第七部 その1

 1 最後の戦い



     * * *

『「つまりこういうことだ」。翌日,私はキャプチャの助手席に乗りながら彼に説明しました。「GWWSってのはフランスの各水道局の制御盤に当たる。高性能のAIが流水量を決めたり,供給のバランスを考えたりするんだ。だからGWWSが故障するとフランス全域に被害が出る」』

 ──私。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『「じゃあ,車のハンドルみたいなものか?」。運転しながらそう言うと,「そんなところだ。ただし,とてつもなくでっかいハンドルだけどな」と言われました。AIの製造元マルク社は,このシステムをかなり念入りに作り込んでいるようです。


『彼はタブレットを叩いて言いました。「水は人々の命にかかわるから,簡単に故障しないよう頑丈に作ってあるんだろ」。「じゃあ何で壊れたりするんだ」。僕がそう訊くと,「知らない」の仕草をされました。そんなことを言い合っていると,看板が見えてきました。「GWWSまで7マイル」』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『「到着ね」。私はドアを開け。リムジンを降りました。運転手のベツィーに「すぐに戻ってくるわ」そう言うと,「大臣危険です!」と引き留められました。彼女は小声で「庁舎に戻れば,相手の思う壺じゃないですか。蜂の巣をつついたような騒ぎになったらどうするんです」。さすがにベツィーに内情を明かすわけにはいきません。「大丈夫よ。ちょっと相手をなぶるだけだから」。


『「危険なのは先方……ですか」。彼女はメガネを掛け直しました。分かりましたというように引き下がり,そして言われました。「大臣ももう歳なんですから,あんまり無茶をされませんように」。頬をつねってあげました。でも彼女は間違っていません。「じゃあベツィー,もしもの時はお願いするわね」。彼女は敬礼して叫びました。「この日に祝福を。いってらっしゃいませ,ジャンヌ様!」』

 ──ジャンヌ・ド・ラランド。元外務大臣。


『ブレーキを掛けました。赤信号だったからです。次の日,わたしはBWMに乗っていました。わたしは暇すぎて暇すぎて,悪い癖が出ました。どうしても行きたかったんです。だって「美少女戦士のんたん」ですよ! 見るしかないじゃないですか。


『ミシェルが仕事に行ってから,こそこそと仕度を整えて,サングラスをしてパリのヴィレット・ホールに出掛けました。彼より早く帰ってこればいいやと思っていました。もしもに備えて書置きしときました。「ちょっと買い物に行ってくるわ」。自分は間違ってないと言い聞かせました。だってイベントの物色ですもの』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『庁舎に戻ると,応接室からルイが出てきました。突然変な男が入ってきたこと。彼はジャンヌ大臣の知り合いだと述べていること。怪しい2人組を連れていることなどを説明してくれました。「彼は大切な会談の相手よ」と言うと,たいそう驚いていました。


『「あなたは気にしなくてもいいわ。いつも通り,自然体で。落ち着いて行動していれば」。ルイは「はあ」と。話していると顔に絆創膏を張った2人の特務員がやってきて,慇懃いんぎんな態度で挨拶されました。「お邪魔させていただいております。ジャンヌの姉さん。我々のボスも姉さんと会えることを光栄に感じております」と。人が変わったようでした。


『「もう,変な言い方しないでちょうだい。どこの頭領よ」。案内されながら耳打ちしました。「あの時はごめんなさいね」。すると通信機を持った方が言いました。「お気になさらず。これからは全力で姉さんを守ります」。苦笑しました。なんなのこの上下関係』

 ──ジャンヌ・ド・ラランド。元外務大臣。


『早すぎたので,ミシェルと近くのディスカウントストアに寄りました。30分くらい買い物をして,車に戻りました。ストアのトイレは,貯水タンクのためにどうにか動いていました。今時トイレのある店は珍しいので,ついでに用を足し,その後コーヒーの代金を支払う時に店員に言われました。「もうじきあのトイレも使えなくなりますよ」。流水量は普段の5分の1だそうです。「ご加護を」。店員は私たちを見送ってくれました」』

 ──私。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『高速6号線を北上していました。慣れた道です。サングラスを外すと,遠くにパリの街並みが見えてきました。イベント会場へのルートを脳内で反芻はんすうしました。グーゴルマップで何度も確認しました。大丈夫よリリアン。パリなんてちょっと都会なだけよ。そしてギアをトップにして,アクセルを踏み込みました』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『一度深呼吸しました。フランスにとって今がどれほど重大な時なのか。そして世界にとってどれだけ大切な時か。今私が仕事に私情を差し挟むなら,フランスは手堅い敗北を喫っする結果になるかもしれません。


