Ⅴ-Ⅰ  お困り侍従さん

「あ!紅葉!私のクッキー食べたでしょ!」


 あれ?これ美咲のだったの?


 いや違う!


「いやいや、ここから先は私の領域テリトリーだよ!?」


「嘘言わないで。それはあなたが最初に言ったときの分け方でしょ?その後変わった」


「そんなはずない。ちゃんとさっき決めたじゃん!ここの花の模様から先は私の取り分だって!」


「嘘だー!だってそれはここでしょ?!だから私はここまでしか取ってないじゃん!」


「はあ?そんなわけないでしょ?!だってそしたらお皿半分じゃないじゃん!」


「そんなことないでしょ!?」


「取られるのが嫌なら、もう名前でも書いて起きなさいよ」


 睦月め。一人で皿占領しやがって・・・


 確かに私と美咲で割り勘してだしたからこうなっているんだけどさ・・・


「ほら、私の一個あげるから。これで美咲いいことにして?クレハもここの花の模様?のところから先は美咲のエリアってことでいい?


『・・・異論はないです』


 まあ、でも睦月のおかげで助かった。


 だいぶ前はただのお菓子の取り合いで大喧嘩になった事もあるくらいだから・・・


 私も美咲も食い意地はるからなぁ・・・


「――――睦月って、こういうときほんと頼りになるよね〜。慣れてるの?」


「まぁ、兄弟多いからね〜。食のトラブルなんて日常茶飯事だよ〜」


 私と美咲って弟妹と同類?


 食べ物に関してだけだと信じたい。


 マジでお願いだから。


 東部遠征が終わり、私たちは一度王都に帰還し、そこからミラさんが統治している街“シャルル”に来てから三日が過ぎようとしていた。


 今私と美咲、そして睦月は街の最近評判のケーキ屋に来ていた。


 ケーキを食べ終わりサブで注文していたクッキーで美咲と争っていたが、それより前はちゃんと働いている。


 次の遠征先が決まるまでの間は冒険者みたいなことをしている感じだ。


 今日は近くの家の野良猫が行方不明になっていたのを探す依頼で、お思ったよりも時間がかかってしまった。


 しかし猫探しで1000G・・・


 ちなみに1G100円ぐらいらしい。


 まだ計算しやすくて助かる。


 で、とにかく今は貰った報酬の一部でパーっとおいしいもの食べているわけだ。


 いやー、一仕事した後のお菓子は上手い!


 絶品だ~


「————そういえば、紅葉。この後武器屋見に行くけど一緒行く?今磨いでもらっているレイピアがそろそろ終わるみたい」


「—————んー、暇だしついてくか。私のはまだまだ時間かかるんだろーなー・・・」


「そりゃあんなに使ってたらああはなるでしょ・・・」


 私達が東部遠征で使っていた武器は今この街一番の職人に修理に出してもらっている。その間は代わりの武器を貸してもらっているが、やっぱいつも使っているもののほうが愛着がある。


「————あれ?あの人、何してるんだろ?」


 ん?


 睦月の目線の先を向けてみると、そこには地面にぶっ倒れているメイドの姿があった。しかも道のど真ん中で。


 すごい通行の迷惑になっている。


「あぁ、大丈夫かねぇ?かれこれあの人30分くらいああなっているのよ」


 睦月が注文したクッキーのおかわりを運んできた店のおばさんが困ったように答えた。


 て、30分前から知ってたのに放置かよ。


「手が空いたら様子見に行こうと思っていたんだけど・・・ちょっともしよかったらあんたらあの子拾ってきてもらえるかい?家で面倒見るから」


 まあ先ほどから客は減るどころか、いっこうに増えている。


 しゃーない。


 行きますか。


 美咲も睦月顔を見合わせると頷き、一度店を後にした。



***


 ———ミラン!すごいよ!世界ってこんな広いんだね!————


 

 ミランと呼ばれたメイドの少女は、船の上から神秘的な黄昏を見ている幼き主ヴァローナ 



 ええヴァローナ様。


 その通りです。


 世界はあなたの思う何倍も広いのです。


 あなたさまがまだ見ぬ土地、景色、食————そして出会いを大切にしてください。


 










どうか、血筋に縛られないでください。




***



「————あ、起きた。おばさーん、メイドの人目を覚ましたよ~」


 メイドの人はキョロキョロ辺りを見回していた。


 まあいきなり連れてきちゃったからねー。


「ここはウォーナット菓子店。道のど真ん中で倒れていたけど大丈夫?」


 メイドの人はしばらくぼんやりしていたが、いきなりハッとなって私の肩を掴んだ。


「————ヴァローナ様は?!」


「ば、ばろーな?」


「お願いがあります。この街の騎士団に我が主の捜索を依頼したいのです」


 おっと雲行きが怪しくなってきたぞ・・・?


 これは結局私たちに依頼が回ってくるパターン?


「落ち着いてください。具体的に何があったんですか?」


 美咲助かった。


「すみません。取り乱してしまい・・・私はミランと言います。先日フォティア王国との交流のため、アグア王国から参ったのですが・・・主人であるヴァローナ・アグアが攫われてしまいまして・・・」


 ・・・・・・それは、国際問題なのでは?


 これ、街の警備体制に非がある~ってなってミラさんが責められるパターンかもしれないじゃん!!


「・・・今この街にいるアグア王国からの護衛はあなただけですか?できれば手分けして探すのが一番いいと思うのですが・・・」


 言われてみればそうじゃん。


 この人だけ護衛ってこともないでしょ?


「いえ、主な面々は隣町で待機しております・・・恥ずかしながら、この街に来たのは内密で・・・・・・私が全責任を負います。ですので、どうかヴァローナ様をお助けください!」


 ま、しょうがない。


 ミラさんに迷惑がかかっても嫌だし。


 手伝いますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る