第八部

 1 すべてを我々は見ている



 こうして私たちは,トイレット革命として知られる歴史を,共に考察してくることができた。とは言うものの,ここまで書いてきたことは,全て一般的な歴史教科書の書き方だ。


     * * *

『歴史とは,幾重もの黒幕が重なり合って出来ているものです。教科書に書いてある内容が,いつも真実とは限りません』

 ──アベル・ブロンダン。歴史学者。パンテオン・ソルボンヌ大学。


『本当にそのような者がいるのでしょうか。一部の研究者たちは,トイレット革命には裏があり,糸を引いていた者がいるといいます』

 ──テオフォール・ケクラン。歴史学者。ドゥニ・ディドロ大学。


『批判を顧みず一言させていただくなら,これはでまかせです。真剣に考察する価値などありません。確かに人気のある仮説です。でも私はこういう考え方があまり好きではありません』

 ──エステル・ビザリア。歴史学者。ストラスブール大学。


『素晴らしい学説だ。私はこの説を初めて読んだとき,目から鱗が落ちる思いだった。実によくまとまっており,新しい世界観を我々にもたらしてくれる。私が月刊誌を刊行しようと思ったのも,この説に感化されたからだ』

 ──ベルベット・マスク。リュムール誌編集長。

     * * *


 では,全てを根底から覆す「GWWSサイバー説」とは一体何か。私はこの謎を追いに,最後の旅に出る。


 豊かな水流を誇るソーヌ川に沿ってフュルシロン通りを歩いていくと,やがて一軒のアパートに行きつく。


 「ボンジュール!」。車椅子で温かく出迎えてくれたのは,私の友人で相棒でもあるミシェル・ポアソンである。彼は今年で七十路になるらしい。といっても,私の方はもうすぐ72を迎えるので人の事は言えない。彼は私を抱きしめてから,部屋に招き入れてくれた。


「あれから随分経つな」

 紅茶の出された応接室。私たちは,連れ立って仕事をしていた若き日々のことを懐かしく語り合った。


「そうだね。もう40年は経つね。ミシェルがメガネを買い替えるなんて思いも寄らなかったよ」


 私が首から吊り下げられた老眼鏡を指摘すると,

「年には抗えない」

 と彼は笑った。そしてキッチンから“彼女”が来る。リリアン夫人である。


 「彼女は変わらない。だろ? あの頃のままだ」

 きっとミシェルの目にはそういう風に映っているのだろう。私は微笑んで,出された菓子に感謝を述べる。


「ボッキーって言うんですよ。知っておられます?」

「聞いたことはありますが食べるのは初めてです。日本のチョコ菓子ですよね。美味しそうです。ミシェルは食べないように」

「何だと! それでも友達か」

「友達だから言ってるんですよ。糖尿病が悪化しても知りませんよ」

「大丈夫だ。それにお前は菓子を独り占めしようってだけだろ」

「誰がそんな大人気ないこと……って,ミシェル! 横取りかよ!」

「フランツ,お前にはいつも美味しい所を持っていかれるからな。たまには僕から食べてもいいんじゃないか?」

「何上手いこと言ってるんです。それに美味しい所を持って行ったのは君だろう!」

 私とミシェルはにらみ合う。


「そうかな」

「そうだよ」


 そして笑う。


 その後一通り会話を楽しみ,私は紅茶でのどを潤した。

「ミシェル,そろそろ本題に入ってもいいかな」

 

     * * *

 私:

 (ボイスレコーダー,オン)。今日は私の取材のために,お時間を取っていただき感謝いたします。元ラ・ニュヴェレ新聞社のフランツ・クライトマンです。Eメールでお知らせしていた通り,トイレット革命にかかわる学説について,お伺いできればと思っています。リリアン夫人にも時々お尋ねするかもしれませんので,そのまま楽な姿勢で質問に答えてください。


 リリアン夫人:

 ええ。


 ミシェル:

 フランツには頭が下がるよ。今でもトイレ問題を追っているんだから。


 私:

 私はたまたま独身を貫いたので,研究時間を持てるだけです。それに,どんな状況でも家族を大切にしているミシェルこそ,私のお手本です。


 ミシェル:

 フランツは結婚しないのか?