『服のほこりをはらってから,私は応接室へ入ります。豪華なシャンデリアと絵画のかかった部屋です。中央にはテーブルがあり,「彼」が後ろ向きで座っていました。ゆっくりと椅子が回転し,顔があらわになりました。


『いつ見ても,あの何もかも見透かしているようなコバルトブルーの瞳が嫌いです。「来てくれて嬉しいよ,ジャンヌ」。そう,不敵な笑みを浮かべる彼こそ,私を呼び出した張本人,戦うべき最後の相手です。私は「どうも」とだけ言い,促されるままに彼と相対するように着席しました』

 ──ジャンヌ・ド・ラランド。元外務大臣。


『2人は睨み合っていましたが,やがておじさんが口を開きました。「ジャンヌ。チョコトリュフでも食べるかい?」。大臣はずっこけて,「カール。私忙しいの。用がないなら出てってちょうだい」。おじさんは笑い,「まあまあチョコくらいいいじゃないか」と言いました。


『彼はお菓子とケーキを持ってこさせ,「さあさあどうぞ」と。「あと紅茶があればなおよし」。彼女はため息し,「ルイ,戸棚にナポレオンがあるから淹れて差し上げなさい。適当でいいわよ。ホント,テキトーで」。格調高い香りで部屋は満たされました。ティーカップを持ってくると「ほらカール。これで満足?」。「おやおや,ありがとう。悪いねジャンヌ」。乾杯の仕草でおじさんは応じます。おじさんは変わってますが悪い人ではなさそうです。


『大臣は礼も言わずに出されたチョコを口に放り込みました。「まったくドイツのスイーツにいいものなんてあるわけないでしょ」と。やり取りを聞いていても関係が良く分からないので尋ねました。「あの,そろそろ伺ってもよろしいですか? おじさんは誰なんですか?」。


『ジャンヌ大臣は紅茶を飲み,指をさしながら呟きました。「このEUの差し金が」。おぼんを落としそうになりました。「も,もしかしてEUの主席交渉官カール・バッハマン(Carl Bachman)さんですか?」。テレビでよく聞くEUの重役さんです(*)彼は眉を上げました。ヤバい。そんな偉い人に「おじさん」と言っちまったのか! カール交渉官は再び笑い,「ジャンヌも変わらないね」と。もしかして,この2人,そういう関係だったんでしょうか』

 ──ルイ・シェーヌ。外務大臣第二秘書。


『あーもー,最悪でした。会いたくない人ナンバーワンに君臨するのが彼です。もう一生会わないと心に決めていたのに。言っていいのか判りませんが,その,少しだけお付き合いの期間があったんです。同じ大学だったから。でもヨーロッパ経済に対する意見の相違が原因で別れることになったのです。


『私を言いくるめるため,わざわざ私の苦手な人物をよこす。まったくEUってば卑怯だわ! 電話でカールの声がするから,EUとの非公式会談だとは思っていました。でも,無駄話せずさっさと済ますはずでした。なのに何なのよ,カール! このケーキもチョコも! 私の機嫌を取ろうっての? そんな手に乗るもんですか! ホントに何なのよ。悔しいくらい美味しいじゃないのよっ(笑い)!』

 ──ジャンヌ・ド・ラランド。元外務大臣。


『それから延々とカール交渉官が喋ります。大学時代の大臣はサークルのマドンナだったこと。ジャンヌ大臣との半年間は今でも鮮明に覚えていること。自分はEUの重鎮になったというセルフプロデュース。今でも大臣のことを想い続けているという大胆な発言。さらに──。


『「テトゥワ(お黙り)! 用がないなら出てってって言ってるでしょ!」。ジャンヌ大臣は机を叩きました。交渉官は再び笑い,「ジャンヌは本当に変わらないね。うらやましいよ」。その後咳払いし「雑談はここまでだ」と言い放ちました。「それじゃそろそろ始めようか。非公開だが大切な協議だ」。




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(*) カール・バッハマン(Carl Bachman)

 ミスリス危機でEU離脱担当官と7日に渡り交渉を行ったEUの交渉官。第Ⅳ部 3章 を参照。


『「無理言ってすまなかった。迎え入れてくれたことに感謝する」。カール交渉官はジャケットを羽織り直し背筋を伸ばして私たちに言いました。「いいえ,こちらこそ。取り乱してすみませんでした。それで,EUが我が国に対して何を要求なさるのでしょう」。ジャンヌ大臣にスイッチが入るのが分かりました。


