ファントム、尋問される13
瀬尾は、カタカタとキーボードを打つ手を止め、医療班に治療されている灰島を見て嫌そうに顔をゆがめた。
「ねぇ」
彼は、近くにいた医療班のリーダーに声をかける。
「そいつのバイタルは安定してんの? たまにピクピク動いてて、気味が悪いんだけど。もしかしていきなり死んじゃったりする?」
「一応、最悪の事態にはならずに済みそうです。これは薬物の副作用による、軽微な神経性の痙攣と思われます。意識レベルに変化はありません」
「あれま、死なないんだ。それは残念」
瀬尾は、心底どうでもいいというように肩をすくめると、通信機を手に取った。セレスティーナに直接回線を繋ぐ。
『どうしたの、クラブ』
「マダム。プロメサーの件だけど、ちょっと気になって」
瀬尾は、わざとらしく頭をガシガシと掻きながら言った。
「奴は元コクチョウのトップエージェント。今はさ、監視下にあるから俺もコクチョウの内情が覗けないし、そいつが誰かはわかんないのよ。でも、丸裸ってことは無いだろうし、天文台の装備を見ても、かなり課金してるんじゃないかな? それにMI6とことを構えるんだ。一人で乗り込むとは思えない。けれど分け前を考えると仲間が大勢いるとは考えにくい。恐らくだけど、傭兵なりプロの仕事人辺りを雇うんじゃないかな?」
『……続けなさい』
「傭兵を雇うなら間違いなく海外からだ。それなら、入国記録を見れば確実に特定することができる。ということは、相手の戦力がある程度推測できるってことにならない?」
『……そうねぇ』
「調べるなら、少しでも速い端末を使いたい。許可を頂けるなら、メインフレームを使い、奴の依頼した傭兵の能力、金の流れから武器調達のルートを洗い出しますよ。敵の戦力を完全に可視化し、あなたの勝利を確定させる。……もちろん、それ相応の追加報酬を期待しますがね」
その、野心と金に忠実な提案に、セレスティーナは満足げな声を返した。
『許可するわ。やりなさい、クラブ。あなたを飼うことにしたのは、正解だったようね』
「お買い得でしょ?」
瀬尾は、そう言うと席を立った。起動させたままのPCをその場に放置し、ベッドに横たわる灰島を、値踏みするように、冷たい目で見下ろす。
「AEGISのキーはきっとお前を探してる。だから俺たちは待つだけでいい。それまでは、人質としての役目は果たせよ?」
彼は、その言葉を吐き捨てると、部屋を出て行った。 残されたのは、無力な「人質」と、彼を監視する数人のエージェント。そして、電源が入ったままの端末──。
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