 私:

 必要性を感じないよ。それに,充実した人生は,結婚しているかどうかによって決まったりはしないからね。


 ミシェル:

 フランツのそういうところが好きだな。


 私:

 ありがとう。(咳払い)ここからは真面目な話です。トイレット革命には裏があるのではないかという学説を耳にします。それはどのようなものなのでしょうか。


 ミシェル:

 (老眼鏡を掛け,資料に目を通す)。様々なタイプのものがあるようですが,これらは一般に「GWWSサイバー説」,あるいは単に「サイバー説」と呼ばれています。この記事です。2038年1月30日,「フランス中央水道局GWWSにシステム異常」。


 水道の流水量が徐々に減り,止水してしまうのではないかと思われた事件です。この事件には首謀者がいるのではないか,首謀者はミスリス共和国およびAIのシステム開発にかかわったマルク・インターナショナルではないかというのがこの学説の要点です。


 私:

 なるほど。ミスリスと,同国に本社を置くマルク社がフランスの水道設備に攻撃を仕掛けていたということなのですね。確かにミスリスはフランスを非難する声明を出していましたからね。


 ミシェル:

 その通りです。ミスリスはトイレット革命によって被害を受けた最たる国ですから,GWWSを介してフランスにサイバー攻撃を仕掛け,私たちの国を機能不全に陥らせようとしていたとしても不思議ではありません。


 この点を裏付ける証拠として決まって引き合いに出されるのは,内部告発サイト「ウィキリスク」にアップされた「ミスリスの陰謀」という資料です(*1)この資料には,ミスリスが世界各国の機密情報を得るためにGWWSを開発していること,ゆえにフランスの水勢低下の原因は同国であることが指摘されています。


 私:

 それは興味深いですね。ところで,その資料は信頼できるのでしょうか。


 ミシェル:

 懐疑的な意見を持つ専門家は多くいます。しかし後の調査で,GWWSは外部,特にミスリスからの「トロイの木馬型ウイルス(コンピューター・ウイルスの一種)」に対して驚くほど脆弱ぜいじゃくでることが確認され,この学説は脚光を浴びるようになりました(*2)この点を踏まえ,全ての情報が信頼できるわけではないとしても,セキュリティー・ホールに関する100ページほどの内容に限り,同文書は一般に信頼できると言われています。


 私:

 そうですか。にわかには信じがたいことですが,GWWSに致命的な欠陥があったのは事実なのですね。このサイバー説を受け入れるなら,どんなメリットがありますか。




 ──────────

(*1) 「ミスリスの陰謀」

 ウィキリスクにアップされた内部告発文書。現在はウィキペアディ「フォンティーヌ・トマト事件」からダウンロードできる。(pdf形式 仏語)


(*2) E・リーム博士による分析。論文「Vulnérabilité liée au cheval de Troie GWWS」(2053年)を参照。


 ミシェル:

 不可解な数多くの歴史的出来事に,意味づけができるかもしれません。4つの出来事に焦点を当ててみましょう。


 まず1つ目は,2034年4月16日に起きた「フォンティーヌ・トマト事件」です。加害者の女性はトイレ清掃員に暴言を吐き,謎の言葉を残して死亡しました。


 もしあの言葉が,「マーク(marque)」ではなく「マルク(Marc)」だったらどうなりますか? 彼女は「マルク社を変えろ」と怒鳴っていたことになります。フランスにサイバー攻撃を仕掛けようと計画していた,陰湿極まりないミスリスとマルク社を,非難していたのではないでしょうか。


 思い出していただきたいのは,彼女がミスリス出身で,しかもプログラマーだったという事実です(*)彼女がGWWSを開発した専門チームの一員だった証拠をミスリスは提供していません。しかし仮にメンバーでなくとも,プログラマーの知り合いにチームの一人がいたので,そこから情報が漏れたとも考えられます。