『食器が下げられ,その場は魔法にかかったように凛とした空気で満たされました。カールという人は,見た目変人ですが,本当は凄いやり手さんなんだろうと思います。ジャンヌ大臣のあれほど真剣な表情は,なかなか見られるものではありません』

 ──ルイ・シェーヌ。外務大臣第二秘書。


『人生に大切なものは3つあると思います。経験,友情,そしてカーナビです。少なくともわたし,リリアン・ベレッタにとっては。3時間のイベントで「キャー,美少女戦士のんたーん!」と叫び終え,わたしは悦に入っていました。BWMで帰途に就こうと高速6号線までの道を帰っていました。


『何度思い返してもミステリーでした。カーナビ通りに来たのに,なんで迷っているのでしょう。誰かが杖を一振りして時空を曲げたんだと思うことにしました。だって今わたしがいるのは,新興住宅街の中ですもの! しかもカーナビの画面は真っ白でした。真ん中に小さく,「ゴルフ場」と書かれていました。ナビのデータが古すぎて,対応していなかったのです。


『「魔法に掛かるなんて想定外だわ!」。とりあえずハザードを出して停車し,誰か道を尋ねられる人がいないかキョロキョロしました。筋向いの家に入っていくダンディーなおじさまが見えたので,呼び止めてみました。「すみません。道をお尋ねしてもいいですか?」。


『その人はこちらに気づいてやってきます。緋色のチーフにシックなジャケットが似合う人でした。「何かね可愛いお嬢ちゃん」。吐く息に酒気が感じられた瞬間,相手を間違えたと思いました。その後に起きたことは,あまり思い出したくありません。いずれにしても,その人は,わたしがトランスジェンダーであることを見破ったのです(*)


『この破廉恥オヤジは,語気を鋭くし「まったく情けない!」と叫びます。「君は恥ずかしくないのかね。男が女のをして! 君たちがフランスの社会問題を作っているという自覚はあるのかね」と腕を掴んできました。やばい。逃げなきゃ!』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。




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(*) これは夫人の了解を得て掲載するが,この男性は,夫人がたまたま持っていたトマトを撫でてきたらしく,同時に内ポケットにあったホルモン系の錠剤に気づいたようである。


『「世界は今,窮地に陥っている」。カールはゆっくりと話し始めました。「ジャンヌ,一刻を争うんだ」「フランスにどうしろとおっしゃるんです?」。彼はグラスの水を一口飲んでから,大真面目に言いました。「トイレのマークを変えないでほしい」。


『彼はタブレットを操作します。「見たまえ。君の国がトイレについて気ままな論争を繰り広げている間に,一体何が起こったのか。23の世界都市でひどい赤痢が蔓延し,50の国でトイレに関する騒ぎが起き,71の国や地域でこれまでにない経済難が発生している。その影響のために,1,000万人を超える難民も出ている。ジャンヌ,1,000万だぞ。パリの人口とほぼ同じだ。避難民を受け入れるドイツとイタリアは悲鳴を上げている。スペイン・ショックを超える大恐慌が始まるぞ」。


『「ジャンヌ,考えてみるんだ」。彼は切々と訴えます。「トイレのマークを議論するだけでこれだ。だからもし,君たちの国が本当にピクトグラムを変えでもしたら,世界はどうなるか。ミスリスのユーロ離脱だけでは済まない!」。彼の言いたいことは解りました。国同士の緊張がこれ以上高まるなら,第三次世界大戦に繋がらないとも言えません。未曽有の核戦争がトイレによって始まったとしたら,後世に何と言い訳するのでしょう。つまり,EUは,なんとかして「ピクトグラム法」の施行を水際で阻止したい考えだったのです』

 ──ジャンヌ・ド・ラランド。元外務大臣。


『「──でありますから,GWWSはフランスの水道における里程標となり,多くの人に恩恵を与えているのでございます」。GWWSの記者会見が始まってすでに2時間が経過していました。職員の説明は冗長で退屈でした。バグの釈明ではなく,GWWSの歴史や特恵について長々と喋っていました。弁舌で記者を煙に巻いているだけではとさえ思えました。僕は肩を揉み解しながら「つまりどういうことなんだ」と小声でフランツに訊くと,「要するに頑張って復旧作業をしているってことだろ」と説明してくれました。


『「ではここで,一旦休憩を挟みたいと思います」。責任者がマイクを使って呼びかけます。やれやれと,僕たちは新鮮な空気を吸いに外へ出ました。フランツはメモを書ききり,「これで何とか記事にできそうだ」と。


