④:屋上の階段で2人きり。



「…俺も今からそっちに行っていい?」


電話でデートに誘うはずが。

普段、過ごしている教室が違うせいか、声を聴いたら無性に会いたくなってそう言った。


俺の言葉に望月さんは一瞬戸惑ったかもしれないけど、やがて「いいよ」と言ってくれた。

昨日は危うくフラれかけたが、俺は今のうちに少しでも点数稼ぎをしておかないと、もう後がないのである。


望月さんがお昼休みをいつも自分の教室で過ごしていないのは知っていたから、2人きりになれるのも難しい話ではなかった。


俺はアズマ君と居た中庭をあとにすると、早速西棟へ行って階段を駆け上がった。

俺が通うこの学校の校舎は、4階建てである。

体力には自信があるし、その先で望月さんが俺を待ってくれていると思ったら、このくらいどうってことはない。


それでも小さく息切れをしながら廊下を進んで行くと、校舎の片隅の階段に、本当に独りで座っている望月さんと出会うことが出来た。


「居た。やっと会えた!」

「!」


俺はそう言うと、望月さんと同じ段に、少し間を空けて腰掛ける。

そんな俺に望月さんが少し緊張しているように見えたから、その姿があまりにも可愛くて、俺も階段を駆け上がってきた疲れなんてすぐに吹っ飛んでしまった。


…やべ。

確かに、望月さんと2人きりになりたかったのは俺だけど、いざ面と向かってデートに誘おうとしたら急にまた緊張が…!


だけどそうは思ったものの、自分から「そっちに行っていいですか?」と大それたことを言っておいて、ずっと沈黙なのはさすがにマズイ。

俺は緊張していることを悟られまいと、誤魔化すように笑って言った。


「て、てか、望月さんていつもこんなところで食ってんの?教室から遠くない?」


て、バカ!俺バカ!望月さんは教室にいるのが気まずくてここに来てんのに!

思わず自分の失態に気が付くと、一瞬にしてもう生きた心地がしなくなる。

…あ。俺これフラれるな。

確かにいつも俺はバカなことばっかしか言えないし出来ないけど、何もこんな場面で発揮しなくてもいい。


「……ごめん」

「…」


せっかく走ってここまで来たのに、こんなんじゃあのまま電話で話していた方が良かったかな。

俺がそう思いながらうつ向いたら、その瞬間に望月さんが言った。


「謝らないで」

「…え?」

「そうやって謝られると余計にみじめだから、謝らないで」


望月さんは落ち着いた口調でそう言うと、もう既に空っぽになった弁当箱を片付ける。

…俺、なんか、望月さんにとってマイナスになることしか言ってなくない?


このままじゃダメだ。

俺はそう思うと、落ち込んだままじゃいられなくて思い切って言った。


「あ、あの!」

「?」



「今度の日曜日、デートしませんか?」






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