 ──────────

(*) 第Ⅰ部1章を参照。


 ミスリスの野望を知った彼女は,それを阻止するため活動を開始します。心臓の持病も悪化していました。残された期間の中で,自分には何ができるのだろうと自問したのでしょうか。彼女は大きな計画を立てました。祝日にショッピングモールで騒ぎを起こすという計画です。


 そうするなら多くの人から注目されると考えたのでしょう。すべては彼女の思惑通りになりました。事件は大衆の目に留まり,沢山のトゥイートがなされました。人気ユーチューパーによって動画が投稿され,この事件は知られるようになりました。


 マルク社の人間は,プログラマーである彼女の怒号をユーチュープを通して聞くことになります。彼らにはその意図が解ったことでしょう。「マルク社を変えろ。マルク社は変わらねばならない。情報はすでに漏れている」。


 彼女はマルク社に冷や水を浴びせることに成功しました。風船が膨らむように情報が発信されていったのは,こうした彼女の綿密な計画によるものです。彼女は自分の命と引き換えに,フランスをミスリスの脅威から守ろうとしたのです。


 ではなぜ,彼女は「トイレ清掃員」に暴言を吐いたのか。


 被害者として知られる歴史上の人物マテュー・マリー・オジェは,心的ストレスを訴えて職場を後にしてから,消息を絶っています。定説では,静かな余生のために田舎に引っ越したとなっています。


 ここで,例のユーチューパーに注目してみましょう。このアカウントは,登録者が700万人を超える,あの「MMF(The Media Memory in France)」です。


 途中の「M」に気を付けつつこの名前を「em・m・ef」と書き換え,これを逆さまに読むと「femmeファム」,フランス語で「女」という意味になります。


 これは,MMFのリポーター エマが女性であることに由来すると考えられており,この独特の読み替えは,エマ自身が動画の中で紹介したものです(*)


 興味深いですね。なぜなら,トイレ清掃員の名前も,同じように置換できるからです。




 ──────────

(*) 動画「イギリスで発見 可愛すぎる女性紳士!」を参照。


 キリットス教の聖典ラ・ビブルからとられているトイレ清掃員の名前「マテュー・マリー・オジェ」(*)この頭文字を取っていくと「M・M・O」。これを再び真ん中の「M」に気をつけつつ「em・m・oh」と書き換え,逆さまに読むと,「hommeオム」,フランス語で「男」という意味になります。


 「二人は一体」という「マリーの書」の格言が思いだされます。



 Et qu'il a delare:Cest pourquoi l'homme quittera son pere et samere pour sattacher a sa femme, et les deux ne feront plu qu'un? insi, ils ne sont plus deux; ils font un. Que l'homme ne separe donc pas ce que Dieu a uni.

(こう言われているからです。それゆえ男は自分の両親を離れ,愛する女性と結婚します。このようにして二人は一体となります)



 そうです。被害者の男性「マテュー・マリー・オジェ」とは,変装した女性ユーチューパー「The Media Memory in France」だったのです。


 騒ぎを起こしたララ・ドルカルテは,この人気ユーチューパーと協力して鮮明な動画を撮り,重大なメッセージを世界に発信しようとしたのです。


 ですから,サイバー説を受け入れるなら,歴史ミステリーを解くカギは,と言えるのかもしれませんね。




 ──────────

(*) 第Ⅵ部1章を参照。


 2つ目の出来事に移りましょう。性差解放運動の高まりにより,フランスの商業界は対策を取ることになりました。とりわけ「TOLの宣伝行為」には驚かされました。なぜ社長ロバート・チェミレンは,トイレが消滅していくことを知っていたのでしょうか(*1)それは彼が世界情勢に関して聡明だったからでしょうか。それとも,外圧があったのでしょうか。


 フランス政府は,トマト事件の首謀者ララ・ドルカルテと以前から接点があったと考えられます。間もなくミスリスは水道をストップさせてくる。トップシークレットであるこの情報を得たフランス政府は,次にどんな行動をとると思いますか? 国民のために情報を開示し,サイバー攻撃に備えるよう親切に促すでしょうか。それとも,ミスリスにフランスの力を誇示し,同国の弱体化を目論むでしょうか。フランスがとった行動は後者でした。