『僕は深呼吸してから,この近代的な建造物を見上げました。国中の水道を統括している不思議な施設です。「なあフランツ。これからこの国はどうなるんだろう」。水が本当にストップするなら,社会はパニックになってしまうでしょう。僕の質問に彼は「さあな。俺たちの役目は現状を伝えることだけだ」と言ってきました。僕は思いました。ああ,独り身ってなんて気楽なんだ!』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『困ったことになりました。破廉恥オヤジは,「さっき君が服を引っ張ったせいでボタンがほつれたじゃないか! どうしてくれるんだ!」と言いがかりをつけてきました。「降りてこい! 慰謝料は体で払ってもらおう」。


『「やめて! どいて!」と叫んでも効果がありませんでした。「言うことを聞いてくれないなら,どうなっても知らないから」。ギアをバックに入れ,タイヤを滑らせながら後退しました。男は勢いで前につんのめりました。ギアを変え,その場を走り抜けました。さすがにもう追ってこないだろうとミラーを見ると,あろうことか,黄色のフェリーラで追いかけてきたのです!』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『「ところで,奥さんとは上手くいってる?」。私はミシェルに訊いてみました。新婚生活は順調かどうか確かめたかったのです。彼は微笑し,「ああ」と。「本当に?」。「本当だよ。楽しくやってる」。彼の目は泳いでいました。「何かあるね」。


『ミシェルは言いました。「仕事でなかなかかまってあげられない」。そして,「難しいよ。夫という立場は。特にこんな時代に妻を持つってのは大変だ。彼女を守り切れるか,経済的に支えてあげられるか,様々な心配をしないといけない。まるで食べても食べても満腹にならないような感じで,いつも煩い事と戦ってる」。


『「よくやってるよ」と私は褒めました。ミシェルが悲観的になるなんて珍しいことでした。「はあ,腹減ったなー」「帰りにハンバーガーでも買うか?」。するとミシェルは笑います。「いいよ。帰ったらリリアンが何か作ってくれてるだろうし」』

 ──私。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『必死で運転していました。見知らぬ道を。入り組んだ碁盤の目を。むちゃくちゃにハンドルを切りながら路地をジグザグに進みました。事故をしなかったのが奇跡でした。運転には自信がありましたが,スポーツカーと競争できるなんて思ってません。フェリーラは住宅の生垣や壁に当たりながらも,執拗に追跡してきました。


『直線コースに入ったので,スピードを上げます。「こうなったら奥の手よ」。ブレーキを踏みつつ,左手のディスカウントストアに突入しました。駐車場に紛れ込めば何とか撒けるでしょう。即座に近くのスペースに駐車して息をひそめました。


『次の瞬間フェリーラが猛スピードで通過していくのが見えました。目標物を見失ったスポーツカーはしばらくうろうろしていましたが,一周した後,やがて駐車場からいなくなりました。安堵してシートベルトを外しました。なんとかなりました。本当に危なかったです。九死に一生を得ました。そして考えました。どうしてこうなったんだっけ』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。



『大臣は黙りました。カール交渉官の話術はさすがでした。一瞬にしてあのジャンヌ大臣を遣り込めてしまったのです。確かに,EUにしてみれば,フランスは身勝手な国なのでしょう。自国の利益だけ追及するやり方はいかがなものかというわけです。カール交渉官はとどめを刺しに来ます。


『「フランスでは過半数がピクトグラム変更に賛成しているようだね。だが,もう半分は変更を容認していない。彼らの言い分に少しは耳を傾けたらどうかね。フランスの商業界,特に菓子メーカを筆頭にした反ブラール商業勢力があることも知っているだろう。ピクトグラムの変更は,君たちの国にとっても都合の良いことばかりではない。確実に国益を損なう。おいしいチョコトリュフがなくなってしまってもいいのかい?」。


『なんで土産がトリュフなんだろうと思っていましたが合点がいきました。彼はピクトグラム変更に反対していたラ・メゾン・ド・ショコラティエールを念頭に置いていたのです。ピクトグラムの騒ぎで売り上げが激減しており,先行きが危ぶまれるとの談話を発表していました(*)



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(*) 第Ⅱ部参照。


『交渉官はタブレットを操作し,大臣にピクトグラムが描かれたページを見せます。「トイレを味方につければ,世界の平和と秩序は確約される。これ以上複雑な事態にさせないためにも,ピクトグラムを変えるべきではない。我々政治家は,世界の安寧のために奉仕しているのではないのか。今こそ動くべき時だ。さあジャンヌ,トイレのピクトグラムを守るんだ!」』

