Ⅳ‐Ⅳ 俺は無能じゃない


——————しくじった。


あの野郎黒ずくめの男、音がしなかった————


 くそがっ!


 なんでだ。


 なんでなんだ。


 確かに気は進まなかったさ。


 それでも手を抜いたつもりはない!


 こんな・・・こんなことも俺はできないのか。


 違う!


 




 ————おそらくこの時、俺の精神は狂っていたのだろう。




 だがこの場には、それを指摘できる人が誰もいなかった。


 睨み合いで牽制し合っていた大男も気が付けば家の物陰から姿を消していた。


 ただ一人、俺だけが残されていた。



 —————こんなこともできないのか?お前は————


 

————お前の父はもっと点数がよかったぞ—————


————お前は小鳥遊家の恥さらしだ————



 やめろ。


 俺は無能なんかじゃない。


 ちゃんと、ちゃんとできるから!


 だから、だからだから見捨てないでくれ!!


 ————お願いだから!



「——————おじい様!」


 ハッと俺は意識が現実に戻ってきた。


 路地裏のため、人が誰もいないのが助かった。


 いったい俺はどれくらいボーっと突っ立っていたのだろうか?


 ———助け出さなくては。 


 俺が無能でないことを証明するために。



***


「—————ほう、これが例のガキか」


「すいやせん。途中トラブルに会いまして・・・」


「————まあいい。しかしこれで俺らの任務は達成される。急いで本国に戻るぞ」


「そりゃないっすよ、お頭~・・・少しくらい観光させてくだせぇ」


 ———クロウと名乗った少年は冷静に辺りを見回した。


 どうやらここはどこかの貴族の屋敷のようだ。


 窓の外を見ると辺りはすっかり暗く、現在地がどこなのかまったくわからなかった。


 クロウを攫った大男たちは、赤いモヒカンの男、蒼いモヒカンの男、黄色の坊主に近い髪型の男、そして———彼らのボスらしいスキンヘッドの男の四人がこの部屋にいた。


 おそらく俺は人質で、何か交渉の材料に使われるのだろう。


 ————嫌な運命さだめだ——————


「———まぁ、少しくらいならいいか。俺も行きたいし・・・よし!じゃあいくかおまえら!」


「よっしゃ!どこいきやすか?やっぱ娼館っすか?」


「馬鹿野郎!まずは飯屋だ!」


「酒が上手いところがいいなぁ」


「今日は俺がおごってやる!今回のもうけは半端じゃねえからな!」


 え?うそだろ?


 俺もしかしてけっこう簡単に逃げられる?


 さすがに手足は縛られているが、、逃げるための能力はかなり身についている。


 ————これあっさり逃げられるんじゃ・・・


「————じゃ、マスカ。後は頼んだぜぇ?」


「わりぃなぁ~?俺らだけいい思いしちまって♪」


「お土産何がいぃ?もっとも覚えてたら、だけどな」


 やっぱりそんな簡単にはいかないらしい。


 クロウの隣には、いつの間にか黒づくめの————仮面をつけた男が立っていた。


 ———こいつ、音もなくいつの間に・・・

 

 仮面の黒ずくめの男はただ何も言わず、たださかさまになった本を読んでいた。


「—————ケッ!やっぱつまんねぇ奴だな」


「まあ、ほっとけ。あんな怪しいやつとつるむよりも酒飲みに行こうぜ」


 そういうと、大男たちは部屋を後にした。


 部屋に取り残されたクロウは仮面の黒ずくめの男の様子をうかがいながら、縛られた縄を解くことができるか試してみた。みたところ、魔法でできそうである。


 ————しかしあの少年は、助けに来てくれるのだろうか。


 無理矢理頼んでしまったため、かなりの罪悪感がクロウにはあった。


 しかし彼はあの助けてくれた少年に違和感を感じた。


 自分と同じ、何かに囚われているような、そんな顔をしていた—————


 ————やっぱり、バルバの言う通り一人で町に出なければよかったな———


 フォティア王国は治安がいいと聞いていたため、大丈夫だろうという考えは甘かった。


 治安がいいと言っても結局は犯罪はある。


 自分クロウは運が悪かっただけ————


 ——————いや


「————おい、仮面野郎」


 仮面の男は顔を本をあげることはなかった。しかしクロウは続けた。


「お前らの雇い主は“アーホルン”か?」


 返事はない。しかしクロウは一瞬ピクリと彼の身体が動いたような気がした。


 そうすれば合点が付く。


 わざわざついてきたのだろうか?


 だとしたらかなりご苦労なことだ。


 そんなことを考えていると、いきなり外が騒がしくなった。


「おい!貴様!どこから入って・・・うわっ!」


 何事だと思っていると次の瞬間、いきなり扉が開いた。


 そこにいたのは、先ほどまで一緒に逃げるのを手伝ってもらっていた青年だった。


「—————迎えに来たぞ。クロウ」

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