 フランス政府は初めの段階として,ジェンダーに関する逆宣伝活動を煽り,リヨンで騒動を起こすよう人々を焚き付けます。もしかすると,この段階の背後に,ルカ13世を筆頭とするキリットス教の教会勢力があったのかもしれません。


 次に政府は,TOLに圧力を掛け,新作トイレの宣伝を行わせることにより,トイレット革命が拡散していくように仕向けます。スペイン・ショックのさなか,携帯トイレの普及により,売り上げを4割も増やせることは,TOLにとっても悪い話ではなかったでしょう。


 結果として,この種の逆宣伝活動は勢いづき,ミスリスの経済を圧迫し始めます。この経済難によって,ミスリスはフランスから,最初の大きな打撃を受けることになりました(*2)




 ──────────

(*1) 第Ⅱ部2章を参照。

(*2) 第Ⅴ部3章を参照。


 3つ目の出来事は,「細菌性赤痢の流行」です。面白いことに,安全な未承認薬は,フランスが持っていました(*)


 不思議に思いませんでしたか? なぜフランスが所持していたのでしょう。まるで赤痢の流行を予知していたかのようです。


 当のフランスは,薬を近隣諸国に売りさばくことによって,歳入を伸ばし,自らが計略した経済難を,当然のように切り抜けようとしました。


 ミスリス共和国を貶めることが,フランス政府のプランに予め組み込まれていたことは,4つ目の出来事,「ピクトグラムの変更」からも分かります。


 なぜフランス政府はピクトグラムを変更したのでしょうか。もっと言うなら,なぜフランス政府はピクトクラム変更を支持していたブラールを当選させたのでしょうか。




 ──────────

(*) 第Ⅵ部3章を参照。


 EUからカール交渉官が会談にやってきたとき,政府の要人は,決してピクトグラムを擁護せず,変更を断行しました。外務大臣の述べた「フランスにはフランスの事情がある」とはどういう意味だったのでしょうか。「政治は身勝手」というあの言葉の真意は,単に圧力に屈しないことを強調するだけのものだったのでしょうか(*)


 結果,世界で初めてピクトグラムを変えた国として,観光客数を取り戻すことに成功し,スペイン・ショックとミスリス危機からもたらされた経済問題すべてを払拭することができたのです。



 では,まとめてみましょう。GWWSサイバー説とは何ですか? それは,「トイレット革命の扇動者は,他でもない,『フランス政府と教会である』と主張する学説」です。


 私:

 長い説明をありがとうございました。とてもよく解りました。トイレット革命を扇動していたのが政府と教会というのは残念な結末ですね。リリアン夫人はこの学説をどう思われますか?




 ──────────

(*) 第Ⅶ部1章を参照。


 リリアン夫人:

 わたしは歴史家でもアナリストでもないので,個人的な意見は差し控えさせていただきたいと思います。しかし,サイバー説には多くのミッシングリンクがあることも忘れないようにしなければなりません。


 例えば,フランスの商業界全てが,ピクトグラム変更に賛成だったわけではないことを挙げることができます。もしフランス政府がTOLに圧力を掛けたのなら,どうしてラ・メンズ・ド・ショコラティエール(菓子メーカー)には圧力を掛けなかったのでしょうか。同社はトイレット革命の初期からピクトグラム変更に反対しており,その姿勢は革命が終わるまで一貫していました。


 また,政府がトイレット革命を扇動するなら巨額の資金が必要になるという点も挙げることができます。誰かを,あるいは何かを買収したりするためには,相当な金額が必要でしょう。そしてすべてのメディアを操り,言論を統制しなければなりません。わたしたちジャーナリストの質問まで政府が逐一考えたのでしょうか。


 パンデミックはどうでしょう。特定の赤痢菌だけが流行るように菌を培養していたのですか? そのためにどれだけの研究費がいるでしょう。スペイン・ショックで大わらわというような時期に,不確実性の高いこのようなプランを思いつくでしょうか。


 ある専門家は,サイバー説を資金的な側面から分析し,フランス政府がトイレット革命を扇動「しない」ことによって得られる経済的メリットを試算しました(*)それによれば,フランスは5年も前にスペイン・ショックから立ち直り,39パーセント増の貿易黒字を得ていたことになるようです。