 ──ルイ・シェーヌ。外務大臣第二秘書。


『もう日暮れです。どっと疲れが出てきました。住宅街に迷い込む。追いかけまわされる。おまけにここがどこかも分からないのです。オレンジ色に染まった空を眺めました。そろそろミシェルは帰っただろうか。夕食作ってこなかったな。スマホを手に取りました。「あ,ミシェル。わたし」』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『休憩が終わり,職員の説明を受けていると,ミシェルの携帯が鳴りました。どうやら彼の奥さんからのようです。彼は目立たない場所に行って,電話に出ました。初め彼は穏やかに話していました。「ごはんができてないって? どうして? えっ? 買い物に行っていたら友達と一緒にイベントに行くことになって,今パリ?」。


『やがて彼はきつい口調になり,「でも僕は家にいろって言ったよね」となじり始めます。「確かにイベントに行こうって言ったのは僕だけど,仕事なんだから仕方ないじゃないか。それに君は,僕よりも友達の決定を優先するのか?」。おいおい。喧嘩はよそでやってくれよ』

 ──私。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『ミシェルは「どうして君はいつもそうなんだ! 自分で何とかできると思って,そして迷子になって,どうするつもりなんだ!」。わたしも負けじと言い返しました。「何よ! イベントの予定を忘れていたのはどっちなの! そもそもあなたが仕事を入れなければこんなことにはならなかったでしょ!」。


『喧嘩は10分くらい続きました。お互いに疲れていたのでしょう。辛辣な表現しか出てきませんでした。最後に彼は,「もう勝手にしろ!」と叫んで電話を切ってしまいました』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『私は目を閉じました。彼は間違っていませんでした。もし今,フランスがピクトグラムを変更するなら,世界は大変なことになるでしょう。「カール,あなたの言い分はよく解るわ。私も伊達に20年政治家をしているわけじゃない。確かにこれは誤った選択かもしれないわね」。私は水を飲みました。「でも,そもそも政治って,身勝手なものでしょ? 自国の利益を優先する。博愛だとか隣人愛だとか色々言うけど,政治の世界はそうじゃない。そんなトリュフのように“甘ったるい”ものじゃないわ」。私は心にあることを語りました。


『「それにね,フランスにはフランスの事情があるの。あなたは他国のことを考えて行動しろって言うけど,本当はそんなことできっこない。あなたもよく知ってるくせに。人間による政治には,できることとできないことがあるのよ。そりゃ他国のことまで考えて行動できればそれが一番。でも現実には無理よ。政治というシステムそのものが,そういう風にはできていないでしょ。


『フランス社会の基盤は醜いわ。それは認める。多くの迷惑をかけることになるかもしれないわね。でもこの法案だけは譲れない。そういう事情があるの。だからフランスは,EUの圧力には決して屈さないわ!」。私は言い切りました。


『カールはうなだれ,手を組みました。彼には密命があったのでしょう。フランスのマーク変更を阻止せよと言われていたに違いありません。だからこうして非公式の会談でもって私に圧力を掛けてきたのです。


『彼は「そうか」と言いました。「どうしても,トイレを敵に回すのだね」。私は「敵に回すのではなく,人権に配慮した政策なのです。これは国民投票で民意が反映され,決着のついたことなのです」と述べました。


『「交渉決裂ということで,この件はお引き取りください」。私が立ち上がると,彼は取巻きに向かって「2人だけにしてくれたまえ」と言い放ちます。「それでは」とルイも退きます。場の空気が再び変わりました。見ると,彼は恐ろしいほど無表情になっていました。何かに取り憑かれたように。どうやら,本当の会談はここからのようです』

 ──ジャンヌ・ド・ラランド。元外務大臣。


『携帯をシートに叩きつけました。ミシェルとは終わってしまいました。「大っ嫌い」って言ってしまったからです。自然と涙が溢れました。何でよ! 愛してるって言ったじゃない! 恋愛は花瓶のようです。一度壊れると,元には戻りません。それからしばらく泣きました。今までの努力は全部無駄だったんだと思えました』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『まったくあんな女だとは! 夫の言うことを聞かず,パリのイベントに勝手に行く。きっと買い物とか友人というのもハッタリでしょう。迷子というのも嘘かもしれません。携帯の待ち受け画面を変えました。「こうなったら,元画像の写真も消してやる!」。やけになってギャラリーアプリを起動させました』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『2人だけになった部屋。「こういうことは,あまりしたくないのだが」と言って,カールは内ポケットに手をやりました。そして紙切れを取り出します。「ジャンヌ。もしフランスがトイレの味方になってくれれば,少しばかり接待することもできる」。なんと小切手でした。


