第8話 AI案内

『おはようございます。今日もいってらっしゃい』


 液晶パネルに移る女性が笑顔で挨拶をしてくれる。

 最近、俺の住む町の駅に駅案内が新しく増設された。駅案内と言ってもAIを利用したパネルだ。

 行先を聞くと乗り換えの駅や発車時刻を確認できる。その他にも、今日の天気やニュース、レストランなども案内も可能だ。

 朝、ざわざわと人が行き来する駅前でAIの声が響き渡る。


『今日のニュースです。先日、行方不明の女性ですがいまだに見つかっておりません。警察は引き続き調査を続けています。次に、今日の天気です――』


「まだ見つかってないのか……」

「この辺りで行方不明だってね……怖いわ……」


 そんな声が聞こえてくる。バッグなどは見つかっており、女性だけが見つかっていない。

 警察は誘拐事件として調査をしているらしいが、監視カメラにも何も映っていないらしくお手上げらしい。



 フラフラとおぼつかない足取りでなんとか最寄り駅まで帰ってきた。

 飲み会に行き、結構盛り上がってしまった。その結果、終電ぎりぎりの時間になった。


「終電……はあるな」


 スマホで調べる。周りには俺以外誰もいない。


「いや……駅案内があるのか……」


 ふと、人がいない時はどうしているのかと思いパネルへと立ち寄った。

 朝など人が多い時間帯には絶えずしゃべり続けているパネルも、今は静かだった。

 というか画面自体、真っ暗だった。もしかして、この時間は電源を消しているのか?


「まぁ、こんな夜中に話しかけるやつなんていないもんな……」


 そうつぶやき、パネルに背を向け帰ろうとする。


『け』

「ん?」


 ふと、人の声がした。あたりを見渡しても何も聞こえないし、人がいない。

 聞き間違えかと思ったが、ふいにパッと背中側が明るくなった。

 振り向くとパネルの電源がオンになっているっぽい?

 さっきまで真っ暗だったパネルには駅案内の女性AIが立っている……はずだった。


「だれ……だ?」


 見ると、そこにいるのは朝によく見る女性のイラストではない。

 女性ではあるが、必死の形相で液晶パネルをどんどんと叩いている。

 よく見ると何かを叫んでいるようだった。だが、俺はパネルから離れてしまったため聞こえにくい。


「なんだなんだ。誤作動か……?」


 そう思いながらパネルへと近づく。


「どうした、どうした」

『……け』

「ん?」


 聞こえないと思ったパネルに耳を付ける。瞬間、いつもの無機質な女性ではない声が聞こえた。


『たすけて』


 ぞっとして耳を離し、パネルを見る。よくよく見ると、行方不明になっていた女性に似ていた。

 女性は、同じことをずっと繰り返している。


『たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて』


 壊れたレコーダーのように叫び続けている。恐ろしくなった俺は、その場から全力で立ち去った。

 


 次の日、二日酔いの中俺は目を覚ました。あれは……夢だったのだろうか。

 夢だ、夢。飲みすぎたな、と自分自身に思い込ませて出勤の準備をする。

 最寄り駅に着くと、いつもの案内パネルが目に入る。立っているのはいつものイラストの女性だった。


『今日のニュースです。以前、行方不明の女性が――で――』


 途中で聞き取りにくくなる。他の人も不思議に思ったのか、立ち止まりパネルの方を見た。

 瞬間。


『たすけてぇええええええ!!!!!あああああああああああああああああ』


 と聞こえてくる絶叫。思わず耳をふさぐ。


「うわ……なんだ」

「こわ……!」

「なになになに!?」


 周りの人もパニックになってきた。悲鳴を聞いたのか、駅員が走ってやってくる。


「何がありましたか!?」


 そこから駅中はパニックになった。駅員に詰め寄るもの、パネルから遠ざかり怯える者、俺のようにさっさと電車に乗って忘れようとする者。



 数日後、パネルは撤去されていた。曰く「不具合が発生した」との事だった。

 それと行方不明の女性も見つかったそうだ。どこで見つかったは分からない、ただ彼女は一言。


「たすけてって……言ったじゃん」


 と、つぶやいていたらしい。

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