 そしてこれは重要な点ですが,そもそも彼女がマルク・インターナショナルの内部情報を知っていたなら,なぜ堂々と公開しなかったのでしょうか。ユーチューパーとタッグを組んで,誤解を生むような寸劇をする必要がどこにあったのでしょう。


 サイバー説の支持者らは,「もし堂々と公開したなら,彼女はミスリスの刺客によって消されたはずだ」と主張します。わたしはこうした説明には無理があると思います。トマト事件が拡散して収拾がつかなくなるのですから,ましてや国家の陰謀など,より拡散して収拾がつかなくなるはずです。そうなるなら,いくら国家といえども,他国の言論を統制することはできないはずです。彼らは,そこにフリーメイソンが関係しているから可能なのだと主張しますが,さすがにそれはないでしょう。




 ──────────

(*) マルキ・ヌーヴェル博士の分析。論文「Estimation économique de la cyber théorie」(2054年)を参照。


 私:

 なるほど。そのように考えていくと,サイバー説は確かに抜け穴が多いですね。


 このインタビューは,サイバー説の真偽を明らかにするものではありませんので,正しいかどうかは読者一人一人に任せられるでしょう。とはいえ,こうした陰謀論が学者たちの間にも流行しているのですから,トイレット革命が,いかに歴史的に不吉な事件であったのか,よくわかるように思えます。

     * * *




 2 私たちの未来



     * * *

 私:

 さて,インタビューも終盤を迎えました。お二人が私の質問に辛抱強く答えてくださっていることに改めて感謝いたします。Eメールには書きませんでしたが──。


 リリアン:

 何でしょうか。


 ミシェル:

 何か?


 私:

 せっかくなので,お二人の生の声を届けたいと思っています。お二人は様々な違いを乗り越えて結婚されました。現代の若者たちに何かメッセージがありますか?


 ミシェル:

 ……そうですね。突然で言葉が出てきませんが。フランツが強調しているように,今は変化の時代です。一昔前まで不自由だったことも,価値観の変化と共に,自由にできるようになりました。それは素晴らしいこと,貴重なことです。だからこそ,自由を大切にしたいものです。


 最新の生き方をしているんだから,何でも自分勝手で良いわけではありません。人と仲良くするには力が要ります。


 私たちの住んでいる情報化社会は,この道が近い,この靴が安いなど,できるだけ労をかけなくてすむ方法を教えてくれます。それでも,愛を行動で示すため,あえて不便を買って出る人になってほしいと思います。


 自由は,私たちが熱いハートを持っているときにはじめて,私たちに優しくなるのです。



 リリアン:

 ミシェルに同感です。わたしも結婚した当初は,ウキウキして,何をやっても新鮮でした。でもやっぱり,夫婦といえど他人です。喧嘩もします。しょっちゅうします。(笑い)


 でも,そういうときは,意地を張っちゃいけません。


 ごめんと言える人は強い人です。どちらがどれくらい悪いかではなく,仲直りしたいという純粋な気持ちで,自分の方から動いてみてください。そうするなら,周りの人は,あなたのことを立派な人だと思って,もっともっと絆が深まるはずです。


 どうぞ,ハッピーな人生をおくってください。


 フランツ:

 ミシェル,そしてリリアン夫人,今日は私の取材に協力していただき,ありがとうございました。きっとお二人の熱いハートが,若い人たちに届いたと思います。これからも,お二人のご多幸をお祈りしています。


 フランスのリヨンから,元ラ・ニュヴェレ新聞記者 フランツ・クライトマンがお送りしました。

     * * *


 私はアパートを後にする。ソーヌ川沿いの道を帰っていくと,途中に公衆トイレがあり,新しいピクトグラムが掲げられているのが見えた。立ち止まり,しばらく眺める。


 「大切なのは人間の心」

 そんな言葉をどこかで聞いた。


 やがて頷き歩みを進める。清掃員たちの間で作曲された曲,「たとえトイレがなくなっても」を口ずさみながら。

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