『彼をキッと睨みました。「EUはいつからこんなに落ぶれたのかしら」。彼は質問に答えることなく,テーブルに出されたばかりの小切手をつまみ,破いてみせました。「8桁で不満なら9桁でもいい。ジャンヌ。私はどうしても,世界を火の海から救わねばならない。もし世界大戦を1億ユーロで買い納められるなら,安いとしか言いようがない。格安のワインだ」。彼は水の入ったグラスを持ち上げて言ってきます。「後は君が,このワインを,僕に売ってくれるかどうかだ」』

 ──ジャンヌ・ド・ラランド。元外務大臣。


『私の名前はベツィー・ドラクロワ(Betsy Delacroix)。友達からは,“ドラマチックな苦労話”とか言われますが,私はこの名前が結構好きです。ロマン主義の画家にも同じ人がいます。


『自己紹介はこのくらいにしましょう。ここに懐中時計があります。今は夕方5時。大臣が庁舎に行かれてすでに4時間。少し長すぎやしませんかね。それにあのカールという男。絶対に何か隠してます。今頃大臣はあの“狼”につかまってもてあそばれているに違いありません。ならばこのベツィー,大臣救出のため,一肌脱ごうじゃありませんか。


『一介の運転手に何ができる? 安心なさい皆の衆。コンソールボックスを開くと,あら不思議。リボルバーが一丁出てくるではありませんか。ご安心ください。これは万国旗が出てくる玩具でございます。ええ玩具ですとも。盛大な拍手に感謝します。何でもできる,ベツィーでございます』

 ──ベツィー・ドラクロワ。運転手。


『応接室を出ると,忍び足でこちらへやってくる一人のゴスロリ女子が見えました。運転手のベツィーです。「ベツィーちゃんどうしたの?」と訊くと,「狼の本性を暴いてやるわ! ルイ! あんたも来て!」。「今は誰も入れないよ」。ドアの方を指さすと「狼と2人きりですって! ますますいけないわ!」。


『カール交渉官の取巻きが彼女に気づき,「むむ,刺客!」とピストルを出してくるのでさらに厄介でした。「あんたたちどきなさいよ! ジャンヌ大臣のお抱え運転手,ベツィー様のお通りよ!」。すると,「これはこれは,姉さんの運転手様でしたか」と敬礼していました。どこの喜劇ですか』

 ──ルイ・シェーヌ。外務大臣第二秘書。


『「世界の和平のためだ」。カールのドスの効いた声が響きます。一枚の小切手に人類の存亡がかかっていると思うと,受け取ることもあながち間違いでないのではと思えてきます。私が「こういうのはエゴよ」と断ると,「政治が身勝手とは君の言葉だ」と言われてしまいました。


『まるで3分が1時間のように感じられました。カールは私を良く知っています。フランスの安定を常々願っていること。国民の福祉が何よりも重要であると考えていること。戦争には断固反対の立場をとっていること。


『私の心は,少しずつ彼に傾いているようでした。EUが彼を遣わした理由が呑み込めた気がしました。やはりカールは強かった! 私は──ああ私は──,震えながら,手をカールの方に伸ばしはじめていました』

 ──ジャンヌ・ド・ラランド。元外務大臣。


『僕は固まっていました。指先が小刻みに震えました。「自分は何をしようとしていたんだ」と思えました。ギャラリーを開くと,出てきたのです。彼女との思い出の写真が次から次に。日本で撮ったうどん屋でのリリアン。サムライがいなくてしょんぼりするリリアン。正座ができなくて赤面するリリアン。カフェ「フローラル」の集合写真。自分を変えようというあの決意。


『僕には。……僕にはとても消せませんでした。思えば,自分にも悪い点が沢山ありました。残業ばっかりして彼女への気遣いが減っていること。休日は疲れていて彼女にかまってあげられないこと。予定をすっぽかしたこと。扉をくぐり施設の外に出ました。涙ながらに電話しました。「リリアン! ごめん!」』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『一通り泣いてから,空を眺めていました。自分ってバカだなと思いながら。自分が勝手に家を出たのに。嘘までついたのに。それをミシェルのせいにするなんて。わたしって全然成長してないなと思えました。でも謝るなんてできない。わたしは体を起こしました。割合で言うと,9対1でミシェルの責任です。絶対にそうです。彼が謝らない限り,絶対に許してあげません。


『でも,これでいいのだろうかとも思えました。「まず行動です。熱いハートが,今の日本に最も必要なんです」。ケンジの言葉が思い出されました。「フランスは変わることができる」とも。


『カバンを取り出し,お財布に入れていたカフェ「フローラル」のショップカードを取り出しました。表紙を眺めました。「彼らはとても温かい人々なんだと。長くいればいるほど,彼らのことを愛おしく思えるようになってきたんです」。わたしは深く息を吸い,カードをひっくり返しました。くしくもそこには,彼が走り書きしたタイトルメモがありました。


