Ⅳ‐Ⅴ 逃げるぞ
「—————逃げるぞクロウ」
俺はこの屋敷から拝借したレイピアで後ろから襲ってきた屋敷の騎士を斬り倒した。
ここまで来るのは大変だったが、屋敷まで来ればこちらのものだった。
運良く大男たちが屋敷から出てきたのが目印となった。
「・・・ここどこか分かってるのか?」
「どこかの貴族の屋敷じゃないのか?」
「・・・あとでバレたらどうなるかわかってんの?!」
いや、だって・・・何かあってからじゃ遅いだろ。
「貴族に喧嘩売ってるようなものだよ?!後で何されるかわかったもんじゃないんだよ?!」
それは、考えなかったわけではなかったが・・・・・・
「まあ、王女がどうにかしてくれるから大丈夫なはず」
「・・・はい?」
「とにかく気にしなくて大丈夫。ただ全部終わったらフォロー頼む」
あんたなにもんなんだとつぶやく
たったひと月ちょっとでここまで戦えるようになるとは・・・
これも女神の力なのだろうか?
しかしクロウも混乱させてしまったな。
あとでしっかり説明してやるか。
それはそうと————
「————あとはお前だけなようだぞ?仮面野郎」
俺は一人、椅子に座って逆さまの本を読んでいる黒ずくめの仮面の男に目を向けた。
「・・・・・・」
あいかわらず黙ったままの黒ずくめの仮面の男だったが、先ほどより動揺しているように見えた。
「・・・誰の命令で動いている?・・・なんていうわけないか」
聞いといてなんだが答えるわけないか。
しかしこの屋敷、本当にどうなっているんだ?
やたら武装した騎士が多いんだが・・・
————けっこう長い間裏で内通してるじゃないか?
フォティア王国も一枚岩ではないらしい。
さて、どうやって情報を吐かさせようか—————
「————見つけたぞ!この侵入者め!」
ん?誰だ?
俺が部屋の入り口を振り返ると、そこには屋敷の主人であろう貴族が立っていた。
あれ?
この貴族、どこかでみたことあるような・・・
「き、貴様は異世界転移者の?!なぜここにいる?!」
ちょっと思い出した。
あれだ。
東部遠征に出る前、国王との謁見式のときにいた貴族の一人だ。
名前は憶えていないが。
「なぜここにいるかと聞いている!貴様、無礼だぞ!私を誰だと思っている?!」
「知らない。ただ一つ言わしてもらうが、子供一人攫うのが高貴なお方のすることなのか?」
「なっ・・・?!」
「やましいことしていないんだったら、ちゃんとすらすらと答えてもらえますよね?自分は嫌ですよ?王女に面倒くさいことを報告しなくちゃならなくなるので」
実際、面倒だから今すぐ見て見ぬ振りしたい。
「・・・っ!おいマスカとやら!話が違うではないか?!この結果どうしてくれよう?!それにあの
「——————そいつぁ、すいませんなぁ」
・・・まさか
途端に背中に強い痛みが走った。
思い切り叩かれたようだ。
ただの拳でここまで痛いとは・・・
油断した。
俺を殴ったのはスキンヘッドの大男だった。
「今までどこで何をしていた?!貴様らには高い金を払っているんだぞ?!」
「もちろん金額分はちゃんと働きますよ。————なぁに、このガキ一匹を始末するだけだ。何も難しい話じゃない」
「ならさっさとしろ!」
「・・・へいへい。てことでガキ、運が悪かったな。死んでもらうぜ—————」
そう簡単に死んでたまるか。
俺はクロウを背中に隠しながら後ずさろうとした。
しかし窓の近くにこうにも、そこには黒ずくめの仮面の男————マスカがいる。
まさに万事休すの状況に近い。
壁を壊して逃げるか?
いや
外は普通に他の貴族の屋敷があるため、下手なことはできない。
今目の前の二人を倒すのは?
不可能だ。
スキンヘッドの男は見た感じ俺と同じくらいの実力で、マスカに関しては未知数だ。
さらに言えば、先ほどスキンヘッドの男から食らった一撃が痛い。
それに彼の手下であろう男たちが戻ってくるかもしれない。
下手な戦闘は避けたい。
—————どうする?
「————こないのか?ならこっちからいかしてもらうぜ!そぉら!」
ロケットのような速さで、拳が俺に向かって振り下ろされた。
俺はすんでのところで苦労を抱えながら回避できたが、今度は後ろからマスカが剣を背中に突き刺してきた。
——————ッ!
「——————おい!おまえ!!」
なんとかクロウを守ることはできた。
しかしもろに短剣を食らってしまった。
まずいな。
このままだと・・・
—————やはり、おまえは失敗作だ—————
違う。
————小鳥遊家の恥さらしめ—————
違う。
————この無能が—————
違う違う違う!!
俺は無能なんかじゃない!!
無能なんかじゃ————
—————この勝ち目ない状況でそんなこといえるのだろうか?
このままでは、
俺が無能じゃないことは証明されない。
俺は、結局——————
「———————【閃光の戦槍】」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
たった数秒で、屋敷が半壊したのだ。
無数の光の槍で。
驚いて顔を上げると、そこには————懐かしい腐れ縁が見下ろしていた。
「————助けに来てあげたよ。感謝しなさい」
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