていて聞いていたんだろ……それが全てだが」


「そ。じゃあもう迷惑だから、そういうのやめてね」


「そういうの?」


「君、他にも陰でこそこそと色々してるでしょ。例えばこの間も、クラスの女子が私の教科書をとって隠したことがあったわね。あれを探して戻したの君でしょ」


「!」


「一昨日も、教室から私を出待ちしていた先輩に嘘情報で他の場所へ誘導したのも君」


「……な、なんでそれを?」


「ふん。私、鼻もいいのよ」


いやいや、おかしいだろ。それどうやって俺がやったってわかったんだよ……あの時、碧月は絶対にあの場付近にはいなかったはずなのに。てか、鼻がいいの関係あるのか?


「他にも色々あるけれど、とにかく君のそれは迷惑なの。ああいうことをしてくれなくても、私は全てひとりで対処できる。だからもうやめて。迷惑なのよ……わかった?」


「……そうか。ああ、わかった」


まあ、そろそろ先輩やクラスメイトに目をつけられそうな雰囲気あったしな。どのみちここらが潮時だろう。


「これからはもう余計なお世話はしない。悪かった。話はそれだけか?」


ふと碧月と目があった。彼女はキョトンとした表情でこちらをみている。


(……?、なんだその顔は)


ふだんは不機嫌そうな顔をしている事が多い碧月。はじめてみる彼女のその表情に俺は少し驚いた。


「……ふん。わかればよし、じゃそれだけにゃから」


再びいつもの不機嫌そうな顔に戻り、碧月は俺に背を向ける。


(……いま、嚙んだな)


陽の光に輝く白いショートヘア。風になびくスカートがどことなく猫の尻尾のようにはためいていた。


彼女は数歩進み、立ち止まる。


「……でも、ありがと」


碧月が小さくつぶやいた。それは風にさらわれそうな小声だったが、不思議と俺の耳に届く。


「あ、え」


「……さよなら」


俺は確かめようと呼び止めようとしたが碧月は足早に消えていってしまった。


ほんとに猫みたいな奴だな……。


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