 フランス──ハートのある国


『わたしは何度も頷きました。わたしは自負心が強い方だったので,“これ”をするのは,今までで一番難しいことでした。でも,壊れた花瓶を元に戻すには,強力な接着剤が必要なのです。ミシェルが自分を変えたなら,わたしだってそうできるはずです。投げ出した携帯を拾い上げます。「日本人にフランス人のプライドを見せてあげるわ!」。わたしは電話帳から「ミシェル」をタップしました。


『と同時に携帯が鳴りました。なんとミシェルでした! わたしは電話に出て「あ,ミシェル。さっきは……」と言うと,「リリアン,ごめん!」と彼の方から謝ってくれました。「本当にごめん。僕が悪かった」と。彼は自分が仕事を入れてしまったことや,わたしの気持ちにルーズだったことを謝罪してくれました。わたしも叫びます。「ミシェル,わたしが悪かったの。自分勝手でごめんなさい」。そのあと,買い物をしていたことや,友人のことは全部嘘だと言いました。すると彼は,「知ってたよ」と言っていました。わたしはもう一度謝りました。夫婦になると隠し事ができなくなるんですね。


『「君がパリにいるなら何か食べて帰ろう」。近くに目印となるディスカウントストアがあることを知らせると,「ああ,あそこか」と。「待ってて。もうすぐそっちに行けるから」と。本当に頼もしい夫です。ミシェルの人柄に改めて感心していると,クラクションが鳴らされました。「もう?」。わたしは電話も切らぬまま,「ミシェル早かったのね──」。フェリーラのウィンドウが下がり,血紅色の口が開かれます。「みーつけた」』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『ミシェルが電話のために退席してからしばらく経ちます。「何油売ってんだ」と彼を呼び戻しに外に出ると,何か変です。駐車場に空きスペースがあります。休憩していた時は満車だったはずです。それに彼はどうしたのでしょう。どこにもいません。「ミシェル?」』

 ──私。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『国道を逆走していました。あんなにも粘ったGWWSの取材を後にし,カメラも機材も後にし。ライトを点け,ホーンを鳴らし,車の間を縫うように走り続けました。感じたことのない張り詰めた気持ちに襲われました。彼女の名前を叫ばずにはいられませんでした。どうしてこうなったのか理由は分かりません。リリアンは今,住宅街でカーチェイスを繰り広げているのです!』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『咄嗟にアクセルを踏んでしまい,車で逃げようとしたのが間違いでした。住宅街の迷路に再び入ることになりました。右へ左へ。左へ右へ。パッパーと警笛を鳴らしたトラックとぶつかりそうになったり,開かれた車のドアと接触しそうになったりしました。それでもフェリーラはついてきます。「あーもう! しつこい!」。交差点です。ちらりと右側を見ると,大型ダンプがやってくるのが見えました。そのまま後ろを振り返らずに走り抜けました。数秒後。ドカンという音が後方から聞こえてきました。きっとそうです。そういう結末であるに違いありません。心にいくらか余裕が生まれるのが分かりました。


『でもやっぱり,わたしは何事にも不器用な人間でした。わたしの前に現れたのは,交差点でも幹線道路でもなく,壁でした。行き止まりだったんです。ブレーキをかけてミラーを見ました。バンパーがつぶれたフェリーラがノロノロとやってくるのが分かりました。「やばっ!」。エンジンを止め,貴重品と携帯を持ち,車を降りました。


『やがてモンスターの到着です。ドアが開かれます。「鬼ごっこは終わりだよ,変態さん」。何だかムカつきました。変態だなんて! 変態度なら,あなたの方が格段に上じゃない! わたしは変態なんかじゃない! 特別な女性リリアン・ポアソンなんだから! わたしは思いっ切り「アッカンベー」して,壁に手を掛けました。今はスカートですけど,そんなものに構っていられません』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『住宅街に行ってもなかなか彼女は見つかりませんでした。うろうろしていると擦れたタイヤの痕がありました。進んでいくと,黄色いスポーツカーと妻のBWMが見えました。ビンゴでした』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『着地したところは,人の家の庭でした。洗濯物をかき分けながら逃げました。誰かが「ドロボー」と叫んでくるのが聞こえました。無視しておきました』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『「リリアーン」。BWMのドアを開けましたが彼女はいません。まさかフェリーラの方かと思いましたが,誰もいません。きっとその行動が不審だったんでしょうね。見知らぬ女が壁越しに覗いて来て言いました。「いたぞ! ドロボーだ!」。何のことだかさっぱり分かりませんでしたが,身に危険が迫っていると思ったので,急いで車に乗りその場を離れました』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『走っていると携帯が鳴りました。「リリアン。君の車はあったけど,君はどこにいるんだい」「もうもうミシェル遅い!」「だから君はどこなの」「今ここよここ! あそこを曲がったここに決まってるでしょ! 来た来た! きゃー!」。言葉で表現するって難しいですよね(笑い)』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『走って逃げるとしたら,必ずこの道を通るはずです。グーゴルマップを見ながら推測しました。そして彼女は坂道を下る癖があるから右折する。その先はきっと左折だ。答えが見えてきました。ハンドルを握りました。今度こそ!』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『足が疲れてきました。携帯を握ろうとすると,手汗で滑って落としてしまいました。「やばっ。急いで拾わなきゃ──ってキャー! 来ないで! 近寄らないで! これ以上近づくと,このヒールを投げるわよ! 痛いわよ!」。すると男は一瞬でしたが怯みました。なので,その間に靴を脱いで,遠慮なく投げておきました。顔に当たりました! よっしとガッツポーズをして,また逃げました』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『その時,ガラスの割れる大きな音が聞こえました! 「狼よ! 狼が動き出したわ!」。ベツィーが応接室に駆けこもうとします。「なんだって? 狼がいるのかね」「ジャンヌ姉さんが危ない!」。取巻きもその気になります。いやいや狼ってのは,あんたらのボスのことだよ。彼女は叫びます。「シャルル! レオン! 突入するわよ!」「はい! ベツィー様!」』

 ──ルイ・シェーヌ。外務大臣第二秘書。


『「出てってちょうだい!」。私はカールのグラスを叩き落としました。床で粉々に砕けた音がしました。カールは驚いたように「僕は君たちのためを思って行動してるんだぞ!」。なので私は言ってあげました。「お金でフランスを買収しようなんて笑止千万。今の時代に金銭ほど不確かなものはないわ。あなたは,私たちフランスを見くびりすぎなのよ!」。仁王立ちして叫びました。「失せなさいモンスター! でないと政界のジャンヌダルクことジャンヌ・ド・ラランド様が成敗してくれよう!」』

 ──ジャンヌ・ド・ラランド。元外務大臣。


『もう走れないと思っていると,向こうから一台の車が来るのが見えました。ミシェルの社用車です!』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『金髪女性が走っているのが見えました。後ろの男は,なぜかヒールを持ちながら追いかけていました。停車しドアを開け,「リリアン! こっちだ!」。彼女が飛び乗ると同時にアクセルを踏み込みました』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。


『ドンッとドアを蹴破り,僕たちは中に入りました。なぜかそこには,仰向けになって目を回している交渉官がいました。


『「あ,あれ? 狼はどこ?」。ベツィがキョロキョロするので。「たぶんこれ」と指さしました。取巻き2人は,「ジャンヌ姉さんご無事でしたか!」と駆け寄ります。大臣は手をパッパッと払って,「このどうしようもないゴミを処分しておきなさい」と命令しました。あーあ。やられちゃったね。何があったかは知りませんが,どうやら交渉官の負けのようです。僕は交渉官に呟きました。「ご愁傷さまです」』

 ──ルイ・シェーヌ。外務大臣第二秘書。


『ミシェルには感謝しています。髪はボサボサ,タイツはボロボロでした。でも彼が助けに来てくれて,本当に本当に良かったです。リヤウインドーから確認すると,遠くで変態オヤジが吠えたけっているのが見えました。彼にもう一度言っておきました。「ごめんね。ありがとう」』

 ──リリアン・ポアソン。元BBF通信記者。


『「助けられたご感想は?」と訊くと,「まー,悪くないわね」ということでした。ボッキーをあげると,むしゃむしゃと食べていました(笑い)。「もう無理しちゃだめだよ」と。そのあと,彼女のためにパンプスを買い,レストランに入って一緒に夕食をとりました。


『食べながら彼女が尋ねてきます。「そういえば,もう1人のお仲間は?」「あっ!」。僕はフォークを落としました。そうでした。フランツのことをすっかり忘れていました(笑い)。今頃しびれを切らして激怒しながら帰っているに違いありません。「や・ば・い」と言うと,彼女はケラケラと笑っていました(笑い)』

 ──ミシェル・ポアソン。新聞記者。ラ・ニュヴェレ新聞社。

     * * *


 お気遣いに感謝する。そんなこともあった。私は仕方なく電車で帰ったのである。


 ちなみに,フランスの水道異常はあれ以上ひどくならず,次の日から平常通りの流水量に戻った。なのであえて言わせていただく。友よ,過去は水に流そう。

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